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異能《スキル》

異能(スキル)?」


火燐は全く聞いたことのない単語に疑問を持った。


「ええ、これが高校のカリキュラムに組み込まれるのは来年からけれども、今はもう事前準備として公に宣伝してますよ、火燐さんは最近ニュース見てませんか?」


宇多子の質問に、火燐は頭を振る以外何もできなかった。


宇多子は年初から日置金アントレプレナークラブの調査で手一杯で、もう何ヶ月新聞も読んでいない状態だ。


まぁまぁと言いながら、宇多子は簡単に異能について説明した。


先ずは火燐も知っていること、生物は大災害の前より桁違いの身体能力を得た上で、二種の超能力を使えるようになったこと。


その一つが心の力(アイデンティティ)で、もう一つは異能(スキル)でした。


でも異能(スキル)の方は誰も使える訳ではなく、今の民間での認識はスポーツ選手だけが使える超能力で、宇多子から聞いたまで火燐はそれが異能(スキル)だと名付けられたことすら知らなかった。


大災害の隕石から漏れた宇宙エネルギーが生物に影響を齎して、生物の身体能力を大きく強化した。


海原の中学教材では、その強化は五感に分けられている、ここまでは火燐が知っている情報。


簡単に言うと、大災害後の人間は紫外線を視認できる、超音波を聞こえる、プラスチックや昔毒とされる物を難なく消化できる、小学生も殆ど300キログラム以上の筋力がある等。


個人差は結構激しく、極端ではガンマ線が見えるや昼間でも星空が見える例もいる。


そして、来年から高校カリキュラムに組まれることはその詳細でした。


主動的に鍛えられる力は六感に分ける、そして六つの段階があって、今の人間平均は全部レベル1や2で、稀に一種や二種の感がレベル3程ある例もいる。


レベル1から5までは境界線が曖昧で、今の所は幾つかのスタンダードを設定し、当レベルに記された項目を全部クリアすることをレベル認定の条件になっている。


レベル6はマスターレベルとも呼ばれる、その感が外部環境に影響が出来るようになっている。


最初は眼の力(ファーストセンス)、レベル6では光を操る事ができる。


そして耳の力(セカンドセンス)、レベル6では振動や音を操る事ができる。


鼻の力(サードセンス)はレベル6では気圧や匂いを操る事ができる。


舌の力(フォースセンス)はレベル6ではある程度の温度を操れる、そしてある範囲内で直接物を分解することができる。


身の力(フィフスセンス)はレベル6では有向量や圧力、ありとあらゆる力を操る事ができる。


意の力(シックスセンス)はレベル6では不随意運動を全部随意運動にすることができる、そして反射速度の底上げ等ができる。


これまで異能(スキル)がスポーツ選手だけが使える原因はスポーツ選手の眼と耳と身が一般人より鍛えられて、レベル6に達する可能性が高めであった。


そして海原の軍事研究施設は15年をかけて、やっとマスターレベルを初歩的に究明することができた。


今の軍隊に最強の兵士は4名の四感マスター(カドラプル)という事が大々的に宣伝されたのはもう先々週の事でした。


そして異能(スキル)と言われるのは、レベル6の力が特定の方法で使用される時に表現された状態。


海原で最も有名な例はとあるプロサッカーチームのゴールキーパーはペナルティエリア外にいてもゴールに近づくボールを叩き落せる。


今はペナルティエリア外で使うと一発レッドになりますが、その能力は海原最初の異能(スキル)として登録されている、登録名は『ガードハンド』。


「つまり先、私の怒りが急に湧いてきたのは白染さんの異能(スキル)の影響ですね?」


「それだけではなく、授業中に話をカットしたい衝動や自分の行動が完膚なき指摘される不満を全部抑えたのがその意の力に基づく異能(スキル)で、名付けて『良い生徒の術』です。」


そのネーミングセンスと何故かドヤ顔の宇多子はさておき、気付かぬまま2時間の講座を聞かされた火燐はこの異能(スキル)の怖さに冷汗が出た。


衝動や不満を抑えられる事は、恐らく他の感情をある程度操る事もできる、火燐はやっと白染を見ると圧を感じる原因が分かった。


「で、今この段階、私が貴女に提供できるのは、日置金勝紀と一回直接会う機会だけだ。」


宇多子の話が終わったと見て、白染が口を開いた。


「それは尊父が参加する事はできないが、ビジネスアポイントメントが取れるきっかけになれる可能性がある、どう決めるかは貴女の自由だ。」


これは勿論火燐の当初の目的と全く反している、白染の講座を受けてもすぐにはこのことを受け入れられない。


「そんなに暴力で解決したかったら、その道を行った人の結果を見せてやろう。」


火燐の沈黙を見て、白染は一つ特殊な端末を取り出して操作して宇多子に渡した。


「宇多子、火野をこの位置に連れていけ。」


「えっ!?この支援要請はどれ位放置したの?」


「3時間程。」


「では早くしないと!」


「うろたえるな、状況は把握してある。」


珍しく焦りを見せた宇多子に、白染は素早く外出の準備しながら二階に声をかけた。


「雛!出る!」


「はーい!」


二階から風鈴が鳴ったようで、聞くだけで癒されるようなキレイな声の返事が聞こえた、でも火燐はまた驚かされた。


二階にはあの等身大の人形しかなかった、建築の構造的にも隠し空間はない筈…っと思った瞬間、あの等身大人形がぴょんっとエントランス高台に跳んだ。


白染も一瞬前にエントランス高台に跳んだので、雛と呼ばれた人形はちょうどコアラのように白染の背中にぺったりと付けた。


「では火燐さん、私たちも出発しましょう。」


外出着に着替えた宇多子が声を掛けるまで、火燐は驚愕で動けなかった。


「あああの、ささ先の人形が…」


一時的に舌もうまく動かせない火燐がまともに話もできていない。


「人形?あ、雛ちゃんの事ですね?後で話しましょう、今は先を急ぎます。」


宇多子は火燐を引っ張って、勝手口から外に出た。


「火燐さんは高速移動の手段を持ってますか?」


「いいえ、持ってないですが。」


「では少々はしたないですが、私が背負って行きましょう。」


話ながら、宇多子が自然としゃがんだ。


外出着に着替えた宇多子は髪を後頭部にまとめている。今は行動しやすい服を着ている為、背部の肌を多めに出している。彼女の身長は女性として高めだが、男性平均と比べるとまだ小柄と言える。そんな背中からうなじまでのラインが同じく女性の火燐もドキッとした色気を出している。


そもそもまだそこまで慣れていない人に負んぶしてまらう経験がない為、火燐はまた躊躇った。


二秒待っても重さを感じなかった宇多子は今度直接火燐の手をつかまって跳んだ。


急な速度感に前腕から力強く握られた感触に火燐はやっと我に返った。


それからは宇多子は何回か高層ビルの壁や屋上を足場にして跳んだ、その繰り返しは約30分続いた。


「火燐さん、着きました。」


やっとまた自分の足で立てられた火燐は、一瞬バランスを崩してしまったが、転ぶ事は何とか避けた。


「ここはどこですか?」


「足立区と北区の境目、海原特立図書館から直線距離が約30キロの所。」


急に響いた白染の声に、火燐はビクッと驚いた。


振り返れば、雛を背負っている白染がそこに立っている。


頬を人形にすりすりされている大男は滑稽な絵面だが、火燐は笑えない。


こうして近く見ると、雛の腕の球体関節がはっきり見える、それは中に精密機械が入れられない人形用の物だった。


今の医学では、高級な義肢は見た目も機能も本物と全く見分けつかない事すら出来るが、どんな劣等品も人形用物件と区別がある。


況して火燐の身の力(フィフスセンス)はレベル2で耳の力(セカンドセンス)はレベル3、こんな近い距離だと雛の手足の中身は空っぽであることは嫌でも分かる。


2メートルもない距離だと、火燐は雛の心音すら聞こえる、つまり雛は人間。


「新暦20年、5月17日?」


位置情報に反応することもできなく、火燐は無意識に一つの日付を口にした。


「詳しいのは後にしろ、今はお前の事だ。」


雛をおろして、白染は宇多子から球体に見える端末を取って、素早く操作したら、情報が白染の前方に投影した。


「見えるか?今回お前に見せたい例だ。」


目の前の画面に、探偵や刑事ドラマでよく出る犯罪者のプロフィール、実物を見たのは初めてだが、火燐は驚いた。


個人情報に関する欄は全て隠されたが、写真の人は例え目が黒線に隠されても正体が分かる程の有名人でした。


海原ボクシングリーグのライトヘビー級チャンピオン、一つのスポーツの未来を背負ったスター、名は鳴無武志(おとなしたけし)


罪名は傷害致死罪、時間は昨夜。


「容疑者は昨晩、西区のバーで他人とケンカし、相手を殴り殺した。」


白染は感情を全く込めずに述べた。


「調査によると、被害者は当地で有名なチンピラ、当時は容疑者の彼女に何度もセクハラをし、容疑者にも暴行や侮辱等をした。被害者の中に危険ドラッグ売買、窃盗、暴行、傷害、強制猥褻の前科がある者もいる。」


「被害者6名の内、1名は病院到着前死亡、3名は病院到着後心肺停止、2名はまだ手術中で危篤状態。」


「容疑者は昨晩から逃亡中、本日の昼からそこの空き家に籠城中。」


白染は前の方角に指を差した。


「極端だが、これが暴力を頼った結果だ。」


「でも、その場で武力行使しなかったら、チンピラに絡まれるだけじゃない?」


「だからどうした?被害者たちは暴行と侮辱をした、警察を呼べば解決できる、そして犯罪者に必要程度の武力を行使する権利があるのは警察だけだ。」


「それだけだと、チンピラたちは拘留場から出ればまた絡んでくるだけじゃない?それだけで改心とは思えない。」


「だから暴力に訴えれば被害者たちは改心するとでも?」


この質問に、火燐は返す言葉が出なかった。


「過ちをどれだけ繰り返しても、人を改心させる機会を残すべきだ。法的処置の目的は罰することではなく、罪を犯した人に自分が犯した罪を振り返られる時間と空間を与える為にある。」


「極端に言うと、人は何回も同じ罪を繰り返せる、その罪に定めた刑罰を受ければ。この点において、法律の刑罰は交易の一種とも見える。」


「だが違う、法律は実は在り方の選別だ。」


「法律を守る者に自由を与え、法律を犯した者の自由を奪い、結果的にある範囲内で社会に活動している犯罪者の人数を最小限に抑える事になり、社会の秩序を保つ。」


「つまり、法律を反する者に自由を与えてはならない、そして犯罪者に自由を奪う以上の処置を取ってはならない。」


話がここまで進めて、白染はやっと手に持っている端末を仕舞った、代わりにどこから拡声器を取り出した。


「詳しいのはまた後にしよう、今はまだ仕事がある。」

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