2.ソン・メカモン
機械生命体メカニマルズでも妖術を使う者は〝妖械〟とカテゴライズされる。
摩訶不思議な力を持つ彼らは恐れられ、否応なしに悪のレッテルを貼られた。
ある闇夜、メカモン山と呼ばれる山に〝ソン〟は生まれた。
超合金属の卵から産まれたメカ猿、ソン・メカモン。
銀色の頭に真っ赤なボディ、青い目、超鋼武装したスーパーモンキー。
彼は生まれながらの妖械で、腕力も知恵も勇気も群を抜いており僅か一日でメカモン山の王となった。
ソン・メカモンはさらなる強さを求め大陸を目指し戦いに明け暮れ、ついにはジャンクステイツの征服に乗り出す。
小柄な体躯からは想像できないほどのパワーと、戦いの中で極めた〝モンキーマジック〟で、奇界一といわれた陸の猛者〝牛の妖械〟牛魔王ギュマをもねじ伏せた。
懐の広いギュマは一本気で子供のようにやんちゃなソンを不思議と気に入った。
友の盃を交わし、ソンに雲の乗り物クラウダーを授けた。
海の猛者〝竜の妖械〟竜魔王リュマもソンには敵わず、宝を奪われた。
その宝とは天地も斬り裂くといわれた伝説の超武器ニョイバーである。
湧き立つパワーを持て余すソン・メカモン。
調子づいてさらなる上を目指そうとする。
ある時ギュマ宮殿の中庭で寝っころびながらギュマに訊いた。
「なあギュマよ。いっちばーん強いやつって誰や? そう、この世で一番強いやつよ」
リクライニングチェアで伸びながらギュマは答える。
「この前までは俺のつもりだったが、今はお前かのぅ」
「にゃはー! だろ? そうやそうやワイしかおらんで……って。嘘言うんじゃねえ。おべっか言うでねえ」
「……うむ。……そう、一番強いのは」
でもこれを言っていいものかとギュマは悩んだ。
なんとなく、嫌な予感がしたのだ。
「言えギュマ正直に。でないとお前の心を読んで好きに操るぞ。あのプリチィなメイドのウシコさんにのぼせてんの、ラセツにバラすからな」
ソンは小声で言い、宮殿内でのんびりテレビを観ているギュマの妻ラセツにちら〜と視線を投げた。
ソファに足を上げながらテレビを観ているラセツはソンに中指を立てる。
ーー怖。
ギュマは空を掻き消しながら観念した。
「もー! わかった! 言う、言うよ。それはシャカリナだ」
「ん? シャカリナ?」
それは天界にいると聞いた途端、ソンはニヤリと耳から抜き出したニョイバーを地面に突っ立て、確と掴んだまま天空を睨み、妖気レーダーを張った。
すると魔法の鉄の棒ニョイバーはギュンギュン伸び、天界神シャカリナの面前までソンを一気に押し上げた。
「よーーう! お前がシャカリナかぁー?」
ソンの電子頭脳にインプットされていた通り、黄金の巨人が雲の上で胡座をかいていた。
その周りでは小型の瓢箪型ロボットが何体も旋回している。シャカリナを護るように。
ずっと目を閉じ、知らんぷりでいる天界の巨神。
シカトかよと苛立ったソンは指先から炎を放った。
妖術〝チャッカマンドリル〟――全身着火、鼻っ面を赤青白色にチャージアップ――でシャカリナの顔を炙りに行く。
回転火柱となったソン、瓢箪ロボ数体を焼き払う。
聳えるシャカリナが目を開けたかと思うと、吐き出された鼻息で吹き返され、ソンは慌てて身を制した。
剥がされた炎が界下へ散ってゆく。
「噂どおりのやんちゃ坊主だなおぬし」
シャカリナの一瞥。
ソンは呼び寄せたクラウダーに乗りシャカリナの眼前でニョイバーを振り回す。
そして赤い尻を出してぺんぺんと、シャカリナを煽った。
「デカいからって全っ然怖くないんですけど! へへ〜〜ん、さあ、ワイと勝負や!」
瞬間、ソンはシャカリナに指でピン! と弾かれた。
それから何百キロ何万キロ飛ばされただろうか、意識朦朧とすがりついた先にあった鉄の柱――あー! 助かったあー、こんな所によくぞ立っててくれた柱、五本の柱よ――。
だがしかしそれはシャカリナの指。
五本の指はソンをじわじわと包み封じ込める。
ミクロの術が通じない。ソンは焦った。
「あっれ〜? くっそ〜〜!」
「しばらくおとなしくしておられよ、ソン」
ソンがはっと気づくと、巨大な鉄球が迫っているのが指の隙間から見えた。
鉄球は鯨のように口を開け、ソンを飲み込んだ。と同時にシャカリナの指は消えた。
「しばらくそうしておられよ」
「出せー! シャカリナー!」
「この世界を作った、ジャンクステイツを創った私に敵うはずはないんですけど〜」
ふふんとシャカリナは慢心。我最強とガッツポーズ。
「……うー。わかったー! だから出せー!」
「だめー」
鉄球の中で暴れるソン。
その時ソンが鉄球の閉じた口に僅かにニョイバーを咬まし決死の術を放ったのを、シャカリナは気づかなかった。
「おぬしの暴れっぷりの影で泣く者もいた。リュマもコレクションの武器を奪われたとな。クレームの嵐じゃったわ。しばらく反省しんしゃい」
やがてソンを封じた鉄の玉は突如現れた巨大なドラゴンに飲み込まれた……。




