異能の種類
拡声器を手に持った白染は火燐を越えて、角を曲がった。
火燐と宇多子も一緒に角を曲がると、完全武装の警察の集団があるビルを包囲している状況が目に入った。
白染は堂々と包囲網の中に入り、そしてビルの入り口に拡声器を向けた。
警察が白染に道を開けたことに、火燐は少し驚いた。
人形みたいな美少女を背負って歩く大男はどう見ても怪しい人物だが、現場の警察は全員この状況に慣れているように見える。
そして、白染が特大ボリュームで言った事は、多分勧降の言葉だと思うが、全く感情を込めないトーンは聞くだけでイラつく。
況して今回の逮捕の法的根拠等を長々と述べるのはもう煽りとも思える。
案の定、相手は律儀良く最後まで聞くはずもなく、返事してきたのが攻撃でした。
籠城されているビルの三階の壁と窓一面が急に粉々になった。
ボクサープロフィールに記されてある、鳴無武志の心の力、拳に高速振動を起こす能力、登録名は【ソニックブロー】。
デモンストレーションでの最大出力は3000万Hz前後で、一ジャブで鉄筋コンクリートブロックを砂にする威力がある。
ボクシンググローブを着用する正式試合では威力が発揮できないが、素手での威力は折り紙付きの能力だ。
粉微塵になったコンクリートとガラスが空中で鋭い円錐状になって、目にも止まらぬスピードで白染を標的に放ってきた。
この状況に、白染は依然として「これを攻撃の意図として認定」云々で話が止まらない、でもコンクリートとガラスの矢は白染に届けずにまた粉微塵になって散った。
攻撃が効かないと見て、鳴無武志はビルの三階から勢いを付けて直接白染に襲ってきた。
一撃KOの威力が込めているプロボクサーの左ストレートが顔面を狙われても、白染は表情一つ変わらず、拡声器を仕舞って、ガードする気もなく「公務執行妨害」について説明を始めた。
今回間に入ったのが雛でした、素手(?)で鳴無武志の左ストレートと追ってきたジャブを全部十字ブロックで防いだ。
ガードするのはいいが、雛はまだコアラみたいに白染の背に引っ付いているせいで、その十字ブロックが白染に絞め技をかけているように見える。
白染は移動または旋回で鳴無武志のパンチを全部雛の十字ブロックで防いだこの3秒もない間に見せた高度な体さばきも、この絵面のせいで茶番に見えた。
面白く思ったのは火燐だけではない、現場を封鎖している警察にも何人かが吹いた。
こんな状況でも、白染の講義は止まる事はなく、体さばきで鳴無武志の猛攻を対応している、しかも鳴無武志が逃げようとしたらすぐ移動阻害できることから、十二分の余裕を持っているように見える。
「宇多子さん、白染は一体何者ですか?」
現場の空気に耐えられず、火燐は宇多子に話をかけた。
「はい?」
火燐の質問の意味が分からず、宇多子は質問で返事した。
「とぼけないでください!鳴無武志は一秒でジャブ35発打てるトップボクサーですよ?そんな相手をここまで翻弄できる人間はいるものですか?」
「く…詳しいですね、火燐さんはもしかしてボクシングが好きですか?」
火燐から急に放った圧に、宇多子は一歩引いた。
「だからとぼけないでください!何故白染がこんなことができるんですか?」
「簡単なことですよ、それも異能です、反応スピードを向上させる強化異能です。」
「エ…エンハンス?」
「ええ、異能にも色んな種類に分けられています、その中、特定なステータスを強化する能力を有する異能は強化異能と分類されます。」
「白染は戦闘態勢に入ると真っ先に使うのはいつもこの【精神強化】です。どこまでできますかは私も知りませんが、白染はライフルの銃弾を手で叩き落とせます。」
実際のステータスは言わなかったものの、この異能の凄みはもう十二分伝わった。
話している間、戦闘もまだ続いている。
雛はいつの間にか白染から降りた、今は何か特別な格闘技を駆使して鳴無武志と戦っているが、明らかに相手になっていない。
一秒35ジャブは雛の対応限界を超えていて、鳴無武志の隣にまだ講座を続いている白染が防ぎ切れないパンチを阻まなければすぐKOされるだろう。
「これは新手のいじめ方ですか?」
「いいえ、これは白染曰く武力行使する前の話し合いです、今は鳴無さんはまだ返事してませんので、拘束案内が終わるまで止まらないかと思います。」
言いながら、宇多子は腕時計を見た。
「うん、今の所はそろそろ終わりますね、後は『黙秘権と弁護人を選任できる旨』の案内だけです。」
宇多子が言った傍から、白染は「これからは黙秘権の告知」と言いながら、もう防戦一方の雛を庇ってまた鳴無武志の正面に立った。
鳴無武志は何も返事しなく、右スイングで白染の左太陽穴を狙った。
白染は話も止まらずに、左手が円を描いたように軽々しくその目にも止まらないスピードのスイングを受けて流した。
追ってきた鳴無武志の左ジャブもまた右手で同じように受け流した。
鳴無武志はどんな角度を攻めても、白染に同じ方法で攻撃を受け流した。
攻防が続けるうちに、白染の両手が簡単に円を描くから段々複雑な螺旋になって、そして二重の螺旋がまた渦になって、鳴無武志の両腕を巻き付いた。
『黙秘権と弁護人を選任できる旨』の内容が全部伝えた瞬間、鳴無武志の両腕は肩から指まで全部の関節が脱臼した、その音は聞くだけでゾッとする。
続いたのは完璧な大外落、鳴無武志の後頭部を地面にめり込んだ程強打して、昏倒させた。
鳴無武志の身の力がマスターレベルじゃなかったら確実に死ぬだろう。
チャンピオンレベルのプロボクサーが手も足も出なかった程、一方的にやられた、白染が拡声器を仕舞ってからは3分も経ってない。
現場の引継が終わったら、白染はまた火燐の前に来た、雛もまたコアラ状態になっている。
「帰るぞ。」
そう簡単に伝えたら、宇多子はすぐ火燐を引っ張って白染をハッグした。
「何するんですか!?」
慌てて宇多子を振り払ったら、場所はもう白染の閲覧個室部屋になっている。
「お帰り~」
そして耳に入ったのが有子のチャラい声。
「有子ちゃん、千影ちゃん、葵ちゃん、光ちゃん、ただいま帰りました。」
「帰りました!」
宇多子と雛も元気よく返事した。
白染は一言も言わずまたテーブルの資料の海に戻った。
「どういうこと?何故私たちは一瞬で戻ってきた?」
この状況に火燐はまだ混乱している。
「これも異能です、今はまだ白染しか使えません、距離を操る操縦異能です。」
雛を抱えて二階に行った宇多子は二階から答えた。
「異能の登録名は【咫尺天涯】です、白染がタッグした人の傍に瞬間移動できます。」
「この異能の原理は白染もまだ解析中です、でもこれは六感異能ですので、解析が出来ても使える人は今の所白染しかいませんので、優先順位はそこまで高くありません。」
「あ、異能の種類の説明はまだですね?」
二階から戻った宇多子は教材っぽい物を持って、説明しようとしたら、火燐が話をカットした。
「ちょっと待ってください、今の話って、白染は六感マスターということ!?」
「ええ、白染は六感マスターです。六感のレベル分けから異能の開発まで、白染はこのシステムの創立者にして先導者です。今でも軍の要求に応じて異能を開発しています。」
「今の最強は四感マスターと言いましたね?」
「それは政府の宣伝です、システムが確立途中の状態でもう六感マスターがいると、感をマスターするのが簡単だと錯覚させてしまいますので、事実を一旦伏せています。」
「じゃあこれを私に言っていいですか?」
「別に機密になってませんから、身近の人に教える位は問題ありません、白染も特に隠してませんでしょ?」
「まぁ、それより異能の種類説明しましょう。」
宇多子は喜々と手書きの教材を広げた。
真っ先に火燐の目に入ったのが明らかに白染をモチーフにしたキュートスタイルなキャラクターと可愛いフォントで書いた『正義の味方:ハクゼンマン』、そのギャップに火燐が思わず吹いた。
「どうした?」
ここの状況に注意を引かれて、有子は読みかけの週刊誌をポイ捨てて寄ってきた。
「うわっ!これ似合わない。」
「そうですか?子供たちが喜ぶようなデザインにしましたが。」
「何に使うのこれ?」
「今週末の孤児院ボランティアに、異能普及講座を頼まれましたので、気合を入れて作りました。」
「あれか?なるほど、ならいいじゃん?」
聞いたら、有子はまたソファに戻った。
「では気を取り直して始めましょう。今日は正義の味方のハクゼンマンがみんなに異能を教えま~す。」
ふわふわお姉ちゃんモードに入った宇多子は圧と違う何かの雰囲気で、拒絶しにくい。
宇多子の話によると、異能はこれから日常生活でよく使われるものになるので、その種類を早めに覚えた方がいいと。
来年からは幼稚園から大学まで一気にカリキュラムに組まれるので、事前に覚えれば後でいいことになる。
異能は今は七種類に分けている、それは探知、強化、操縦、変化、消化、操獣と定制の七つ。
先ずは探知異能、この類の異能は人間の感官が捉えられない情報を捉えることができる。
探知異能は海底や島の探索に色んなタイプが必要とされている、今は軍に一番重要視とされている異能である。
例えば耳の力と身の力を複合で使用する探知異能、ソナーみたいに耳の力が発した特殊音波のフィードバックを体で直接情報処理ができる。
ソナーと違う所はこの異能は壁を隔てられても確実にキッチンの死角に隠れているGを見つけ出せる、名付けて【G.ターミネーター】!
「ちょっと待ってください、この例は何なんですか?」
変な例を聞いて、火燐はツッコまなくてはいられなかった。
「火燐さんに挙げる例ですので、やっぱりもっと生活的な例がいいと思いまして。子供たちに挙げる予定の例は【ヒーローアイ】です。」
「その『ヒーローアイ』も何なんですか?本当にありますか?」
言いながら、火燐の視線は無言で何かを計算している白染の方に行った。
自分がモチーフされた子供だましのキャラがヒーロー系になっているのに、全く動じない姿を見せた白染が決めポーズで大声で「ヒーローアイ!」を叫ぶのを想像すると火燐がまた吹いた。
「ええ、これは実は『全てを明白に洞察する』と書く【洞明】という六感異能です、ある範囲内の全ての情報を視覚で捉える最強の探知異能です。」
また物凄いハイスペックが出てきて、火燐はもう驚く気力もなくなった。
「分かりました、続けてください。」
「では次は強化異能ですね、先程も言いました、特定のステータスを一時的強化する異能です。」
強化異能は戦闘向けだけではなく、心拍数を強化、集中力を強化、視力を強化など、色んなことができる。
今の所は特に外科医からの注目を浴びている、集中力と視力を一時的に強化出来たら、精密な手術の難易度が下がるからだ。
そして今回挙げた例は【精神強化】だ。
意外なこと、この異能は身の力をベースとした二感異能で、火燐が予想したよりスペックが低い。
そしてハクゼンマンスタイルで考えると、多分【ヒーローセンス】と名付けられるだろうっと、火燐は窃笑した。
続いては操縦異能だ。
何かを操る異能が全部この類に入るが、生物を操る異能は操獣異能に分けられる。
何かを操る所は心の力と混淆し易いのも注意点。
そしてマスターした感はあくまで特定の物理現象に影響をもたらせる、それは操ることではない、実際何かを操るには操縦異能を一から練習する必要がある。
例として挙げられたのは案外先程の【咫尺天涯】ではなかった。
今回例に挙げた異能は摩擦力と気圧を操る異能【ブースティングダッシュ】、子供向けのアレンジネームは【ヒーローダッシュ】。
摩擦力も力の一種なので、この異能の要は身の力だと勘違いすることが多いが、この異能のベースは鼻の力。
自分の周りの気圧を下げ、上昇気流と作り出し、そして補助として身の力で地面の抗力の作用方向を変える事でフォーミュラ1レーサーも顔真っ青な瞬間加速ができる。
操縦異能は化学工業と鉱工業に最も注目されている。
理由は特定な現象をコントロールすることで危険な加工過程のリスクを下げられるにつれ、産量の向上も期待できる為。
政府は腐蝕性と酸化反応を操る異能の使い手を幾つかの大手メーカーに出向させることで、一儲けしている。
「あ?政府はこんな事もしてるんですか?それ人材派遣の仕事のなのでは?」
「詳しい事は私も知りませんけれども、今は異能使える人はまだ殆ど軍人とスポーツ選手ですから、普及のために政府から何かをしなければと、パパが言ってました。」
なんでここにまた前振りもなく私が知らない人を話に出すんですか?っと、火燐は宇多子は多分教師に向いてないと確信した。
宇多子の父に全く興味ないので、火燐は話を逸らさず異能種類講座の続きを催促した。
続いては変化異能、この類の異能は感の力の性質に変化をもたらせる。
例に挙げる異能は白染が鳴無武志の両腕の関節を全部外した異能、【龍砕】。
威力だけを見ると、身の力がベースだと思うが、この異能のベースは実は耳の力。
耳の力に影響された振動に少量の身の力を載せて、相手の体内に送り込むのが原理、身の力を耳の力に載せられるように性質転換するのがこの異能の肝要である。
この異能を白染が全力出せばダイヤモンドをも砕ける。
他に異能の力の波動を察知し難いようにすることもできる。
白染の『いい生徒の術』も変化異能、意の力を相手の脳裏に侵入して、特定の思考をメッセージ化して盗むことができる。
「ちょっと待ってください、つまりその異能を使っている間、私の思考が読まれていたの!?」
またカットせずにいられない話が出た。
「その言い方は少し違いますね、白染は意の力をマスターしていますので、異能を使わなくてもパッシブ的に周囲の生物の思考などをなんとなく感じることができます。」
このことを聞いて、火燐が白染の方に警戒的な視線を投じた。
「気にするな、他人の思考を一々解読する程、私は暇ではない。」
視線を向いた瞬間、白染が答えた。
「解読しなければ、感じた思考は私に悪意があるかどうか程度しか分からん。」
「後、異能を使用する状態でも、思考をある程度文字化か図形化しかできんから安心せ、プライバシー侵害等の心配はない。」
こんな精確の返事をされると、プライバシーが関わっている思考は読まれないことはもっと信じられなくなる。
「あの、私はまだ用事がありますので、今日はここまでにしてもらえますか?」
火燐はもうこの場を離れる事しか考えてない。
「自由にしたら?次また入れるかどうかは保証しないが。」
有子の返事に、火燐はまた躊躇った。
「帰るなら日置金勝紀とのアポは取りたいかどうかを決めてからにしろ。」
まだ何か複雑な数学計算をしている白染は目もくれずに言った。
「あ、ではアポイントメントはお願いします。」
白染が何かしてくれそうと知った途端、帰りたい気持ちがまた切迫になった。
「そうですか、では残った三種の異能種類はまた今度にしましょう。」
宇多子は残念そうに火燐を玄関まで送った。
「火燐さん、ハウスグループの選択はいつなさっても構いませんが、授業はそろそろ出ないと留年が確定してしまいます。」
宇多子はタブレット端末を火燐に渡した。
「これは私が選んだ学習科目のこの二週間の授業内容ノートです、学習科目の選択の参考に成れれば、そして日置金勝紀さんから返事がありましたらすぐ伺いに参りますので、どうか心配なさらず。」
「本当に、ありがとうございます。」
タブレットを受け取った火燐は宇多子に深々と頭を下げた。