ライブラリーの週末
心の奥底を叩くような声、火燐は思わず直感で答えた。
「耳の力!」
「そうか?なら特訓開始したい時何時でも言え。」
相変わらず目もくれずに何か学術的な本を読んでいる白染だが、火燐は確かに見られている気がする。
「宇多子、時間ある時でいい、彼女に特訓の詳細を教えてやれ。」
「はい。」
とても重要な事なのに、白染も宇多子も夕食の買い物のノリでもう決めた。
「さっきのが『問心』?」
ツッコんでもしょうがないので、他の事を聞いた火燐であった。
「はい、直接意識の奥底に話かけ、問われた者の本当の欲望を聞き出せる異能、有子ちゃんから聞きましたね?」
「あぁ、聞いたはいいが、実際効果を体験すると想像と違ったな。」
「元々はどんな想像しました?」
「耳の奥底を響く位しか想像できなかった。」
「耳の奥に声を響かせるぐらい、耳の力だけでできるっしょ?あたし問心は意の力ベースの異能って言わなかったっけ?」
「バーン。」
葵が急に効果音を発した。
全然大きい声じゃないのに、内耳に直接響いて、火燐は耳の奥底の激痛と強烈なめまいに襲われて、思わず頭を抱えた。
「これが耳の奥底を響くことよ、問心とだいぶ違うでしょう?」
「まあまあ、意の力の異能は実際体験してみないと想像できないものが多いのよ。」
今回火燐がキレる前に喧嘩の元を断ったのが宇多子の方でした。
「火燐さんは前見せた人格アンカーの事を覚えている?」
「覚えてるけど?」
まだ耳鳴りとめまいがしている火燐は機嫌悪そうに答えた。
「問心はその集団的無意識に作用するんです。具体的な原理は私もよく理解していませんけど、意の力でメッセージを集団的無意識を通して直接人格に伝えるそうです。だから直感で答えさせることができます。代わりに本人が心底無関心なことに対して問心を使っても効果ありませんので、多分火燐さんが恐れていることは起きませんよ。」
「別に何も心配してないけど?」
「そうですか?失礼しました。」
「宇多子、軍から連絡来てるわよ。」
ソファで読書している女性の内一人が急に話をかけて来た。
「え?どこ?」
宇多子は珍しく全く分からないような表情に。
「ここ。」
答えたのが白染。
「重要?」
白染は返事しなかった。
「そうですか?有子ちゃん、葵ちゃん今日午後時間ある?」
多分脳内で情報を同期したか?宇多子は急に状況を把握できた。
「私は午後シフト入ってる。」
「あたしの予定はゲームだけだけど?どうした?あれか?」
「うん、そうだよ、いつもの所、指名よ。」
有子はともかく、葵は白染の方を見た。
「話は通した。」
「はい、これで時間空けた。」
「では出発はお昼の後で。」
「じゃ早速お昼にしましょう?」
キッチンの方からキレイな声が来た。
昼の話をしたら、ライブラリーハウスのメンバー全員が急に積極的になった、火燐がまだ動き出してないうちに、食卓をセットアップした。
普段の堀こたつ二枚合わせではなく、いつも有子が占領するソファも白染もどかされて、四枚合わせのデカいダイニングテーブルのできあがり。
「早っ!てかここの床も堀こたつにできるの?」
「え?ここの床は全部堀こたつよ。」
「じゃテレビの方にも堀こたつじゃん?何でわざわざソファなんてどかして。」
「ゲーム機は後で使う人いるじゃん?アンタ本当に人の身になれないね。」
「ソファだってそうじゃない!?」
「週末の午後、大人組は白染とデートするんだから、ソファ使う奴いないよ?」
「知るっか!!!」
「漫才は程々に、料理運ぶの手伝いなさい。」
キレイな声の持ち主がドデカ釜を持って来ながら有子に言った。
割烹着がとてもお似合いな美人で、服の上からも分かるような細長い手足は170㎝の身長をより長く見せる、そしてマスクを通しても水晶のような透き通ったキレイな声、マスクをしても美人だと確信させるような人だ。
「コイツがしお姉、今は学校のの食堂で働い…」
「誰が塩だ?紹介するならボケてないで名前をちゃんと教えなさい。」
釜を置いた女性は有子の脳天ど真ん中にチョップを入れた。
「火野さんね、宇多子からは色々聞いたわ、私は龍造寺紫苑、食堂で火金限定スペシャルメニュー”紫苑スペシャル”の考案人だ、売上げによってボーナスが入るから、気に入ったらよろしくね。」
有子の耳を引っ張りながら、紫苑は火燐に自己紹介をした、火燐に返事させる間を与えなかった。
「俺は東海林穣、丈と同じく軍の者だ、よろしく。」
火燐の中では『有子に三連敗したアホ』というタグが付いてしまった青年もやっと自己紹介した。
そして他の人も順番に自己紹介した。
先程宇多子に軍の連絡を知らせた女性が赤塚灯里、その隣でファッション誌を読んでいたのが水無月静緒。
灯里は白染と軍の間に立つ連絡員で、厳密に言うとライブラリーハウスのメンバーじゃないらしい、ただ職務の便で毎週土曜日の昼をここで食べるようになっただけ。
そして静緒は性同一性障害のせいでイジメられて、不登校になった人、本名は静雄。
ライブラリーハウスのメンバーになって、自分に自信を持てるようになって、高校から読者モデルのバイトを始めて、一昨年卒業後すぐファッション界で仕事に就いた。
「つまり午後白染とデートするのは…」
火燐が変な目で軍のメンバーの男性二人を見た。
「デートというより、特訓だな。」
迷彩タンクトップに着替えた丈典が訂正した。
「俺らまだ感を二つしかマスターしてねから、軍の最前線に立つために、一刻も早くもう一つの感をマスターしてぇ。」
「最前線?戦争ないのに?」
「今の軍はまだ整備中、対外の事務は主に民間の探索隊のガードで、新聞にあまり出ないかもしれんが、最前線はちゃんとあるわよ。」
うどんにカレーを入れながら、灯里が答えた。
「今の世界は98%海だが、海原の巡航範囲で、特定できる島は幾つかある、それらの島では結構凶暴な動物が沢山いて、発掘基地などを毎日のように襲うんだ。」
「かくして、丈とジョーの両親もどっかの基地の護衛任務で亡くなった。経験者が言うには、外観は旧時代の動物図鑑とほぼ同じだが、体型とパワーが桁違いで、身の力がレベル4以下だと太刀打ちできないらしい。」
有子も話に割って入った。
「白染も普段それらの島を巡って、動物退治をするんだ。たまに肉も貰えるぞ、とびっきり新鮮なやつな。」
「うっ、食う気になれないな。」
「と言っても、一昨日のカレーに熊と鹿を入れてたぞ。」
「えっ!?」
「知らないだろう?金があっても、買えない時があるんだから、うちの冷蔵庫の奥にいつも白染が時々持ってくる肉をストックしてるんだ。」
「変なもの入れるのなら先に言えよ!」




