火の気があった初対面
火燐が前に立つ建物は、図書館だした。
巨大なバロック建築、建築面積20ヘクタール、最高点35メートル、最上階が7階の巨大建造物。
全国一の蔵書量を誇る、海原の生徒と政府に承認された学者のみが入れられる知識の宝庫。
この中は大災害前の出版物も多く集めている、海原にとって最も重要な機関である。
現海原臨時政府の首相藤原氏曰く「人間にとって最も重要なものは知識である。」っと。
なので、人類復興の為、真っ先に復旧された物流と医療システムに次ぐ、教育システムは注力された。
「二階東側、一番奥のドア。」
火燐が入り口に着いた途端、耳を刺さるような声が何の予兆もなく響いた、火燐はその不快感に少し眉をひそめる。
びっくりしながらも、周りに自分に注意力を払っている者が見当たらない。
耳に刺さった声は先程聞いたホワイトファントムの声と明らかに違うが、他に手がかりもない為、指示通りの場所に行くしかない。
三分後、火燐が見つけたのは、一見何の変わった所のない閲覧個室。
海淵市立第一図書館の二四六階は全部完全予約制の閲覧個室になっている。
火燐は入ったことないですが、閲覧個室は一つ一つ設備完備のラボに成り得ることは知っている、利用できることは、政府でかなりの地位や実績を有すること。
「立ってても何もなりませんよ、早く入ってきて、鍵はかかってませんから。」
今度は聞くだけで淑やな印象を与える少女の声、ドアを越してもはっきりと聞こえる。
そしてちょっとも考える暇も与えずにドアが開いた。
「…」
普通のドアのデザインなのに引戸の開け方に思わず脳がショートしてしまったが、火燐は部屋に入った。
部屋の中は想像した閲覧個室と違って、高級感が出ているマンションのようなデザインでした。
玄関がなく、一つの高台になっているエントランスエリアにシューボックスとコートラック以外何も置いていない、入ってすぐ見える吹き抜け空間は開放感を出している。
そしてこの高台からはすぐ下に向く階段になっている、しかもこの時代では大富豪も使えない木製のオープンタイプかね折れ階段。
エントランスの高台プラットフォームからは部屋を一望できる。
入り口の正面は壁と換気用の窓しか見えないが、左側の斜め向こうにもう一つの高台があり、その高台はごく普通の部屋のように見える。
ベッドはシングルのフレームベッド、いかにも学生が使いそうな学習机の椅子に等身大の人形が置いている。
その人形の作りの精緻さから値段が想像付かない、普通の部屋とのギャップが大きい。
人形から感じた違和感を振り払って、火燐は階段を降りながら室内を観察した。
部屋の真ん中にソファーとテーブルがあって、ホワイトファントムと思わしき男性がソファーに背を向けて足を組んで座っている。
男性は目に刺さるような白さのタンクトップを着ていて、火燐に目もくれずに何かの本を読んでいる、傍らに他の書物が何冊か置かれている、そして前のテーブルに見るだけで頭が痛くなる複雑な算式が一面埋まっている紙が何十枚か置いている。
男性の膝を枕に、一人の少女が寝ている。
男性の後ろのソファーに、もう一人が顔に少女漫画の週刊誌を被って寝ている。
ソファーに寝ている人はスポブラ着ているので多分女性かと思うが、シックスパックに割れている腹筋や火傷と傷跡が所々見える胴体はどうしても女性だと思えない。
人形の置いてる部屋の下はガラス張りの丸見え個室、少女二人が個室入り口の外で5×5のマジックキューブを弄っている。
ソファーから個室への動線の向こう側にキッチンがある、そして台所にもう一人の少女が立っている。
「いらっしゃいませ、火野さん。」
淹れたてのお茶を持って来た少女、火燐は知っている。
先程ドア前で聞いた声の原因ではない、この少女は今年の新入生代表で、海原学園の一年生だったらきっと泡渕宇多子の名前を知っている。
琥珀の様な透き通ったアンバーの瞳と見るだけで安心するような優しい眼差し、聞くだけでふわっとなる柔らかい声、佇まいで直感するスマートな曲線美。白いワンピースととても似合う色白肌は室内の間接照明で程よい艶を出している。腰回りまで伸びたキレイな明るい栗色の長髪は、何故か右側の目より少し高い所だけが特別で複雑な編み方をした。この髪型は優等生のおしゃれと知られて、海原の学生SNSではブームになっている。
彼女の入学式の答辞の録音はネットでリラックス用の催眠音声アレンジが出ている程、しかもダウンロード数が20万を超えている。
「泡渕さん、何故貴女がここにいますの?」
「ここは私の寮ですもの。」
答えたようにみえたが全くもって何も説明されてなく、そしてさらなる説明をする意図も見えなく、話は進められた。
「さぁ、座ってらっしゃい、白染に会いたかったでしょう?」
白染と呼ばれた男性の向こう側にお茶を置いて、宇多子はまたキッチンに戻った。
全く何もない普通の仕草のはずなのに、名状しがたいエロさが漂ってくる。まるで一挙手一投足が全て誘惑しているように感じる。でもまた思い出すと、その仕草は全く普通の物で、自分も日常生活でよくする動作。
宇多子を見た瞬間に湧いて出た雑念を振り払って、火燐は白染に目を向いた。
服と正反対の真っ黒の髪はもうちょっと少しで首に届く位に整っている、体は筋肉が程よく付いてるように見える。
やっと本を置いて火燐に向いた顔に表情一つもない、その端正な顔と鋭い目に向かれるだけで何か気圧された気がする。
そのすべての光を吸い込むような漆黒の瞳に、火燐は少し怯んだ自分の姿をはっきり見えた。
「先ずは自己紹介、万代白染、呼び方は自分で決めろ。」
「火野火燐です、よろしくお願いします。」
「会話を始める前に一つ質問、いいか?」
「あ、はい、どうぞ。」
この早過ぎるペースに付いていけなく、火燐が少々混乱した。
「日置金勝紀に何か個人的な事があったか?」
白染の質問を聞いた瞬間、火燐の周りにパチパチと火花が舞った。