交信
誰かの憩いに少しでもなればと思います
真っ暗な宇宙にポツンと浮かぶ惑星がある。そこは文明が進んでいて、地球人の学者が頻繁に訪れる。
今日もひとりの地球人学者が新しい技術を手に入れようと遠路はるばるやってきた。
「やあ地球人、どうしたんだい」
「実は困ったことがあってね。天気を知りたいのさ」
「天気?地球のかい」
「ああそうさ。ここ数年で気候が年中通して予想することが難しくなってしまったんだ」
「それはそうさ、あれだけ無駄なエネルギーを消費しているのだから。それで君は何が望みなのさ」
大きな研究所に誘導されながら地球人はついに切り出した。
「天気予報のシミュレーションができる機械が欲しいのさ」
「それなら話は簡単だ。地球そっくりの星を作って観察すればいい」
「でもそれはとてもお金がかかるだろう」
地球人の意見はもっともだった。
「では手だてはないな。いや待てよ、コンピューターを使うのはどうだろう。私が開発したソフトを送信しよう、安くすむ」
地球人が送られてきたソフトを開くと、天気予報シミュレーターはすぐに起動した。性能は素晴らしく、過去のデーターをインプットすると、実際に起きた嵐や冷夏を弾き出した。
そこで未来の天気をシミュレートすることにした。しかしうまく動かない。原因究明のために電話してみることにした。
「ソフトはとてもいい。だがなぜか未来の天気を当てられない」
「答えは単純さ、未来の天気を予測してフィッティングするのだから、ある程度君たちで事前に検討をつけなければいけないのさ」
「それでは折角シミュレーターを送ってもらった意味がないじゃないか」
「そう言われても、目的がはっきりしていなければシミュレーターは収束に向かわないよ」
言葉に窮した地球人は仕方なくシミュレーターの電源を落とした。
「文明の進んだ星の装置でも駄目さ」
目の前の世界環境責任者に地球人学者は告げた。
「そうでしたか。シミュレーションができないということはつまり、我々の予想を遥かに越えた現象が襲うとも言い換えられますね」
「そうさ、そこで世界環境責任者の君に頼みがある。ボクがシミュレーターと格闘する間に、森を増やしたり、ゴミを減らしたりして欲しい」
「もちろん協力しよう」
それから地球人学者はあらゆる未知の天候を想像しながらシミュレーションしていった。
一方で環境責任者は、全人類に警告を発令し、環境改善に取りかかった。十年、百年と時は流れ、学者も責任者も代替わりした。
「やあ新しい学者さん、調子はどうだい」
宇宙人から連絡があった。
「丁度吉報を伝えようと思っていたところだよ。ボクは計算が苦手だから、過去に前任者が試したシミュレーションをもう一度検討したんだ」
「それでどうなったのさ」
「なんとシミュレーターが作動して、予報できたのさ。でも悲報もある。その天気というのが人の生存できない大気だったのだ」
頭を抱えて落ち込む新しい学者は続けて言う。
「でも今までどんなにシミュレートしても駄目だったのになあ。同じデータをフィッティングしたのに初めて上手くいったんだよ」
「それはきっと環境責任者が働きかけたことで人類の保全意識が高まったからじゃないのかい」
「それはどういう意味さ」
「予測できる天候にフィッティングできたことは、つまり人類が想像できる程度の未来に軌道修正されたってことさ」
「環境活動がより促進されれば未来を変えられるってことか」
「その通りさ」
学者はさっきまでとは一転して元気を取り戻し、新しい環境責任者に報告するため部屋を後にした。
「お前が作製したシミュレーターのことで質問がある」
「いいとも。どうかしたのか」
宇宙研究所に戻った宇宙人は仲間に声をかけられた。
「百年くらい使っていたのだが、オーバーヒートしてしまった」
「では修理しよう」
「そうしてもらいたいがやめておいた方がいい。シミュレーターに内蔵された電子部品が溶けてガスが止めどなく出ている」
「それはまずいな。あの部品の素材はこの星をまるごと溶かすくらいの猛毒だ。迂闊に近づけない、そっとしておこう」
二人の宇宙人は研究所のドアを堅く閉ざし、しばらく別の星に移住することにした。
宇宙船に乗って出発して間もなく、船窓からの景色を見ていた仲間が声を張り上げた。
「おい見てみろ、新しい惑星を発見したぞ」
「どれどれ。あれは興味深いな、余りにどす黒いせいで目立たなかったのかもしれない」
黒く煤けた星を見送って宇宙船は次なる銀河へ飛び去った。
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