7.ゴル&シル vs メカブゥ
聖・クラリスはバタンとドアを閉めパクロンのキーを回した。
両サイドに二体の巨体妖械ゴルとシルを従えた彼女は勢いよく声をあげた。
「さあ、行くよお前たち!」
「「ははっ。いざ、天磁空へ!」」
また旅が始まった。
西を目指してGO WEST!。
この勇姿を見よ皆の者。実に頼もしいではないかとクラリスはご満悦。
妖械とはいえきっとこれはシャカリナが遣わした正義のボディガード妖械。
これでもう怖いものはない。
これまでやたらトバして来たが、異様な奇界・ジャンクステイツにびびって早く抜け出したかったからで、これからは制限速度でぼちぼち行こうと、クラリスは鼻歌交じりにハンドルを握った。
――んん。でもやっぱり、どこか違和感。これでいいのかしら……。
「ダンガ〜ラ♪ ダンガァ〜〜ラ♪」
クラリスの歌声がマルチイヤーから電子頭脳に響く。
古いな……とゴルは苦笑い。
シルも、まじこの女いくつだと首をひねった。
「ちょっとお前たちぃー。これ私のお父さんお母さんが好きだったの。確かにかーなーり大昔の歌だけど。私がまだお腹の中にいる頃から、体響で染みついてるのよ」
こいつぁ地獄耳子だ気をつけろとゴルが念話でシルに伝えたのも即座にバレた。
なんて女だ怖……と相槌打ったのも。
「私はこう見えても高僧よ。心の声も聞こえるわ」
行く手に広がる荒野。
見渡す三百六十度、ゴルとシルの耳に入ったのは風の唸る声と大きな腹の虫の音だった。
ゴルが気遣った。
「クラリス様、お腹が空いておられるようで」
「にゃはは、聞こえた? そう、そうなのよー、もう非常食のカラリーメイトけっこう激辛で食べらんない。実はずっと空いてるの」
「そろそろ陽が落ちる。どこかで宿を借り、しっかり飯を食いましょう」
「美味しいものと癒しの宿。そうだパクロンにググってもらおう」と、クラリスはセンターパネルをタッチした。
「頼むわよパクロンちゃん」
《――あいよ〜。……え〜と、このまま真っ直ぐ十キロほど行って左手にそれなりのトコがある――》
****
およそ一万のメカニマルズ民が暮らすそれなりの温泉の都〝スプリングシティ〟。
行き交う観光客と商売人ロボの間を縫ってクラリス一行は目的の民宿の前にたどり着いた。
〝旅ナビ・ジャランドゥ〟で星五つの一番人気宿は純和風の優雅な屋敷構え〝つれづれ屋〟だ。
パクロンを降りウキウキと暖簾をくぐるクラリスに、
「いらっしゃいませ」と宿の主人ロボは虚ろな顔と萎えた丁髷で覇気がない。
「どうなされたご主人殿。具合でも悪いのか」
「あ、いえいえ、これはこれは申し訳ありませぬお坊さま。さ、こちらへ」
ゴルとシルも縮小しクラリスほどの背丈になり共に廊下を。
「コッチニキヤガレ・イラッシャイ」
おかしな言葉遣いの旧式イモ掘り用ロボ似の男衆が荷物を運ぶ。
行くと、何やらしくしくと泣き声が聞こえる。
クラリスが主人に訊ねると、
「……実は、娘を嫁に出さねばなりませぬ」と潤んだ目で丁髷主人は答えた。
「なんと。めでたい話……ではないのだな。とてもそのようには見えぬ……はて、どのような内情」
「実は、豚の妖械に迫られてるのでございます」
「ぶ、豚ぁ?」
「はい……娘を差し出さねばこの宿を潰すと。今この町ではそやつの脅迫で幾つも店を潰されて。私の娘はこの店を救うため、私らを救うために身を捧げると申しておるのです。あ、ああなんとも胸が痛む……」
ゴルとシルが一歩踏み出す。
「そやつはもしやチョ・メカブゥでは?」
「そ、その通り。やはりご存知か。さぞや悪名高き妖械。ああ恐ろしや……」
クラリスに言われ主人は娘を表へ。
可憐なうら若き乙女と対面すると、クラリスは拳を握りしめ、豚の妖械退治にいきり立った。
「あたしが娘に扮して迎え討つ! ゴルシル、援護を頼むぞ」
****
丑三つ時、ゴロンゴロンと転がって辺りを押し潰しながら巨大な鉄球がつれづれ屋の宿前に止まる。
豚の顔を模した球体から手足が伸び、妖械チョ・メカブゥが姿を現した。
メカブゥは門の前に横たわる娘を見下ろして言った。
「……そなたはハルの生まれ変わりか?」
「……は? え、何?」
「わからぬのならさらってゆく」
「ハルって誰よ」
「俺を真に愛してくれた女だ。探しておるのだ。ずっと」
「ずっとって……どれくらい?」
「はるか昔……もうわからんほどの昔だ。俺を愛してくれた分、当たり前に愛してあげたいのだ」
「……え? そ、それってなんて、ロマンチック!」
横たわる娘――クラリスは感極まった。
純情型はストレートに感動したのだ。
「む、娘よ。何ゆえ泣くか」
そこで奇襲に及ぶゴルとシル!
娘を見つめじっとり固まったメカブゥにシルが銃撃、スケールアップしてゴルが大刀でメカブゥの頭に斬りかかった。
「何だ、貴様ら!」
釘鈀で迎えうつメカブゥ。漲る腕力は五分と五分。
メカブゥの超厚装甲ボディがシルの弾丸を跳ね返す。
睨み合う豚と獅子そして狼の妖械。
そこでヒョウタンマンがテレポートで沸いて出てきてゴルとシルに言い放つ。
「このメカブゥは俺が食う!」
「なんと!」
勝負を邪魔するなとゴルがヒョウタンマンに憤怒しながら口から衝撃波を放ちメカブゥを突き離した。
しかしよろけながらもメカブゥが腹の穴二つから放った必殺グラビトン光球がゴルを包み込む。
ピンクに輝く球体は巨大に膨張し、その中で、ゴルは圧死した。
なんとも呆気ない結末。
「ゴルーーッ!」
シルが叫ぶその隙にヒョウタンマンがメカブゥの名を呼んだ。
「おーーい、チョ・メカブゥやーーい!」
地に足をめり込ませながらメカブゥが応える。
「なんだあああ?!」
吸い込まれてゆくメカブゥ。
轟々と音を立て、メカブゥは大きく口を開けたヒョウタンマンの胃袋の中に……。
◾️ヒョウタンマン(名前はオサム)