銀世界
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キラキラと星屑めく、華美な煌めきに満ちた白銀の世界
雪
風が唸りを上げて吹き荒ぶ ほとばしる激情に駆り立てられ、強勢に奔走し、純白の冷たい粉末を舞い上げる
風の声がどどめく
ふと、狐が二匹──思うにつがいであろう二匹が、どこからともなく現れ、あるところで立ち止まり、その黄金色の、いくぶん憂慮に染まった瞳で、後ろを振り返る、辺りを見回す
雪にまみれたその麦色の、体毛に覆われたきゃしゃで弱弱しい体 そう、狐は猛獣ではないのだ
狐ははっとある方に目をやる。すると、狐は、ぼくと目が合う恰好になる
やれやれ、とぼくは思う 今にも消え消えになりそうなこの肉体を、よく見つけるものだ きっと狐というのは、その欠如した強さを補うためか、ある種の怜悧さを身に付けて、その結果、目敏くなった生き物なのだろう
狐は駆け出し、ぼく目掛けてやってくる
突っ立っているぼくは苦笑いを禁じ得ず、俯く
程なく狐はぼくのそばを、というより、ぼくという像のただ中を、突き抜けて通り過ぎていく
そうしてぼくの体の一部は、散乱し、宙に舞い、あるものは元の形に戻ろうとし、あるものは風に吹き飛ばされて失せる
ぼくは顔を上げ、狐を振り返る 狐も、怪訝そうに、ぼくを見上げている いや、よく見ると、ぼくのように苦笑いをこぼしているようだ
風が一層声高に唸る そして辺りはにわかに静まり返る
白雪の津波が彼方で、津波そのもののように立ち、灰色の空に届かんというような高さで、ぼくの目の前までやって来る
狐は手もなく津波に飲み込まれる
巨大な陰が、ぼくの周りにぽっかりと穴を開ける 雪の壁はすぐ目の前に来ている ぼくは上を見上げる
今度は、ぼくの体はすっかりなくなってしまった ぼくの体は粉々に砕け散り、バラバラになって、もはや修復不可能となった
だが、心はまだ、そこにあって冷たい息吹を感じている ぼくは風の唸り声がまた高くなるのを聞く
心というのは、星のようなものだ 一見小さいが、ほんとは大きく、だけれど、やっぱり小さい 単純なようで、複雑 軽いようで、鈍重
その光は彼方より届き、決して真実ではないが、さも真実のように見え、ぼく等を惑わせる
その遠近感は、まったくもって魔術的だ そしてその魔術は、決して解けることはなく、ある種呪いじみていて、ぼく等にんげんに負わされた絶対的な宿命だ
──
白銀の世界 清浄な世界
それはすっかり穢れなく、汚れなく、正しさに統べられた世界 現実では決してなく、あるいは未来であり、あるいは過去である世界
狐がまた、二匹でやって来て、立ち止まり、ふと周りを見渡す
そしてまたぼくを見つけ、近寄り、通り過ぎ、まぼろしの幻惑に遭う
ぼくという星は光を放つ、それも飛び切り、鮮明で、同時にまた蒼然たる光を……
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