週末のライブラリー
土曜の朝、火燐はまた図書館に来ている、彼女は寮に送られる前に、宇多子に誘われたから。
毎週の週末、昔ライブラリーハウスのメンバーだった人が集まって、一緒に週末を過ごす。
「あー、卑怯な!」
「あっちゃん動きワンパターン過ぎ。」
「ちー、妨害アイテムばかり集めてないで加速しなさいよ!」
ドアを開けた途端、中から凄く元気な声が響いている。
玄関から見て、有子、千影、光、葵と一人見たことのない青年がテレビの前に集めていてゲームしている。
有子が普段午後一眠りするソファにも見知らぬ女性が二人いて、各々安静に読書している。
ソファの後ろの壁の一番上、宇多子が普段洗濯物を干している物干し竿で自重トレーニングをしている半裸の青年が一人いる。
こんな所を見ると、彼女達も普通の少女に見える。
「お早う。」
もう慣れている火燐は知らない人がいても怯まずに自分の定位置に着いた。
「お早うございます。」
宇多子の声がキッチンの方から来た。
「白染は?」
「週末の朝はいつも雛ちゃんと一緒に散歩に出ますよ、雛ちゃんは普段動きたがらないから、白染は時間ある時に能力練習という名目で雛ちゃんと散歩に出ます。」
焼き芋とお茶をお盆に持つ宇多子が答えた。
「へぇー。」
「10時前に戻ってきますよ、心配は要りません。」
心配していないんだけど?の顔をして、火燐は宿題手帳を開いた。
始業してすぐ長期間無断欠席の結果として、火燐は教頭先生に凄く怒られて、翌月末までに欠席した分の宿題に加えて、反省書も提出しなければならない。
反省書の方は適当ながらも真面目に反省したように見える文面ですぐ終わったが、宿題などは時間がかかる。
「大変そうだな。」
物干し竿でプルアップを3千何十回を数えている青年が急に話しかけた。
「ま、量が量ですから。」
もうここの急に話しかけられるスタイルに慣れた火燐は何の戸惑いなく返事した。
「んで、どちら様?」
「こいつぁ失礼した、養老丈典だ、今は軍の特別行動隊で世話になっている、そこで有子に三連敗しているアホとは同僚だ。」
丈典はホールに背を向くまま足の親指でテレビの方を差した。
「負けてねーし、たまたまランクが下なだけだ、カーレースゲームでビリじゃなけりゃ負けはあるか?」
アホと呼ばわれたもう一人の青年が反論した。
「そういうなら、ここで有子に三連敗になっているアホは二人程いるな。」
葵は目を光の方にも向いた。
「で、紹介しないなら私は宿題に集中するんだけど?」
「どうぞどうぞ、紹介は後でいくらでも時間あるんで、今は来週のチケットをかける真剣勝負だ。」
「ほう?ならお前の負けを祈ろう。」
先日ハチの巣料理に毒された火燐は遠慮なく有子にツッコんだ。
「ふん、また蚕の揚げ物を作っても分けてやらんぞ。」
「それぐらいは自分で作れるから結構です。」
「あ?蚕の仕入れ先も知らないヤツがよく言うね。」
「かーちゃんはすっかりあーちゃんに毒された。」
「類友だから、コイツらは沸点が低い所が似ているよ。」
「かーちゃんはやめて。」
こんなギャーギャーの中で、結局火燐は有子に乗せられて、ゲームに参入した。
休みの時間の流れは速い、日が高く昇って、日差しが直接丈典の目に差す時間になったら、白染と雛が戻ってきた。
そしてら一万何百までプルアップしていた丈典はやっと物干し竿から降りた。
5メートル程の高さをクッションなしの直接着地は身の力がレベル1から可能だ、つまり小学生も難なくできる。
「はっさん、稽古だ!」
勝手口から入ったばかりの白染は丈典の方に淡々と視線を向いたら、また外に出た。
そして丈典は上着も着ずに追っていった。
「?」
火燐は無言に有子に目を向いた。
「丈は脳筋だから。」
レース真っ最中の有子は火燐の視線を感じたか、適当に火燐の疑問をあしらった。
急に、火燐は頭に何かチクッと刺さったような感じがした。
「うっ、あんにゃろう、またそれを使いやがって。」
急な影響のせいでゲームの操作にミスった有子がブツブツと呟いた。
「これなに?」
「丈の得意技だ、耳の力をメインにした三感の変化異能だと、実際はどんな仕組みか分らんが、超音波と低周波音を同時に発するのは聞けば分かる。」
耳の中を掻きながら、有子は答えた。
「因みに、丈は宇多子の命名を頑なに拒んでいるんで、その異能は未だに名前がない、私達は勝手に丈スペシャルと呼んでいる。」
「あれ使うと、半径十メートル程の範囲内の人は全部影響受けるんだよ、何回も付近で使うなって言ったが、アイツは聞く耳持たねぇから。」
隣の青年も耳の中が痛いようで、耳の中を掻いている、有子と並んでの絵面はどこか滑稽な感じがする。
「自分が初めてデザインした異能だから使いたがるのよ、白染に効かないと知っても。」
「これ毎回のことなの?」
「ああ、待ってろよ、戦況が長引くと何回も使うから。」
「何で予防策を取らないの?」
「どう取る?白染じゃあるまいし、消音の定制を5分も10分も維持できないよ、それに距離も離れてて壁も隔てて、ちょっと不快感を感じるだけまで威力が下げられてるし、対策した方が疲れる。」
「あーちゃんは消音使えないのに、まるで使えてるように言う。」
「はぁ?身の力にも音声系の攻撃に対する防御手段あるんだよ。」
「それ定制じゃねぇじゃん?」
「で、これどれぐらい続くの?」
また口喧嘩になる前に、火燐は割って入った。
「うーん、測ったことなかったな、ジョー、いつもはどれぐらい?」
有子は問題を隣の青年に投げた。
「稽古だから、白染はあまり攻撃しないようにしている、毎回結構長い気がする。」
話している間、あの脳内に直接伝わる痛みをまた全員を襲う。
「あ、間違っても勝手口を開けるなよ、これの直撃喰らったら耳から血を吹き出しながら一瞬ノックアウトよ。」
また耳の中を掻きながら、有子は火燐に注意をした。
「そんなに威力高いの?何で白染に効かない?」
「白染は洞明あるじゃん?それで音波を視力で捉えられるから、喰らう前に変化なり定制なり手を打てる。」
火燐はチートじゃん?の顔になった。
「それに、白染の周囲は常に六感のエネルギーが溢れているから、かなりの質量の物理攻撃がない限り、彼を影響できないよ。」
「そもそも白染の能力で作り出した物質は完全遮音ですから、普通にフール装備したら、そのまま立っていても丈はダメージを与えるのは無理ね、今は普通の服だけど。」
ライブラリーハウスの現と元メンバー達の話で、火燐はまた白染の強さに一層認識を深めた。
距離と重力は彼にとって全部無意味、殆どの攻撃を無視できる程の防御力、四感異能をも瞬発できる六感の力のコントロールスピード。
本当に『こんなのにどうやって勝つの?』と叫びたい位の強さ、彼に勝てる生物はいないと断言したライブラリーハウスメンバー達の言葉に頷けるしかできない。
「そういえば宇多子さんにも影響なさそうですね?」
「私は白染と繋がっているから、白染はついでに私の方に異能を掛けるんだ。」
「それは羨ましいな。」
三回目の衝撃でもう痛みに慣れた火燐である。
「言えば白染はアンタにも掛けてもらえるよ、脳にダメージが入っていないと普段は意味ないけど。」
「それ、負担が大きいって話じゃなかったっけ?」
「それは掛けられる相手は少なくとも一つの感をマスターした場合の話よ、マスターした感の力が定制の構造を侵蝕するから、エネルギーの補充がやや頻繁に行わないといけなくなるだけ。アンタが一番高い感でもレベル2だけだから、マスターを考えるのは一年早いな。」
「一年?感をマスターするのってそんなに早いの?」
「血反吐を吐くような努力をすれば、できなくはない。」
答えたのが自称血反吐を吐くまで努力した有子である。
「レベル3は土台が殆ど完成されている状態だから、普段使うだけでもうレベルアップが困難な反面、集中的に鍛えればマスターはすぐよ。」
「実際丈は当初7ヶ月で身の力をマスターしたな、脳筋は伊達じゃないねって、アイツ最初からレベル4じゃん?」
「自分が言いながら自分でツッコミを入れるとは、お忙しいこと。」
有子の急なハイテンションにもう慣れた火燐は追加のツッコミの入れた。
「その感をマスターするには、一体どんな努力をすればいいの?」
「それは何がマスターしたいかで変わりますね、一般的には心の力の弱点を補える感からマスターする、例えば葵ちゃんは心の力が自分の視界をも妨害してしまうから、先に目の力をマスターしました。」
「目の力の鍛え方は主に視神経に影響や刺激を与えることになります、軍で用いる訓練では、人を複数種類の不可視光線が漂う空間にジッといさせて、目に徐々視認できる波長の種類を増やせて行くのが定番です。」
今回答えたのが宇多子。
「他に、自身の状況によって選ぶこともよくあります、有子ちゃんの場合は身の力をマスターしなければ、普段の生活に不便があるから、雛ちゃんは目が見えないから先に代用として耳の力をマスターしました。」
「え?見えないの?」
火燐が思わず雛の方に目を向いた。
片方の眼窩が空っぽの有子と違い、雛の目は普通にあるし、そして今でもテレビゲームをやっているし、どうしても盲人とは思えない振る舞いだ。
「これは超リアル感ある特注品だよ。」
火燐の目線を感じ、雛は自分から眼窩の中に入れている義眼を取り出した。
火燐は息を呑みながら三歩位下がった。
「一々リアクションして疲れない?」
あまり火燐に話しかけない葵も珍しくツッコんだ。
「今は目の力もマスターしているから、普通に見えるよ。」
義眼をまた戻した雛が言った。
「あ?目もないのにどうやって?」
言ったそばから言い方にデリカシーがないと気付いたが、言った話を取り換えることはできない。
「どうって、気合?」
どうやら雛本人も原理が分からないようだ。
「白染曰く、目がなくても、“見る”機能がなくなった訳ではない、らしい。」
「原理はわからんが、言う通りしにしたら普通にマスターできたって。」
「原理でしたら私知りますよ、言うと長くなるけれど、聞きますか?」
「いんにゃ、遠慮しとく、目玉はまだ片方残ってんで。」
「聞いてもお前に意味ないじゃん?お前が今集中しているのは舌の力でしょ?」
「で、感をマスターしたら、何か未来に役立つの?」
有子と葵がまた喧嘩になりそうな絶妙なタイミングに、火燐が割って入った。
「何言ってんの?アンタも宇多子の(子供の為の)異能講座受けたじゃん?それでも分かんないの?」
「それとこれに何か関連性あるの?」
「当然でしょう?これから文明復興に一番重要な建設と水底探索に、医療と科学の進歩に、どれも異能が重要って言わなかったっけ?」
「強化異能を使えば、身の力をマスターした人は素潜りで1万メートルまで行けるし、変化異能を使えば、水中でも呼吸できる、定制異能使えば海底火山地帯にも入れる、旧時代と共に消えた文明の資料を掘り出せるよ?関連性ない訳ないじゃん?」
「お…おぅ。」
有子の急なハイテンションにびっくりした火燐であった。
「火山地帯に遺跡ねぇぞ、それに、1万メートルまで潜れるだけで、目の力の異能が平行で使えないヤツは探索できん、何も見えんから。」
いつの間にか戻って来た白染は急に話に加わった。
「例えだよ、ただの例え。」
話しながら、白染は右手を何もない所で何かを掴もうとしたように握って、そしてまるでプールから出たような丈典現れた。
「はっさん、じぶ…」
話がまだ終わってない所、丈典はまた消えた。
風呂からの音からすれば、丈典は多分風呂に投げられた。
「で、お前は感を一つマスターするとすれば、何にしたい?」




