作戦会議
「こんどは何?」
「いちいちびっくりするねぇ。カオステレポートだから、半径300メートルのどこかに転送されただろう?咫尺天涯でも、定制として使ってしまえば範囲は限定されるから。」
アリーナ上の白染はもう天涯咫尺でどこかの椅子を取り出して、本を読み始めた。
「これは相手が戻ってきたらすぐまた転送されるパターンだ。」
向こうのVIPルームに、日置金勝紀が立ち上がって、アリーナを怖い目で見ている。
こちらのVIPルームに、有子がパクパクポップコーンを食べている音しかしていない。
暫く経って、日置金勝紀は内線で何かの指示を出して、アリーナにいるレフェリーがまだ何もわからない状態で、白染の勝利になった。
そしてマイクを持った日置金勝紀は何かを言いかけたそうだが、VIPルームのスピーカーはミュートになっていてライブラリーハウスメンバー達は何も聞こえなかった。
こちらのルームからだと白染の首が横に振った以外は何も見えなかった。
そして白染もすぐ退場し、選手通路に消えたら次は宇多子の傍に現る。
「帰るぞ。」
「はい、行きましょう。」
と言いながら、ライブラリーハウス一行はお互いの肩を掴み、その効率から見て、普段はきっとよく練習しているでしょう。
白染達の姿がVIPルームから消える所を向こう側のVIPルームから見た勝紀の表情は険しい。
「まーちゃん、何か分かることあった?」
「向こうの娘達はお互いの肩を掴んでから消えた、つまりその能力か異能か分からないテレポートは使用者が接触しないと他の人を連行できないものと推測しよう、これ以上は分からないね。」
まーちゃんと呼ばれたのは異能トレードのマーケットを牛耳ってると謂われた顔立ちが中性的なロングヘアの男性。
「一貫さん、アイツに勝てそうか?」
勝紀は部屋の奥に静かに観戦していた大柄で筋肉質な男に聞いた。
「実際やらんとわからんが、単純の殴り合いなら勝ち目はなさそう。」
「それ程なのか?」
勝紀は信じがたい表情を出した。
「最後のあの能力か異能か分からんヤツはさておき、あの男のリアクションスピードはでたらめだ。」
一貫はVIPルームのスマートスクリーンを操作して、先程の対戦記録を出した。
「日置金、アリーナのカメラは一秒何コマ?」
「?」
日置金は無言に後ろにいるSPに目を向いた。
「第三アリーナの記録用カメラは秒180コマの物を用いています。」
答えたのはSPではなく、スピーカーから流れた女性の声。
「なら尚更でたらめだ。」
一貫は画面を分割するように操作し、画面ごとに対戦中の白染の動きを捉えている。
「見ろ、この男はアサンが動き出す前の3コマ先でもう動いている、現実で見れば、肩の筋肉が収縮する瞬間、腕がまだ動き出していない段階でもう対処しいるようなものだ。こんな馬鹿げた奴と殴り合いなどできるはずがない。」
「うーん、ここまではできないが、私は確か似たような異能を見たことあった。」
まーちゃんは何か考えている様子で言った。
「珍しい意の力の異能だったから、印象に残った、確か目の力も同時に必要な二感の探知異能で、生体電流のシグナルを目で捉えるようにするという。」
「成程、それと似た機能の異能が使えるなら納得できる。」
一貫は頷いた。
「なら彼は少なくとも意の力をマスターしているな。」
勝紀は六感の力については一般人より詳しい、生体電流に関わるなら意の力が必要だと知っている。
「これを言うのは何だが、耳の力の異能に筋肉活動や服の摩擦の音で相手の動きを判断できる異能もあるんだぞ、分類は強化異能なんだけど。」
勝紀の早とちりにまーちゃんはつっこんだ。
「それはもういい、仕掛けは探知異能なら対処法は何れかある、次は最後に使ったヤツだ。」
「アサンを1階に送ったあれですね?」
まーちゃんは急に何気に楽しそうになった。
「アサンは道着を着るタイプで良かったね、もしボクサーパンツ一丁スタイルの人が正面エントランスに送られたら流石に困るでしょ?」
「んなことどうでもいい。」
勝紀が更に機嫌悪そうになった。
「もしそんな能力か異能か知らんヤツを毎回使われると、試合は見所もクソも残しやしない。」
「そう言えば彼は先の会談で、変化異能を定制異能として使えるって言ったっけ?先のアサンの消え方も彼のテレポートと同じ感じだから、試合で使ったのは定制バージョンなんじゃない?」
「じゃ彼の能力は一体なんだ?」
「分かりませんね、能力自体が公表されてないってことは登録レベルに偽りがあってもCは超えてないから、気にする必要ある?」
「そうとは限らんぞ、脅威レベルCはただ直接深刻な傷害を与えられないだけ、面倒くさい能力も結構ある。」
一貫はまーちゃんの慢心に反論した。
「先のアサンもそうだ、超回復の能力はどう使っても相手にダメージ与えられんが、殴り合いが長引いちゃキツイ。」
「へー、この間のSランクチャレンジ招待で一撃KOしたのに?」
「あぁ、相手の情報を調べて、長期戦に持ち込まれるとキツイと見たから最初からフルパワーをぶちかましたまでだ。」
「流石Sランクのトップ、高々Cランカーを相手にしても情報収集を怠らないね。」
「高々じゃねぇ、アサンは達人にあと一歩の手練れだ、彼の寝技から脱出する自信は俺にもない。この点において、あの白染とやらがサブミッションでアサンを制圧できる所、もう達人と言っていいと思う。」
一貫は白染にかなりの高評価。
「日置金、彼の次の試合はどうする?あんな実力なら、並みのSランクも相手に成らんぞ、アサンの実際の実力はAランクでも前から数えた方が早いからな。」
「次はBランクの上位ランカーを当たる、ルールはルールだ。」
この格闘クラブでは、他の格闘団体でどんなに高名でも、試合が公表しないノーランクから始める。
ノーランクで勝率を9割以上、且つ直近の5試合が全勝している者だけCランクへの昇格戦に挑める。
Cランクも同じ仕組み、通算勝率が8割以上、且つ直近の5試合が全勝している者が昇格戦に挑める。
Bランクは勝率7割且つ直近の5試合が4勝を取っている者が昇格戦に挑める。
Aランクになったら通算勝率が7割あればいつでもSランクにチャレンジできる、勝ったらSランクに昇格。
一貫にAランク上位の実力があると評したアサンもCランクでありながらSランクチャレンジに招待される程の実力者、運悪くSランクのトップである一貫に当たらなかったら今はもSランクかもしれない。
この昇格体制はただ一つの例外がある、それが今回白染が使用したニューフェイスチャレンジという制度。
新たに選手登録を行った人だけ、直接Cランカーと対戦し、勝ったらそのままCランカーになり、そしてまた1ランク上に挑戦できる制度だ。
この制度は自分の腕に自信がある者でもあまり使わない、肩慣らしもしないで直接強者と当たると大怪我になり兼ねないからだ。
この日置金格闘クラブ運営開始以来、この制度で4戦でSランカーになったのは僅か二人。
「そういやノーランク時期のアサンを3回負かしたご老人がいた覚えがある。あのご老人を当たってみるのはどうだ?」
「勝紀様、洪様はまだノーランクです、ルールとしてはもうCランカーの万代選手と当たることはできません。」
スピーカーからまた女性の声が流れた。
「あ?ノーランクってもう1ヶ月前だろう?そんなに強い人がいつまでもノーランクにいる訳ねぇだろ?」
「洪様は週末の運動を兼ねて曾孫達のおやつ代を稼ぎたかっただけと仰いました、102戦全勝でありながら昇格戦に挑もうとせず、週末だけ2試合してファイトマネーの5000円を貰って帰る繰り返しです。」
スピーカー越しの女性もこんなことに結構困惑しているように聞こえる。
「私達も洪様の行為に手を打とうとしましたけれども、その結果はここ半年間に昇格したBランカーとAランカーの殆どが少なくとも洪様に一敗されています。」
「待て、これはあの洪さんは半年もっと以前にもうノーランクに居座っていたってこと?」
「はい、洪様はこのクラブが始業して1ヶ月程の頃に選手になりました。」
「こんどこんなことがあったら俺に報告しろ、まぁいい、彼は明日来る?」
「申し訳ございません、洪様が来るのが土日のどちらかは不定、記録から見れば土曜日に来場する可能性の方が高いとしか言えません。」
「分かった、洪さんが来たら俺に連絡を、俺が直接交渉してみる。」
「かしこまりました。」
「どういうこと?」
勝紀とスピーカーの会話を聞きながら、状況が分からないまーちゃんが聞いた。
「あぁ、ノーランクにめっちゃ強いご老人がいて、そのご老人にBランクの資格を与えて万代の次の相手にする。」
「ご老人?」
「そうだ、旧時代の何とか拳法を使うもう89歳の方だ、実力の方は先も言った、ここ半年に昇格したBランカーやAランカーが殆ど彼に負けたことがある。」
答えながら、勝紀はスマートスクリーンを操作し、選手情報を呼び出した。
「あ?登録レベルE5?本当か?」
「はい、政府と確認を取ってあります、洪様の能力脅威レベルはEで、感性マスター数は4で間違いありません。」
「これは期待できそうだな、これで万代の情報をもっと引き出せるといいが。」
勝紀達が白染対策を練っている頃、ライブラリーハウス一行はもう火燐を寮近くのバス停に送った後すぐ就寝した、有意義な週末は十分な睡眠からである。




