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刻印の継承者 その7  作者: 神野 碧
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封印帝国

目の前に立つ男を、玉座に座ったザグレスの王は、苛立ちを露わにして見据えていた。

「計画の遂行はいつになるのだ」

 神経質そうに玉座の肘掛を指で叩きながら質する王に、男は、

「今宵、いにしえの力を解放いたします」

 きっぱりとした男の答えに、王は安心したように指の動きを止め、満足げに頷く。

「今宵、ザグレスの積年の願いが叶うのだな」

 うっすらと笑む王を見据える男の表情は、闇に浮かぶ能面のように冷たい色彩を放っていた。

 男の冷ややかな表情に、王は、喉の奥で咀嚼していた笑みを呑み、

「何を、考えている?」

 不審を滲ませた王の問いにも、表情にいささかの変化も示さず、男は、

「私は闇の魔王様の意思の代弁者として、陛下の望みを叶えるべく召喚されたのです。魔王様の意思に則り、陛下の望みを叶えるよう行動するだけです。ただし……」

「ただし、とは?」

「闇の意思は唯一無二ではありません。時に、人の心の中に相反する感情、意思が存在するように」

「我の願いが叶わぬというのか」

 不審を募らせた王の声は尖っている。

 王の問いに直接は答えず、男は、

「人の普遍的な願いとは何なのでしょうね」

「平和、安定を望まず、これから騒乱を起こそうとしている我の願いは邪だと?」

「いいえ。むしろそれは本質の願いに通じるものです。人が争いを起こすのは平和と安定を得るため。和平を願うことの裏側に争いが生じるのです」

「わけのわからぬ問答はよい! 我は、失われたザグレス帝国の威光を復活させることが望み、それだけだ」

 男は薄い笑みを浮かべると、懐から一枚のコインを取り出し、掌の上で軽く放る。一瞬宙に浮いたコインが再び掌に収まると、もう一方の掌を重ねる。ありふれたコイントスの動作。

 王の唇が何かを言いたげに動くのを制するように男は、

「単なる験担ぎです、気になさらず」

 掌に収まったコインの目を確認すると静かに頷き、王に向かって無造作にコインを放る。反射的にコインを受け止め、王が男に視線を戻した時には、男の後ろ姿がゆっくり視界から遠ざかるところだった。




 吹き抜けになった大広間の回廊を、気配が移動して行く。階下のホールを俯瞰できるテラスで、気配は静止する。

 宵闇に塗られたホールの床を舐めるように、松明の炎がうごめいている。ホールの上手側は幅の広い雛段状になっていて、最上段には、装飾が施された荘厳な扉が行く手を塞いでいる。扉を挟むようにして、ひな壇の両脇に一人づつ衛兵が控えている。

「あの奥が総本山のようね」

「ですね」

 互いの姿が見えぬまま、囁き声が交わされる。

「さて、どうしたものかしらね」

 透明な皮膜の中からのナディの声が響く。

 姿が見えないとはいえ、衛兵に見張られた扉を開けなければ中には入れない。

「裏口とか、ないのかな」

 ナディと同様に、透明な皮膜で姿を隠したライナが囁いた、その時。

 松明の炎がひときわ大きく揺れ、天窓からの光がホールの床を藍色に染める。

 その明るさに、ナディとライナは危険の予兆を感じ取っていた。次の瞬間、正面の扉が音もなく開き、扉の中から人影がゆっくりと現れる。

 姿を現した人物に、ナディとライナは皮膜の中で竦みあがる。扉から現れた男は、じろりとホールの周囲を見渡す。その視線が、ナディたちのいるテラスをぴたりと捉える。姿を消すコートを纏ってはいるが、現れた男は、小手先だけの誤魔化しなど通用する相手ではない。

「どうか、されましたか?」

 男の視線に気づいた衛兵が訝りの声を上げる。

「何でもない、気にするな」

 衛兵の声をさらりとかわして、男はひな壇を降りて真っ直ぐに歩を進めていた。

自分たちの存在が相手に見つかったと観念したナディたちは、衛兵の目からだけでも自分たちの存在を隠そうと、透明の被膜を纏ったままテラスからそろりと移動し、男の姿を正面に見据えて、回廊からホールに続く幅の広い階段をゆっくりと降りて行く。

ナディたちと、ティアをさらって行った男との距離が少しづつ縮まってゆく。互いに存在を認識しているのであれば、正面から立ち向かって相手の出方を窺おうと、ナディたちは歩を止めて男を待ち構えていた。

 ナディたちの手が届くくらいの距離まで近づくと、男は一瞬足を止めてナディたちのいる空間を避けるように水平方向に移動し、何事もないかのように歩を進めていた。それは、男の無言の挑発のようだった。挑発に否応なく乗せられて、ナディたちは、そろりと男の後ろ姿を追いかけていた。

 ナディたちが降りて来た階段を昇り、男はテラス沿いに歩いて行く。突き当りの壁際で歩を止めると、くるりと向きを変えて、ナディたちを待ち構えるように、仁王立ちになっていた。

 そこは、衛兵たちが立つ位置の真裏で、死角になっている場所だ。今さら姿を隠すこともないと、ナディとライナは、皮膜のコートを剥ぎ取って男と対峙していた。

「こ、ここで会ったが百年目、です、今度は逃がしませんよ」

 ライナの台詞を鼻で笑うように、男は、

「今宵がおまえたちも運の尽きだ。ザグレスの積年の怨恨を思い知るがいい」

「今宵に《いにしえの力》を解放すると?」

 ナディの声は強張っている。

「いかにも。これは闇の力の意思、阻止できるものならやってみろ」

 数舜の沈黙。ナディとライナの額を、冷たい滴が伝う。

「ティアは、どこにいるの」

 かろうじて絞り出されたナディの問いに、男はにやりとして、

「案ずるな、すぐに会わせてやる。《いにしえの力》解放の瞬間に立ち会うためにな」

「ティアが……力の解放者なのね」

 ナディの声は苦渋で掠れていた。既にそれは分かり切っていたことだ。けれど、認めたくなかった。発した問いは、ティアが力の解放者ではないという一縷の望みを、自らの手で断つためだった。

「ティアさんに力の解放なんてさせない、わたしたちは、ティアさんを、キルギアを救って見せる!」

 青ざめたライナの声が重なる。

 もはや猶予はない。男がティアと接触できる機会を提示したのなら、そこで決着をつけるしかないのだ。

 と、男の視線がつとナディたちから離れて斜め上方に向けられる。無意識に追いかけたナディたちの視線の先に映ったのは。

 突き当りの壁の隅を這うように設けられた質素な螺旋階段の中段に立つ人物。

「ガーヴ!」

「やはり、来たか」

 表情を変えることなく、男は低く呟く。

 ガーヴは、軽やかに踊り場の柵を乗り越えて、床に向かってダイブしていた。宙に舞ったガーヴの体は、鮮やかにしなってナディとライナ、男の間に着地する。

「いざ、決着を」

「望むところ」

二人の闇の意思の代弁者が、互いの存在を賭した戦いに臨もうとしているにもかかわらず、周囲の空間は凪いだように平穏だった。不純物を一切含まぬ凛とした大気が惑星を包み込んでいるかのように。

「ナディ、ライナ、おまえたちも役目を果たせ」

 ガーヴは、ナディとライナに向かって静かに告げる。

 ナディとライナは合点して、ガーヴに向かって頷く。まだティアの力は解放されていない。ティアの正常な心がまだ『生きて』いるのなら希望はある。

 対の代弁者は感情を含まぬ声で、

「勝手にするがいい。我の相手はガーヴのみ。天意に従い、ガーヴ、貴様を倒す」

 言い終えるなり、ふつりと姿を消していた。後を追うように、ガーヴもまた姿を消す。

 直後、二人の消えた空間の向こうに、小奇麗な執事を連想させる若い男が出現していた。

 男は、丸腰を示すように片腕を胸に当て、ナディたちに向かって一礼すると、

「私がティア様のいる場所にご案内いたします。天意の元、《いにしえの力》解放の立会人を務めさせていただきます。単なる立会人ですので、あなた方がティア様に何をしようと邪魔はいたしませんのでご安心を」

 この期に及んで、相手が策を弄することなどあるまい。今は目の前の男に従うしかない。

 小さく頷くナディとライナには目もくれず、立会人の男は、

「では、参ります」

 そういって、上層へと続く螺旋階段へと二人を導いていた。

 螺旋階段を上り切り、男が閂を外して古びた扉を開けると、冷やりとした感触が頬を撫で、大気の流れが髪を揺らす。男に続いて扉を抜けると、そこは吹き曝しになった石畳の空間だった。塔の最上部のようで、四方の空間には闇中にまばらな灯火を浮かべた街が俯瞰できた。

 石畳の空間の中央に進み出た立会人の男が、ナディたちを手招きする。促されるままに進み出と、宵闇を遮るような巨大な影が、頭上に浮かんでいた。

「これって……」

「空飛ぶ船……」

 船はゆっくりと降下し、船側から伸びた縄梯子が石畳に触れたところで静止する。

 立会人の男が無言で顎をしゃくる。操り人形のようにぎこちない動作で、ナディとライナは縄梯子に手をかけていた。立会人の男が後に続く。

 船倉からさらに梯子を上って最上部の甲板に立つと、船は重力を振り切るように加速して上昇していた。

 さらなる強い大気のうねりに曝された甲板の中央に、仁王立ちしている人物は。

「ティ……ア」

「大丈夫……じゃなさそうですね」

ナディとライナを捉えたティアの視線は、宵闇の中の野生動物のように妖しい光を放っていた。尋常ではないティアの瞳に、ナディたちはぞっと身震いをする。

当のティアは、ナディたちの存在など意にもとめず、ゆっくりとした動きで四方を俯瞰していた。その動きがぴたりと止まると、一点に視線を定め、片腕を伸ばして、視線を定めた方向に掌をかざしていた。

「だめ!」

「やめて、ティアさん!」

 ティアの動作の意味を本能的に察した二人は、無意識に駆け出して、ティアの正面に両手を広げて立っていた。

 白色の繭の中の蛹のように輪郭を浮かべて、ティアはいた。立会人の男は、やや距離を置いて、宮殿の前に立つ近衛兵のように微動だにせず立っている。ティアを正面から見据えたまま、ナディは歩み寄る。距離が縮まると、腕を伸ばし、掌でティアの両肩を強く掴んで、

「ティア、あたしたちのことが分かる?! ねえ、ティア!」

《ダマレ!》

 瞳を緋色に染め、ティアはナディの手を荒々しくはねのけていた。

《キルギア、ニクイ、ミナ、コロス。ミンナ、ミンナ、コロス》

 一歩退いたナディの利き腕が、着衣の内懐を探る。護身用に携えていた短剣の、冷やりとした硬質の感触を確認すると、前方を見据えたまま、

「ライナ、ここにいるのはもうティアじゃない、だから―」

 内懐から取り出された短剣の刃先が、真っ直ぐにティアに向けられる。

 ナディの明白な行動に、一瞬、ぎくりとしたものの、構えを崩すことなくライナは、

「ナディさんの思うようにしてください、できる限り援護します」

 状況は差し迫っている。感情に流されては駄目だ、冷静な判断を下して、二人はティアと対峙していた。

「はあっ!」

 掛け声とともに突進し、短剣の刃先をぴたりとティアの喉元に突き付け、ナディは、

「あなたはキルギアが憎いのね、だったら―」

 視界を遮るように、ティアの緋色の瞳を真っ直ぐに見つめ、短剣の刃先に力をこめる。

刃先が微かに皮膚に食い込み、周辺の皮膚が薄紅に染まる。

「あたしはキルギア人よ、まずは目の前にいる憎い相手を倒してみなさい!」

 それは、ナディの陽動だった。キルギア本土を標的に解放されようとしていた《いにしえの力》を、ナディ個人を標的にするように仕向けたのだ。

 ナディの思惑にはまり、ティアはびくりと身を震わせると、表情を一変させる。瞳をより深く真紅に染め、まなじりを吊り上げ、両の頬を裂けんばかりに震わせて、修羅のごとくナディをねめつけ、

《キルギア、ニクイ!》

 叫びと同時に、毒々しく染まった真紅のオーラがティアを包む。

 無我夢中の判断だった。一瞬で一つの都市が灰燼と化したという《いにしえの力》をナディ個人が一人で受け止める、それがいかに無謀かということなど承知している。が、故郷であるキルギアの村や町が無慈悲に破壊され、罪のない人々が、修羅の中で命を落とすようなことを手をこまねいて見過ごすことなどできようはずもない。

「ティアさん、だめっ!」

 ライナが素早く、ティアとの間に防御結界を展開し、間一髪で、解放された力の直撃を阻止する。かろうじて直撃は免れたものの、どのくらいの間防ぎきれるかは運任せだった。

 結界が破られる前にすべきこと、それは、《いにしえの力》の源を消し去ること。それは、キルギアに対する深い怨念だ。怨念は、今やティアと同化している。そこから帰結する答えはひとつ。怨念と同化したティアの命を絶てばいい。理は単純だが、それを実践するナディとライナは生粋に人間すぎた。《人の》命を奪うということへの、本能的な嫌悪が無意識下で瞬時の行動を制御した。生粋な怨念と対決するには、それは致命的なことだった。

 ナディとライナの心の隙を嘲笑うかのように、生粋の怨念である《いにしえの力》は結界を浸蝕し、圧力を強めてゆく。結界をすり抜けた怨念は、黒い塊となってナディとライナにまとわりつこうとしていた。外側からの圧力で凝縮された大気の流れは、刃となって皮膚を切り裂く。もはや、力の差は歴然だった。

「うぐっ……ぐっ……」

 黒い塊に締め上げられて、ナディは動きを完全に封じ込められていた。

「ごめ……ん……なさ、い……ナデ、ィ、さん……もう、限界……みたい、です……」

 ライナが弱々しい声を上げる。

 黒い塊は眼前に迫り、二人を吞み込もうとしていた。




 数刻前。煌々と輝く月光を浴びて、存在の源を共有しながら、相反する意思を持つ二人の男が対峙していた。

 遥か眼下には、宵闇と月光を吸い込んで妖しい色彩を放つドーム状の雲海が横たわっている。その頂の辺りでは、灯火を光らせた浮遊物が直下に影を落としていた。

 ガーヴと相対する男が、無言で天上に向かって剣を掲げる。剣は周囲の闇を取り込んで、漆黒の影を刻んでいた。剣の闇に吸い込まれるように、月光が暗色に変化する。と、闇の剣の中央に青白い紋章が浮かび上がる。

 ガーヴもまた、同様に剣を天にかざす。剣は、暗色の月光を吸い込み、鈍色の光沢を放つと、相手の剣と同じ紋章を刻んでいた。

 互いの剣に浮かんだ紋章の意味を、二人は誰よりも理解していた。それは、世のすべての闇を司る大王の紋章だ。大王の証である紋章を刻んだ剣は、闇を思うがままに操り、闇の原理で世を動かすことが出来る。

「我こそが大魔王の真の意思なり!」

 漆黒の剣の所有者が叫ぶと同時に、鉛色の月は漆黒に変わっていた。月から放たれた漆黒は、波濤となって直下の浮遊物―ナディとライナがティアと相対している《空飛ぶ船》に向かっていた。船は一瞬にして闇に呑まれ、暗黒の塊となり、月の放つ闇と同化していた。

「《いにしえの力》は解放された。闇の意思に司られたこの力、誰にも止めることは出来ぬ」

 闇の男が勝どきを上げるように宣する。

 直後、ガーヴの剣が、まとわりついた闇を払うように、明るく輝く。輝きは周囲の闇を呑み込み、その範囲を広げていた。

「これもまた、闇の意思なり」

 ガーヴもまた、勝どきを宣する。

 二人の距離が縮まり、闇と光の刃が交錯する。




 黴臭く、湿った空気が充満する石室にザグレス王はいた。

 王の正面には、蓋のない棺が鎮座している。棺の中に安置されているのは、おぞましい姿のミイラだ。ほつれた包帯の間からは白骨と、干乾びた内臓がはみ出し、醜悪な外観を晒している。顔はなく、異様に大きな脳だけが、生きているかのように生々しい艶を放って収まっていた。

脳に垂れ下がったむき出しの眼球の中の黒目がゆるりと動き、王を見据える。と、同時に、微かに、穏やかに脈打っていた心臓がにわかに大きく波打つ。鼓動はしだいに大きく、力強くなっていた。

「始まった、ようですね」

 背後からの声に、王は振り向く。

 声の主の素性を認めて、王はぎょろりと眼を剥き、

「裏切者が今さら何の用だ」

 声の主―淑女然りとした、やや年嵩の女性―は肩を竦め、鼓動を強め始めたミイラに視線を送ってから、

「この子はまだ生きている。ティア、娘もまた生きているのですよね」

「それがどうした。ここにいる《彼》の意思は既に発動している、もう誰にも止められんぞ」

「覚悟はしています。だから、《彼》の意思の結末を見届けたい。わたしは身をもって《彼》の意思を切り取ったのですから」

 うそぶく女に、王は一瞬、顔を顰めたものの、すぐに冷静になり、

「《彼》の意思は明白だ。であれば結末もまた明白ではないか」

「力の解放者たる我が娘、ティアは《彼》の意思を引き継いだわけではありません。ティアは、力を解放する物理的な媒体と成り得ただけで、《彼》の意思とは同一ではない」

「《彼女》に情けなど無用!《彼女》への情けゆえに《いにしえの力》を解放することを望まぬなどとは言わせんぞ。《彼女》をキルギアに亡命させる手引きをしたことなど、今となってはどうでもよいが、《彼女》を誕生させたのは魔導士イレーネ、貴様だ、その責は全うすべきではないか」

「誤解しないでください、陛下。わたしは、娘ではなく《彼》の苦しみを終わりにさせたいのです」

 怪訝な表情を見せる王に、魔導士の女は静かな瞳を向けて、

「怨念だけを依代に《彼》は長い年月を生きながらえてきたんです。人間として本来備わっている筈の豊かな感情を抱くこともなく。それがどういうことなのかは、わたしには分かりようもない。ただ、わたしはそんな《生》など断じて拒否したい。人は憎しみのみで生きるにあらず、です」

「貴様の個人的感情などどうでもよい! キルギアは我々ザグレスにとって忌むべき敵なのだ。敵を排除することは生きることの基本ではないか。《彼》の怨念はそのための糧だ」

 王の宿す危険な感情を感じ取って、イレーネは身構える。

 どくん。《彼》の鼓動が張り詰めた空気を震わせる。垂れ下がった眼球は血流を集めて毒々しい赤に染まってゆく。拍動が増し、深紅に染まった眼球は痙攣するように揺れ動いていた。

 イレーネは怖気に震え、王は愉悦の笑みを見せていた。




                                      続く

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