美しい、男。①
関西弁・同性愛描写が苦手な方はお戻りください。
「あ、イケメン見つけた」
私の呟きはとても小さかったはずだけれど、それすらのがさまいと、寺森は隣で大袈裟に溜息をついた。
「なんやの」
何か言いたいことでもあるのかと、むっとした様子を隠さず、私は隣の男を下から睨んでみせる。
昼休みの校舎は渡り廊下も中庭も教室も、それぞれが賑やかで、それでいて自由だ。
あたしの視線の先には他のクラスの男の子が一人で窓の外をぼんやりと眺めていて、それがやけに「絵になって」いた。
黒髪の、美しい、見目の良い、男。
「寺森が何を言いたいかはわかる」
「わかってるんならいいけど…。咲子のイケメンレーダーはハンパないな…」
「安心して。てらもっちゃん、あんたもイケメンやで」
星を飛ばす勢いでウインクしてやったが「いらんわ、咲子の称賛なんか」と悪態がやってきた。
咲子なんか、とは何様だ。
むかついたので、寺森の背中をドンと押した。
目の前は階段で。すんでのところで足を滑らせかけた寺森は「殺す気か」と私を睨む。
「身体能力高いから、こんなことくらいでは死なんやろ?」
「16歳で死んでたまるか!」
「そんな人生もアリやで、寺森」
「ナシや!」
これは、
今から20年前くらいの私の記憶。
中学生という殻を脱いで、高校生になった子どもたちは、やっぱり少しばかり背伸びしていて。
柔軟な年頃ゆえに、ちょっと大人びて、けれど大人になりきれなくてもがいている。
16歳という情緒も身体も何もかもが不安定な私達にとって、見上げる空は教室の窓枠に切り取られたせまい空でしかなく、世界も大して広くはなかった。
15歳と16歳の端境期には決定的に違う「ナニか」があって、
私はその正体がなんなのかわからなくなって困惑したくらいだった。
そんなときに、
出会ったのが、
美しい男たち。
広田由樹と、それから松永謙一いう、男だった。