6.ヘヴィー・メカニョロ
ジャンクステイツのスラム街。
そこは〝ニョロ・ロードサービス〟のカードック。
薄暗いガレージでパクロンの特殊タイヤを交換するのはキャスケット帽に四角眼鏡のおっちゃん。
つるんとシンプルな、界隈ではありきたりなフォルムの人型機械生命体。
合うタイヤは積んでねえとレッカー移動してもらってここまで。
助けてもらったクラリスは感謝感激で頭を下げた。
「本当ありがとう、おっちゃん。助かった〜」
「……ああ」
「おっちゃんどこか私のお父さんに似てるの。だから余計に嬉しくて。本当にありがと」
どうやらおっちゃんはロードサービスの責任者のようだ。
ガラクタひしめくスラム街のはずれに工場を構えている。
最後のボルトを締めるとおっちゃんはフンと鼻息を噴射した。
車屋は腕利きほど愛想が悪い気もするが、おっちゃんの睥睨は強烈だった。
作業が終わり、クラリスは恐る恐る訊いてみた。
先ほどから妙な胸騒ぎがしていた。
「……おっちゃんて、まさか妖械?」
「……なんやぁ、さっきからおっちゃんおっちゃん言うてからに。あんたより年下ぞ」
「え?」
「あんたホントは三十過ぎとるやろ」
おっちゃんは蛇のような小っちゃな目で眼鏡越しにしらーっと見つめる。
クラリスは口を尖らせた。
「な、何よ失礼な! この見た目をどうしてそんな……あ、あなた目が悪いでしょ」
おっちゃんはしゃがみ込んだままシケモクを一服、スーパーカー・パクロンのボディを撫でながら言う。
「しかしいい車や。やっぱ天界仕様は違うなぁ。こいつも頂くとしよう」
唖然。クラリスは拳を握って立ち上がった。
――やっぱりおかしいこのおっちゃん……舌なんかペロペロ出したりして。私より年下? 嘘でしょ……あ、今度は立ってまたこっちを睨んでるし!
「おい。……クラリス! 察しの通り俺は妖械や。凶悪な妖械やで!」
顔面蒼白、クラリス。
おっちゃんは四角眼鏡を捨て、三角形のトンがったサングラスにかけ直す。
「ハーッハッハ! お前を食うために来たんや!」
「ひ! ひえーーーーっ!」
「そうや、お前の記憶にある父親のイメージを借りて近づいたんや」
おっちゃんはワァッ! っとクラリスに襲いかかった。
帽子が脱げたその頭はウロコのモールドを露わにし、変形した顔はもうお父さんには似ても似つかず、長く伸ばしたボディに手足を組み込み、トグロを巻いて身構えた。
「おっちゃん怖いわー!」
硬直してクラリスはお口あんぐり。
「あーもういいかげん名のってやるで! 俺はヘヴィー・メカニョロ! メカ蛇族の猛者よ。サン・クラリス、お前の肉を食らい、俺は不老不死の力を得るんや!」
その時だった!
ガラクタスラム街道を音を立てて駆け込み、ニョロガレージを斬り裂く刃、黄金の剣が煌めいた。
「ゴル参上ーーっ!」
それは金の獅子ゴル。
「え?」メカニョロは身を屈めた。
さらに後方から撃ち込まれる銀の弾丸。
「ちょ、ちょっと待てコラァ」と慌てるメカニョロ。
「シル参上ーーっ!」
迫る二体の巨体猛獣メカニマルズ。
声を張り上げ現れたゴルとシル兄弟はヘヴィー・メカニョロの前に立ちはだかった。
クラリスを背に、狼のメカニマルズ・シルが言う。
「大丈夫かクラリス!」
「は、……え、ええ。大丈夫」
ゴルもクラリスの肩を撫でる。
「我々が来たからにはもうーー」
「ちょ、ちょっと待てお前ら」とメカニョロが体内に収納したお手手を出して制した。
「何なんや、お前らが登場してどうするん、ここに登場すんのはメカモンかメカブゥ、それかメカッパやろ」
ゴルの振りかざした剣がメカニョロを襲う。
すかさずよけ、メカニョロはシルとの間合いもとった。
ゴルは指を差して言った。
「ヘヴィー・メカニョロよ。……いずれにしても、お前はヤラレ役だ」
「……く、くそ。なめんな」
シルも中指を立て、銃を構えた。
ぐるりと尻尾をうねらせ、シルに叩きつけるメカニョロ。
しかしシルはよけ、引き金を引く前にゴルがその尻尾を両断した。
「うぐっ!」
クラリスの目の前にゴロンと転がるメカニョロの青い尻尾。
眼前大迫力の戦闘シーンにクラリスは腰を抜かした。
さらにシルがトドメをさすためあれを呼びつける。
「オサムーーッ!」
テレポートで現れたオサム・ヒョウタンマンは標的の名を呼んだ。
「おいメカニョロー! ヘヴィー・メカニョロよーーい!」
「はあ? なんだあ?!」
すると風が唸りメカニョロの周りにドス黒い雲が渦巻いた。
それを口を大きく開けたオサムがぐるぐると吸い込んでゆく!
「うわああああああっ!!」
そう、メカニョロは一瞬にしてオサムに食われてしまった。
……ウプッとオサムはゲップをする。
名を呼んで返事をした者を食らうという、そのあまりの早技と惨さにゴルとシルは冷や汗をかいた。
――こ、こいつを怒らしちゃいけねえ……と。
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「ゴル、シルよ。このメカニョロやっぱ小者で不味いわ」
オサム談。