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3話 犯人


 授業をブッチした勢いのまま、再び家を出ようとした私は、衝撃の事実を思い出してしまった。

 私は本来なら、学校で授業を受けている。それなのに、学校に戻るどころか外出しようとしている。……おかしい。友達ができて意味不明な行動をとっている気がする。


 私は平穏に暮らしていくことが運命だと思っていた。この世界、様々な要因によって簡単に数千人以上の単位で人が動き、喚き、亡くなっている。だからこそ、何よりも平穏を享受していきたいと信条があった。不幸な死に方だとか、不幸な目に合わず、とにかくにも平和に穏やかにこの日常という名の幸せを享受する。そう決めていた。ここ五年程度の決心ではあった。


「どうしたの江良ちゃん。早く一緒に犯人を捕まえようよ」


「ちょっとだけ待って」


 考えたい。

 このまま日常を崩して解々(ばらばら)にしていいのか。

 両親は、私に何不自由なく高校に通わせていて、恐らく金銭的面からも大学には行けるし、最悪私がニートになっても暮らせるだけのお金があることも知っている。だからといって学校をサボタージュするのは心が痛む。たとえ一日でもそれは変わらない。今から学校に行って、担任の先生と一限目の先生に説教を喰らえばサボタージュにはならない。慌てるほどじゃない。今から授業に参加すれば、日常は捨てずにすむ。

 だけれど、犯人の手掛かりは今追わないといけない気もする。今日じゃないと手掛かりがなくなるかもしれない。授業を受ければこの機会を逃してしまうと思う。あくまで直感ではあるけれど、この直感は大事にしたい。

 弥生に質問するか。


「弥生。今日行動しないと何かマズかったりする?」


「んー。私はいつでもいいけど、江良ちゃんは困るかもね。私は江良ちゃんに憑いているわけで、その姿を相手に見られてしまう。つまり、私がいることがバレれば、江良ちゃんも嫌がらせを受けてしまうかもね」


 そうだった。幽霊を使った嫌がらせ。幽霊が見える私でもその理不尽は嫌だ。むしろ見える分、余計に恐怖が付きまとい、SAN値も急降下する。自殺しかねないくらいのヤバさはある。

 やはり先手を打つのがベストだ。犯人は弥生が死んだのを今知ったくらいだと思う。相手も動かざるを得ない。ストーカーしている相手が自殺したんだから、嫌が応にでも弥生の姿を確認するに決まってる。そこを叩くなら、今日であり、今からしかない。両親には申し訳ないけれど、一日で終わるはずだから、若気の至りとして許してほしい。


「分かった。授業はブッチして犯人を探そう」



*****



 犯人を探す。これはかなり難しい。警察官が犯人だと分かっているのはまだいいけれど、それ以上の情報がなければ捜索するのは難しい。男らしいと弥生から聞いた。それでも女の警察官なんてほとんどいないわけだから、イマイチな情報だ。情報零よりは幾分マシだけれど。

 私はそれらの情報、またそれ以前の弥生の情報から考えて、警察署に行くのは一先ずやめた。理由は簡単。弥生が自殺したのは学校。これは犯人に取って予想外。私はそう考えている。

 予想外は焦りを生む。焦りに焦った犯人はきっと学校で弥生が本当に死んだのか確認する。つまり、犯人は再び犯行現場に現れる。


 そんなこんなで学校に戻ってきた。自転車でここまで戻ってきたけれど、弥生も同じ速度でついて――憑いて(?)きたので、そこまで苦じゃなかった。

 授業に参加しないで学校に来る背徳感よ。多少の興奮は覚えたけれど、このためだけに授業をブッチするのは割に合わない。今回は犯人を捜すためだけれど。

 私たちは正面玄関ではなく、学校のフェンスの外側にある茂みに隠れる。

 弥生が死んだ場所を見る。警察官たちがいた。十人程度。数は多いのか少ないのか分からないけれど、自殺だからこのくらいはいるのか。救急隊員の姿も見かけたけれど、警察官のほうが数では勝る。


「あの中に犯人がいる?」


 思わずつぶやいてしまう。


「どうだろ……。この警察官は要請されて来ているわけだから、必ずしも来ているわけじゃないよ。たとえここに行きたくとも別件があれば、そっちに向かうかもよ」


「それじゃあ、ここまで来たのは無駄足か」


「そうじゃないよ、多分だけど。江良ちゃんのいう『犯人は再び犯行現場』に来るのは変わらない。彼らが去った後でも犯人は来るよ。何せ、遺体で死んだ確認するんじゃなくて、幽霊になった私がいるか確認するからね」


「それなら遺体が処理された後でも見張るのが得策なのかな――」


 私はその言葉の最後を言わず、口を閉じた。

 壮絶な圧を感じる。

 日常を過ごしているうちでもこの状況は合ったけれど、段違い。感情がどこかで爆発している感覚。私ではなく、弥生でもなく、別の誰かの感情が私にまで伝わるくらい、その感情はダダもれだった。

 その感情のするほうを向く。いた。人がいた。彼は警察官の服装ではない。私服。痩せぎすに見える。目元のクマは酷く、苦労人にだと思える。五月の昼前、暑いにも関わらず、片手をポケットに入れ、もう片方の手では煙草を持っていて――今落とした。それほど彼は衝撃的だったのかもしれない。ただその表情だけでは犯人(ストーカー)とは思わなかった。何よりも決定的な証拠。それは彼が幽霊を複数連れていること。何よりその中には弥生と初めて出会う直前に目視した幽霊もいた。

 私たちは突き止めた。彼が犯人(ストーカー)だ。

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