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9 残響は消えない

 水の女神スイラの従者。

 ルーミヤの発言を聞き、私は戸惑っていた。

 『私はスイラ様の従者です。だからです。だからこそ……私はシャウラ様を信じるのです』

 理解できなかった。だって、そんなの矛盾しているではないか。





 理解してくれ、とは思わなかった。

 これは私の行動の理念。いわゆる目的なのだから、私だけが納得していればそれでいい。それだけのこと。



 他の者があれこれと口を出すのに文句はなかった。

 これは私の問題だから。口を出されたところで、私のすることは変わることがないのだから。単純なこと。


 『女神を討つ』

 五百年前も同じことをしようと、躍起になって、他の五人の女神に立ち向かって……結局は負けた。そのせいで、妙なレッテルを貼られ、世界から遠ざけられ、周りからどんどん人が離れていった。


 負けた者は悪で、勝った者が正義。私は負けたのだから悪になるということだ。私もその認識でいるし、不満もない。

 ただ、私は……自分の目的を果たせなかったということ。ただそれを後悔し続けた。

 一人では何も出来なかった。

 自分の力を過信していたんだ。他の女神は従者と協力して、自信に満ちた目で私と対峙していたのに……私は従者を連れずに一人だった。


『どうして一声掛けてくれなかったのですか! 私の存在はシャウラ様にとってその程度なの?』


 そうじゃない。


 私は失うのが怖いから。身内がいなくなるのが嫌だから。……なるべく、近しく親しい者はそういう戦場に近づけたくなかっただけだ。なのに……。


『シャウラ様は私なんて必要ないのですね。そうですよね……だって、貴女は一人でなんでも出来てしまうから』


 そうやって、私は大事なことから目を背け、人を信じることもせず。だから、その大事なものはすぐに消え失せる。私は馬鹿だなぁ。


 私は過去に仲の良かった従者を失った。

 それは私の心に追い打ちをかけた。

 有象無象の者が離れようが、私はどうとも思わない。でも、今まで深く関わり、一緒に過ごしてきた従者を失うというのは私にとって、あまりにも大きな後悔となった。


 目的を果たすどころか、大切なものまで手の内から消えてしまう。

 本当に滑稽な話だ。

 女神だなんだのと、崇められる存在。しかし、それは形式上のものであって、女神にだって心はある。悲しいことがあれば気分は落ち、嬉しいことがあれば、気分が高揚する。そんなんだから私情に流されて失敗するんだ。


 そんな悲壮感を抱きながら、私は一日一日を過ごし続けた。

 変わらない日常、でもやっぱり以前とは違っていて……世界もだんだんと変わって、昔の心地よい空気も淀み、気分まで沈む。

 だから尚更、私は私のすべきことを考え続けた。

 一度たりとも忘れたことはない。

 だって、約束だから。あの人と最後にした約束だから。


 そうやって、私は今もまた同じように約束を果たすために進み続けるのだ。



 だからこそ……まずは目先の、水の女神スイラを殺すことに意識を集中させよう。この一歩が私の始まりとなるように……。それが世界にとって望まれていなくても、構わない。誰に嫌われようと、構わない。



 でも一つ心に引っかかることがあるとすれば、それはクロナの存在であった。

 彼女は果たして、私が目的を果たす時まで一緒に居てくれるのだろうか? 

 私のことを最後に分かってくれるだろうか?

 ……ちゃんと前を向いて、振り返らずに歩いてくれるだろうか?


 あれ? なんで私はこんなことを考えているのだ?

 私情は限りなく切り捨てたはずなのに、やっぱりクロナのことになると私は変になる。

 ……でも、それが悪い気がしないというのは、何故だろうな?

 

 やっぱり理解できないな。

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[一言] そんな過去が、、、
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