9 残響は消えない
水の女神スイラの従者。
ルーミヤの発言を聞き、私は戸惑っていた。
『私はスイラ様の従者です。だからです。だからこそ……私はシャウラ様を信じるのです』
理解できなかった。だって、そんなの矛盾しているではないか。
*
理解してくれ、とは思わなかった。
これは私の行動の理念。いわゆる目的なのだから、私だけが納得していればそれでいい。それだけのこと。
他の者があれこれと口を出すのに文句はなかった。
これは私の問題だから。口を出されたところで、私のすることは変わることがないのだから。単純なこと。
『女神を討つ』
五百年前も同じことをしようと、躍起になって、他の五人の女神に立ち向かって……結局は負けた。そのせいで、妙なレッテルを貼られ、世界から遠ざけられ、周りからどんどん人が離れていった。
負けた者は悪で、勝った者が正義。私は負けたのだから悪になるということだ。私もその認識でいるし、不満もない。
ただ、私は……自分の目的を果たせなかったということ。ただそれを後悔し続けた。
一人では何も出来なかった。
自分の力を過信していたんだ。他の女神は従者と協力して、自信に満ちた目で私と対峙していたのに……私は従者を連れずに一人だった。
『どうして一声掛けてくれなかったのですか! 私の存在はシャウラ様にとってその程度なの?』
そうじゃない。
私は失うのが怖いから。身内がいなくなるのが嫌だから。……なるべく、近しく親しい者はそういう戦場に近づけたくなかっただけだ。なのに……。
『シャウラ様は私なんて必要ないのですね。そうですよね……だって、貴女は一人でなんでも出来てしまうから』
そうやって、私は大事なことから目を背け、人を信じることもせず。だから、その大事なものはすぐに消え失せる。私は馬鹿だなぁ。
私は過去に仲の良かった従者を失った。
それは私の心に追い打ちをかけた。
有象無象の者が離れようが、私はどうとも思わない。でも、今まで深く関わり、一緒に過ごしてきた従者を失うというのは私にとって、あまりにも大きな後悔となった。
目的を果たすどころか、大切なものまで手の内から消えてしまう。
本当に滑稽な話だ。
女神だなんだのと、崇められる存在。しかし、それは形式上のものであって、女神にだって心はある。悲しいことがあれば気分は落ち、嬉しいことがあれば、気分が高揚する。そんなんだから私情に流されて失敗するんだ。
そんな悲壮感を抱きながら、私は一日一日を過ごし続けた。
変わらない日常、でもやっぱり以前とは違っていて……世界もだんだんと変わって、昔の心地よい空気も淀み、気分まで沈む。
だから尚更、私は私のすべきことを考え続けた。
一度たりとも忘れたことはない。
だって、約束だから。あの人と最後にした約束だから。
そうやって、私は今もまた同じように約束を果たすために進み続けるのだ。
だからこそ……まずは目先の、水の女神スイラを殺すことに意識を集中させよう。この一歩が私の始まりとなるように……。それが世界にとって望まれていなくても、構わない。誰に嫌われようと、構わない。
でも一つ心に引っかかることがあるとすれば、それはクロナの存在であった。
彼女は果たして、私が目的を果たす時まで一緒に居てくれるのだろうか?
私のことを最後に分かってくれるだろうか?
……ちゃんと前を向いて、振り返らずに歩いてくれるだろうか?
あれ? なんで私はこんなことを考えているのだ?
私情は限りなく切り捨てたはずなのに、やっぱりクロナのことになると私は変になる。
……でも、それが悪い気がしないというのは、何故だろうな?
やっぱり理解できないな。