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異能研究所

お昼はかなり愉快な雰囲気で終わった。


お互いに一週間に何あったかを話し合い、笑い合うような和やかな雰囲気、まるで本物の家族みたい。


「で、午後のあれは何時行けば良いんだっけ?」


片付けながら、有子は宇多子に聞いた。


「実験は2時半開始ですから、あと30分遊べますよ。」


「宇多子はもうすぐ孤児院のボランティアでしょう?皿は私が洗うから、早く準備して。」


紫苑は自然と皿を洗おうとする宇多子の手からスポンジを取った。


「準備は昨晩でもう終わってますよ、皿を洗う位、時間あります。」


「それでもだよ、白染と繋がって、疲れを感じられないから、時間ある時はちゃんと休みなさい、体を壊してからだと遅いでしょう。」


「早めに行くか?先方に着いても座る場所位あるだろう?」


「そうですね、そうしましょう。」


「え?じゃ私は何をすればいいんですか?耳の力(セカンドセンス)の特訓とかないんですか?」


「あ?アンタ宿題は?一ヶ月分よ。」


「んなもん、十日あれば十分わ!」


「まぁまぁ、じゃ火燐さんは有子ちゃん達と一緒に行ってはどうでしょう?」


「あれって、部外者が行って良いものだったっけ?」


有子は葵と白染に聞いた。


「別にいいんじゃない?そこ機密じゃないし、ただの異能(スキル)アナライズだし、ついでに訓練用のトレーニング機材も借りれるから一手間省けるでしょう?」


葵はこう言いながら白染の方を見た。


「かまわん。」


白染は宇多子を孤児院に送りながら頷いた。


「どこ行くの?」


また事態が自分が何も分からないまま進んで、火燐はそろそろ何か言った方がいいと感じた。


「異能研究所よ、軍のベースにあるんだけど、異能(スキル)がカリキュラムに組まれると一緒に、今年の年末までに公表、そして開放施設にする予定、そこに白染デザインのトレーニング機材がある。」


答えたのが葵。


「私達ライブラリーハウスのメンバーはそれぞれ自分の異能(スキル)持ってるんだから、定期的にそこに呼ばれるよ。」


「へー。」


何か危険無さそうなので、火燐は警戒を解けた。


「何か言いたいなら言えよ、ニヤニヤしてキモイんだけど。」


有子は急に丈典を突っついた。


「いや、別に。」


食後消化にストレッチしている丈典は確かに何かと楽し気な表情をしている。


「どゆこと?」


「丈のヤツ、毎回あたしたちがユニックの異能(スキル)があるって言う度にこのムカつく顔であたしたちを見るんだよ、私もいつかはすんごい異能(スキル)をデザインして、ぎゃふんと言わせるからな。」


「俺をぎゃふんと言わせるのはいつも料理の方なのに?」


有子は連続ローキックでY字バランスをしている丈典を蹴っているが、丈典は微動だにしない。


有子の答えが何かずれているように感じた火燐は宇多子がいないので、目を向く相手が分からなくなった。


「聞きたきゃ聞けばいいぞ、ここではお前を無視するヤツいないから。」


きょどってる火燐に声をかけたのが穣。


「そうね、宇多子はついつい人を甘やかすから、そればかりに頼ってっちゃいつまで経ってもここに馴染めないよ、先ずは千影が自発的に話しかけるまで馴染めてみれば?」


いつの間にか寝間着をジャージに着替えた葵が言った。


生ごみ処理機の中身を袋に詰めている千影は『何故そこで私に振るの!?』みたいな顔になっている。


「ま、大方、有子が言った『ユニーク異能(スキル)』と『デザイン異能(スキル)』の差が分からんだろう?」


テレビゲームのコントローラーを静緒の方にパスした穣は火燐の方に向いた


異能(スキル)についてどこまで知っている?」


感の力(センス)で使うとしか。」


感の力(センス)とは、世界を感じ取る力だ。」


穣はポケットからメモ用紙を取り出した。


「六感を磨き、ある限界を超えると、感の力(センス)が自身以外にも影響するようになれる、そしてその影響を固定な方法で放出するのが異能(スキル)だ。」


穣は腕を一振りで、何切れのメモ用紙を白染、灯里、静緒にパスした。


「一般的に、マスターした瞬間、最も簡単な力の放出は本能で会得するが、その放出の形は人それぞれ、これは利き手や癖みたいなものだ、こうやって、異能(スキル)じゃなく、単なる目の力(ファーストセンス)の放出でも効果は個人差がある。」


言いながら、穣の手にあるメモ用紙は黒くなって、白染のメモ用紙が消え、灯里のメモ用紙が二回り大きくなって、静緒のメモ用紙が光り出した。


「そしてその放出がある規則を成して、意図なしに異能(スキル)みたいな働きをすることは稀にある。異能研究所はそんな本能的に作られた異能(スキル)を解析し、他の人も使えるようにする為、そんな異能(スキル)を持っている人を定期的に呼んでいる。」


「因みに、丈みたいに自分でデザインした異能(スキル)はもう仕組みははっきりしているんで、異能研究所に呼ばれることはない、代わりに知的財産権に守られて、中央異能管理局の許可なしでは習得も使用も違法になるのよ、理不尽でしょう?」


「どこが?」


葵の補充に同感できなかった火燐である。


「だって丈は去年の権利金だけで15万貰ったよ?私達も他人が使えない異能あるのにこの差は何?」


「その差は多分異能(スキル)の仕組みについての説明と他人が習得できる為の教材編成にあるんじゃない?普段の任務と並行してやった時は死ぬかと思ったぞ、学生さんには分からんだろうがな。」


「そろそろ時間だ。準備はいいな?」


葵と丈典が喧嘩になる前に割って入ったのが白染でした。


「はーい。」


もうジャージに着替えた葵と有子はこう返事するが。


「あっ、ちょっ、私はまだ。」


まだミニスカのままの火燐はどう準備すればいいか分からない。


「宇多子の体操着は持っといたよ、そっち着いてから着替えれば?更衣室あるよ。」


有子は手に持っている買い物袋を顔の高さまで上げて少し振った。


「じゃ…じゃあ、出発?」


火燐は白染の方を見た。


「レッツゴー!」


有子は火燐の肩に手を下した瞬間、また視界が変わった。


周りは如何にも『工場だ!』と思わせるようなボイラーと巨大パイプが沢山並んでいる施設の裏。


「え?もう?」


「もう何回も体験したでしょう?咫尺天涯の移動は過程がないから、いちいちびっくりしても時間の無駄よ。早く入って。」


言いながら、葵は率先して勝手口から入った。


「ほら、行こう。」


宇多子の体操着が入っている袋を火燐に押し付けて、有子も建物に入った。


「え?ちょっ!アンタらはペースを合わせる選択肢ないの?」


「いつもこんなペースだから、合わせてみれば?」


火燐も有子に追って施設に入った。


中は思ったより研究施設っぽくなく、明るくて広い廊下に配線配管は全部ちゃんと壁の中に納めたようで、清潔な印象をもたらす。


二つ角を曲がったところにあった部屋を入ったら、いかにもマイルームアレンジされている個室風景が広がった。


「ここは所長室、毎回来たら先にここで到着報告、おっさんは大体の時いないが、入り口に定制かかってるんで、私たちが入ったら知らせがおっさんの所に行く。」


まるで自宅のように棚から小包の煎餅を取った有子が説明した。


「まるで僕がいないように説明しないでくれる?」


部屋奥のデスクに座っている男性が眉間を揉みながら言った。


「この人がここの所長の尾坂博士、通称おっさん。」


「尾坂か所長で呼べと何回言ったら分かる?僕は今年で42、まだまだおっさん呼ばわりではない年のはずだ。」


有子の紹介で、眉間を揉んでいる右親指が明らかにもっと力を込められた尾坂であった。


旧時代の平均寿命は112歳、大災害で50歳以上の人間は殆ど亡くなったが、42歳は確かにまだ若者として扱われてもおかしくないが、有子達新世代の子にとって理解しがたいだろう?


「この異能研究所の最高責任者の尾坂修だ、火野くんだな?話は万代から聞いた、直接施設を使っていい、何か分からないことがあったら現場の作業員に聞けばいい。」


「私たちは?」


「佐伯はそろそろ最終シークエンスだな?いつも通りでいい。酒井はもう異能に変なアレンジせんで頼む、毎回計算が狂わされるこっちの身になってもらいたい、何度も呼ばれて迷惑だろうに。」


「はいはい、じゃまた。」


有子は適当に答えて、部屋を後にした;葵も最初から最後まで口を開かないまま部屋を出た。


「よっしゃ行こう!」


「廊下で大声出さない!」


葵は有子にチョップをかまそうとしたが、有子はもう角を曲がった。


「…」


よく喋るヤツがいなくなって、普段はあまり喋らない二人はお互いを2秒程見つめ合った。


「『お願い』は?」


葵が急に話しかけたが、火燐はそのどこから涌いたかも知らない言葉にポカンとなる。


「アンタさ、先も言ったでしょう?ちゃんと自分の需要を言い出さないと、いつまで経っても私達に馴染めないよ。宇多子は人を甘やかすから、有子は馴れ馴れしい上に何だかんだ身内と思っている人に優しいからって、甘えてるばかりしていいの?先ずはこれから何がしたいかはっきり言い出してみれば?」


「じゃあ…更衣室までの道を教えて下さい?」


「いいよ。」


葵は少し笑顔を見せて前を歩き出した。


30分後、着替えた火燐はやっと耳の力(セカンドセンス)のトレーニングルームに着いた。


葵とは更衣室でもう別れた、そちらの用事はどうやら3時間以上掛かるらしいので、トレーニング後の暇つぶし用の娯楽室の位置まで教えられた。


トレーニングルームに入ったら、想像したジムみたいな暑苦しい感じがなく、金属のカプセルが大量に並んでいて、配線にも気を使っているとても清潔な空間だった。


「火野さんですね?話は所長から伺っています。」


黄色のカバーオールを着ている女性作業員が親切に話しかけて来て、とても気持ちいいペースで火燐にトレーニングルームの案内をした。


ここ数日、ライブラリーハウスで変なペースにつられたばかりの火燐は一瞬泣く衝動すらあった。

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