説教から始まる物語もある
火花のパチ音が鳴った瞬間、ソファーに寝ていた少女の右手がピストル状で火燐に差した。
同一瞬間、白染の右手が少女と火燐の間に入った、しかもいつの間にかその目を刺さるような白さの手袋をしている。
次の瞬間、白染の手のひらに何かが爆発した。
火燐は爆発にびっくりする暇もなく、爆発による暴風にあてられて後ろに倒れた。
爆発の音に、部屋内にいる全員が違う反応を見せた。
宇多子はキッチンからちょっと目を向いた位で、誰も怪我してないと分かったらまた背を向いた。
白染の膝で寝ていた少女はびっくりして起きて、全身から灯台をも暗く思わせる程の光を発して、何も起こってないと分かったら発光をやめて、また白染の膝に頭を置いた。
個室外の二名はマジックキューブを手にしている方だけが爆発の中心に目を向いた、もう一名は何故か別方向にあるトイレに視線が行った。
「有子。」
火燐が体を起こした同時、白染の声が聞こえた。
「はい、すみません…」
反省しているような声が聞こえた。
「条件反射が雑、すぐ攻撃しようとするな。」
「はい。」
有子と呼ばれた少女は今スポブラのままソファーに正座して、反省している様子を見せている。
ワインレッドの様な色の髪が寝癖を出していながらもキレイだと思わせる。
全身に渡る目立つ傷跡の数々は四肢や胴体だけではなく首や顔にもあった、特に右顔に大きい火傷の跡があった、でも左顔だけ見れば美人とすら言える。
それでも火燐は有子の顔を直視できない、その空っぽになっている右眼窩を見ただけでぞっとするからだ。
「それで、答えは?」
まだ有子の容態にショックを受けている火燐に、白染はまた声をかけた。
「答える前に、何故あの名前が出たかを聞いてもいいですか?」
ハッと我に返った火燐が少し躊躇いを見せた後、こう聞いた。
「入学してから二週間も過ぎても、ハウスグループにも参加せず学習科目も選んでいなく、学校内の不良グループにあっちこっちケンカを売りまくる人がいたら教師として多少目が行くだろう?」
有子が急に話に割り込んできた。
「おまけに白染の情報も聞きまくってたのに、逆に調査されないとでも?」
「こっちが知っているのはお前の実家は真光区にあった町工場、と日置金財閥は去年の六月から急にその工場に経済的攻撃を仕掛けている、それ以上の内情は知らん。」
まだ何かを言いたそうな有子を制し、白染が言った。
最初から主導権が奪われた感じはあまりよくない、火燐はまた何か考え込んでいるように沈黙した。
「まぁまぁ、そう考え込まないで、簡単に事を教えてくれればいいよ。」
今回割り込んできたのが宇多子、きれいに切ったフルーツと焼き立てのクッキーを置いて、そして極自然に白染の右隣に座った。
「でないとこちらも助けようがないでしょう?」
「…分りました、一から話しましょう。」
またしばらくの沈黙の後、火燐は事の始終を話した。
始めは何の変哲もない一日でした、火燐は受験生らしく塾からの帰り道に、怪しい男性に話掛けられた。
話の内容は日置金勝紀の専属メイドになる云々でした。
日置金財閥はこの新世界においてトップ3に入れる財閥で、その会長の一人息子にしてエンターテインメント部のCEOの名前は火燐も聞いた事あった。
そんな話が急に来ても信じる訳がなく、火燐は即座に断った。
男性は更にいい時給等の条件も提示したが、火燐は無視して家に帰った。
それからは何週間にも及ぶメールや電話での勧誘でした、そしてそろそろ警察に通報するところにあっさりとやめた。
そして何の予兆もなく、実家のガラス工場の原材料の提供元やいつもの出荷先などの提携先は一斉に違約金を出してもすぐ協力関係を中止したいとの話になった。
火燐の父はその件の為に何十回の打ち合わせや業務訪問をして、最近はようやく全部日置金財閥の関係企業の仕業だと分かった。
「私は日置金勝紀に直接会ったことはなかったが、今はあの男が大っ嫌いです。」
ここまでの話に、火燐はこう言った。
「うわぁ、ご愁傷様。」
他人事に言って、有子はリンゴの最後の一切れを食べた。
「もう、有子ちゃん。」
有子の態度に宇多子は絶句した。
「話は分かった、それと私を詮索することに何か関係性あったのか?」
話の冒頭からまた目を本に戻した白染は火燐に目もくれずに聞いた。
全く尊重されていない事に火燐も相当不愉快と感じているが、今は自分の事を相談しているから離席できなく、怒りを抑えて話を続けた。
「私はアイツらからの迷惑メールを整理した時、こんなものを見つけました。」
火燐が取り出したのが写真から煽情的なチラシだった、内容はVIP向けの何らかのサービス。
チラシを見て、白染は初めて眉を少し寄せた。
「これを出して何がしたい?白染にこんなサービスを提供するってかぁ?」
有子がチラシに指を差すと、チラシは火をつけられて忽ち灰も残らずに消えた。
「あ…」
「有子、すぐ攻撃しようとするな。」
白染はまた有子を制し、そして火燐に話を続けさせるよう目を向けた、ですが今回は本をも仕舞わずに、話が始まったらまた本を読み始めるだろう。
「私はこのクラブのことについて調べました。」
不快と思わせる顔を控えて、話を続けた。
このクラブは正当な登録をされているが、日置金グループ傘下ではない。
表向きの名は日置金アントレプレナークラブ、青年起業家向けのクラブである。
日置金勝紀はこのクラブの会長及び総召集人に名を置いているが、彼以外の日置金グループの人間は一人もいない。
こんな状況を怪しいと思った火燐は何回か現地探査を行った。
クラブハウスは海原の一番のビジネス区と言われた白金区にある、昨年落成したばらりの日置金第六ビジネスビルの60階以上全部、約47階分を全部占めた。
「ちょっと待って、これは今の話と何か関係あ…」
また話に割り込もうとした有子の声がミュートになったテレビのように急に途絶えた。
「有子、人の話をカットするな、聞きたい事があれば話がひと段落になってから。」
また正座で反省の姿勢を見せた有子だが、ミュート状態は解除されていない為、何が言っているか分からない。
「とりあえず、このクラブでは非合法の地下格闘が行われています、そして何かの段階になれば、破格的な賞品や待遇が手に入れられると言われています。」
相手にクラブを調査する過程に関する内容に全く関心がないようで、火燐はやむなく結論を言った。
「出来れば、強者とこの地下格闘に出たいです。」
「第一、貴女が言ったその日置金クラブの地下格闘はちゃんとした免許を取っている合法エンターテインメント活動、地下と呼ぶのはやめておけ。」
有子はまた何かを言おうとしている様に見えるが、ミュート状態はまだ解除されていなく、そんな有子をよそに、白染が言った。
でもその内容は火燐だけではなく、有子も宇多子も思わず白染に注目した。
「貴女たちは法律の勉強してないだけで、旧世代の印象に影響されたまま、その手の行事を全部非合法だと思い込んでいるだけ、海原の法律にはそれを禁じていない。」
話が突然に法律講座になってしまったが、有子も宇多子も白染を止めようとせず、火燐はやむなく授業を受けた。
20分位かかった『決闘罪の定義』と『合法的に決闘を行う事例』に続いたのは、小一時間の『格闘イベントにおける安全管理体制』と『色んな配慮義務を満たす方法』でした。
「つまり、以上の条件を全う前提であれば、多少スポーツの範囲を外れても、海原はその手の格闘技イベント、団体、行事等を法的に承認している。」
やっと講座の終わり、白染はこう結論した。
「何故あなたがこんなに詳しいの?」
「詳しいもなにも、日置金勝紀がその格闘イベントをクラブの常設イベントとして申請したに当たって、安全条例の原案作成と審査期間の施設現場検証は私がやった。」
また思いもよらぬ情報に、火燐がショートした。
「まぁ、何にしろ、武力を提供する気はない、貴女も最初から暴力や武力でこの件を解決しようとするな。」
「何で?日置金勝紀のせいで、パパは今どんなストレスを背負っていると思うの?ウチが倒産したらウチの従業員たちはどうなるの?私はもう他の方法がわからないのよ!」
火燐の問詰に、白染は全く動じない声で答えた。
「方法等は二の次、先ずは貴女の行動だ。」
話が始めてから、白染はやっと本を閉じて、火燐に目を向けた。
全く無表情の顔に、黒より深い色の瞳に半身を起こして、冷静をなくしてテーブルに手を付いて、目から涙がいつの間にか涙がポロポロとこぼしている火燐の姿を映している。
「商業や家計は尊父の責任であり、貴女が家の苦境を手伝うその心自体は素晴らしいが、会話もせずすぐに武力を行使しようとしたら、事は望む方向に運べない。」
そして始まったのが、2時間も及ぶ『人間行動学における暴力の定義』と『社会学で見る武力行使を避ける行為』講座、しかも今回は教材付き。
火燐は何度も講座をカットしようとしたが、何故か毎回行動を起こる前に急にやりたいことを忘れて、また講座を聞き続けることになる。
講座は単なる学術的な内容ではなく、火燐がこの数ヶ月に取った行動を細々と分析して、そしてその場で取るべき行動も幾つかの例が挙げられた、まるで検討会でした。
最後、火燐は自分の父さんに意見し、敵対的買収を仕掛けた企業たちとちゃんと何回か話し合うべき。
もし相手は話し合おうとせず、もしくは余地を残してくれなかった後、やっと火燐が今やっている線に入ると結論した。
結論と同時に白染は火燐に指を差した、火燐は急に講座を聞かされた2時間分の怒りが戻ったような気がしたが、講座はもう終わって、怒りも行き場がなくなった。
「貴方は何なの?先のは貴方の心の力ですか?」
いつの間にか立った火燐はやっと怒りを治めて聞いた。
「いいえ、それは心の力ではなく、異能です。」
答えたのは宇多子でした。