8.メカッパ vs リュマ
「あー! 食っちまいやがった!」
吠えながらシルが言った。
チョ・メカブゥを吸い込んだ瓢箪ロボ・オサムはウップとゲップをし、「もう食えねえ」と漏らしてシレッと姿を消した。
「あ、兄貴が……殺られた……」
眉間を押さえ膝をつき、兄ゴルの敵も討てないシルはがっくり肩を落とした。
つれづれ屋の丁髷主人はクラリスたちに感謝した……が、美しき娘はどこか浮かない顔。
「どうなされた娘よ。もう豚の妖械は消えてなくなったぞ」とクラリスがなだめると、
「……いえ。実は私こそ〝ハル〟の生まれ変わりなのです。はるか前世で」
ポカンと固まってしまったクラリスとシル。
「「えーーーーっ!」」
消えてしまったものは仕方ありませんわと娘ハルは微笑んだが、クラリスたちはなんだかバツが悪くなってその場を後にした。
さて、西を目指そう。
山を越え谷を抜け天を見上げ野宿をし、ある日中に大きな川に差しかかった。
〝ジャンクステイツ・リバー〟。
「わあ、水浴びしたーーい!」とクラリスがパクロンから飛び出した時、川の中から襲いかかる魔の手。またも妖械!
「しまった!」と慌てるシル。
その魔手のギラリと光る鋭い爪がクラリスをかすめ、白いスーパーカー・パクロンのボディを斬撃した。
シルが発砲すると妖械は潜り、妖術で水を操って叩きつけた。
水が巨大な手の如く! 圧倒されるシル。
川から姿を現したのはカッパの妖械、サ・メカッパだ。
メカッパの頭部が眩く光を放ち、銃を向けるシルの目・ウルフアイを破壊する。
「うわあ!」
次にメカッパは武器の護手鈎を振るい、刃部をブーメランのように投げつけた。
視力を失ったシルは避けられず胸を斬られ、そこで倒れ力尽きた。
なんとも呆気ない結末。
メカッパは死神の如く不気味にゆらりと歩み寄る。
茂みと岩影に避難し見届けていたクラリスは恐怖でがたがた震えている。
頭部とゴーグルを青く光らせながらメカッパは手をかざし、言った。
「お前が聖・クラリスか。お前の肉を食えば不老不死になると聞く……」
思いっきり首を横に振るクラリス。
「わ、私、マズいから! 偏食だし、く、食えない女で有名ですから!」
「ハッハッ。そうか。生憎、不老不死などに興味はない。メシも胡瓜と水さえあればよい」
「あはははは、そう! じゃ、来ないでよ!」
「俺が用があるのはその車だ。パクロン……いや、竜魔王リュマよ」
メカッパはそう言ってクラリスの傍にいるパクロンに向け、攻撃体勢に入った。
頭部のキャノピーがスライドし銃口を見せたところでパクロンがガチャガチャと変形し始める。
「うわわわわ!」クラリスは逃げ惑った。
パクロンのフロントが高く起き上がり口を開け、サイドもリアも展開して丸く力強い肩・腿・腹と刺々しい手先足先尻尾を形作った。
スケールアップし首を伸ばして咆哮を上げるパクロン=その正体は大妖械・竜の魔王〝リュマ〟だった!
ニヤリと、メカッパが指差した。
「往生際が良すぎるなリュマ。やっとだ。やっとお前を捜し当てた」
リュマにはパクロン時の茶目っ気などなく、低く野太い声で凄む。
「……俺の脇腹を斬りやがって。手加減したのはわかったが、何だメカッパ。俺に用とは? 俺の家来にしてくれってか?」
「これは申し出だ」と言ってメカッパは武器を置き地に膝をついた。
「はあ?」
「頼む。川の上流の武器工場の廃液、なんとかしてくれ」深く、頭を下げる。
「川の民が困っている」
するとリュマの意外な応え。
「……いいだろう」
「ほ、本当か?」
「ただし条件がある」
「条件……」
リュマは顎をさすりながら頷き、腕組みをして言った。
「ソン・メカモンを呼べ。仲間だろう。奴をここに連れてこい」
「ソン……て、あの伝説の暴れ猿か?」
「そうよ。俺の城を荒らしニョイバーも奪ったクソ猿のことよ。さあ連れてこい」
「知らんな。まだ出会ってもいない」
「嘘をつくな。お前らの仲は知っている。お前らの絆ってものも。なあメカッパよ、何を隠してる?」
「……俺は何も知らん」
「そうか。じゃあお前に用はない。消えろ」
見上げたメカッパの頭はリュマの口から吐き出されたプラズマ波動砲で一瞬にして吹き飛ばされた……。