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7 迷子なんて、困ります!

 スイラ様の従者と思しき少女を背に乗せて、いざ水の神殿へ!

 フォーメーションは前回の登山と同じ、シャウラ様の後ろに私がセコセコついて行く感じだ。シャウラ様が魔法で前を照らしてくれるお陰で、転ぶこともなく順調に進めてきている。


「ちゃんと来てるか?」


 後ろをこまめに確認してくるシャウラ様は逸れないように注意してくれている。


「大丈夫です、シャウラ様」


「そうか」


 私たちの旅は順調そのもの……この時はそう思っていた。





 ……どのくらい歩いたのだろうか。

 進めど進めど、シャウラ様お目当てのスイラ様の元に辿り着ける訳でもなく、体力だけが削られていた。

 可笑しいなぁ。神殿ってこんなに長い造りになってたっけなぁ? シャウラ様も険しい顔をしていらっしゃるし、これは……だいぶイラついていらっしゃる。早く見つけないと、シャウラ様の手によって私が帰らぬ人になりそうなんですが……。


「……見つかりませんね」


 そう尋ねると、不審な目で私の背中にいる少女に目を向けるシャウラ様。


「少し厄介なことになった。休憩がてら、その女に色々と聞くぞ」


 どうやら一旦足を止めて休憩……少女が目覚めたら話を聞こう。という方針にシフトするらしい。あれっ、私役に立ったんじゃない? 少女連れて行こうとしたの私だしね。やった!

 しかしシャウラ様が厄介なことになったと言ったのには他にも意味がありそうなような……スイラ様を見つけられないのにも繋がっているかもしれない。


 少し歩くと、神殿のひらけた空間に出る。ここなら、休むのにもってこいの場所でしょう。


「よし、ここらでいいか。適当に楽にしてろ」


「はい、では」


 シャウラ様が神殿の崩れ落ちたであろう倒れた柱の上に腰を下ろすのを確認し、私は背中の少女をそっと床に寝かせ、自分も近くにあった手頃な岩に腰を掛けた。


「さて、何から話そうか……そうだな。まず悪い報告だ」


「悪い報告?」


「ああ、この神殿は空間ごと歪んでいて、スイラを見つけられないかもしれない」


 なんと!

 空間が歪むなんて、そういうことがあるんですね。初めて知りました。


「でも、シャウラ様はスイラ様の居場所を把握しているのでしょう。なら、大丈夫なんじゃありませんか?」


「私もそう思っていたのだがな。空間の歪みに伴って、私が感じるスイラの気配が複数個に分散しまった。正確な位置も把握できない。これではまるで使い物にならん」


 シャウラ様が探知できない。空間が歪んで辿り着けない。神殿の奥まで来てしまった。現在は迷子みたいなもの。……これらを踏まえて、私は考えた。


 今の私たちの置かれた状態を。


「あの、これってまさか……」


「そのまさかだ。この可笑しな空間、神殿で迷子になり、閉じ込められたな」


 うわぁぁぁぁっ!

 最悪、最悪、最悪ぅ! いや、そりゃ随分と歩くなぁって思っていたけれど、まさか空間が歪んでいて、こんなところに囚われるなんて考えないでしょ! どうしようもないじゃない!


 終わった。私の旅はここまでか……。


「シャウラ様。私、シャウラ様と旅ができて、少し楽しかったですよ」


「なんで、もう死んだような顔してるんだ。まったく、人の話を最後まで聞け」


 そう告げて、シャウラ様は意識を失っている少女を指差した。


「彼女はスイラの従者。この空間から抜ける手がかりを持っているかもしれない」


 あっ、だからこの子に色々聞こうって言ったんですね。納得です。


「つまり、この子が目覚めたら、ここから出る方法を尋ねるんですね」


「話さなかったら、拷問でもすりればいいしな」


 はい、物騒な考え頂きました。

 ……そういうの、本当にやろうとか思わないで下さいね。穏便に済ませてほしいものです。





 シャウラ様が一々魔法で辺りを照らすなんてこと。従者として見過ごせず。その場所で火を焚くことに成功したので、ゆったりと火を囲んでいる。

 未だに起きない従者の少女に私は目を向ける。

 その様子を見ていたのか、シャウラ様も同じように目線をそちらに移した。


「あの女のことがそんなに気になるか」


 だって、心配だもの。


「ええ」


「ダークエルフか。知っているか? スイラの見た目もダークエルフそのものってことを」


「そうなんですか?」


「ああ、そもそもあいつは……いや、なんでもない」


 うっかりと何か言ってはいけないことを言ってしまいそうになった、というような顔をしている。

 途中で話を止められて、濁されると、こちらとしては釈然としないし、続きがとっても気になるのだ。


「あの、続きは……」


「そんなことより。女が起きたぞ」


「へっ!?」


 絶妙なタイミングで話を逸らされた。

 仕方なく、私は意識を戻し、キョロキョロと辺りを見回し、驚いた様子の少女の方に歩み寄る。

 私が近付くと、何か言いたげな顔をして、しかし、言葉を出さずに口を噤んだ。


「あの、えっと……ここが何処か分かる?」


「……」


 少女は無言ながらも、首を振り肯定する素振りを見せる。


「貴女のお名前を聞いてもいい?」


 ピクリと肩を震わせた少女であったが、少し深呼吸をして、間を置いた後、私から目線を逸らして口を開く。


「……ルーミヤ」


 紡いだ言葉はこれだけであった。でも、私にとってはそれで十分で、心の底から嬉しく思った。良かった! 意思疎通が出来て。


「シャウラ様、この子大丈夫みたいですよ!」


「そうか」


「シャウラ様も何か話しますか?」


 嬉しい私はついつい浮かれ、シャウラ様を呼び寄せるように言ったが、シャウラ様の反応は鈍い。


「私はいい。勝手に話して情報を集めろ。私は少し疲れたから、仮眠をとる」


「えっ……あ、はい。分かりました。おやすみ……って、もう寝てる」


 マイペースだなぁ……まあ、長旅できっと疲れているんだろう。主人を休ませるのも、従者の立派な仕事です。ここは私がドンっと情報を聞き出してやりますよ、ええ!


「えっと、シャウラ様は寝てしまったし、ルーミヤさん。少しお話を聞かせてくれないかしら?」


 私はあまり刺激をしないよう、穏やかな口調で問いかける。

 精神が不安定な相手には、ゆっくりと心を開いて貰うというのが大切。


「はい、私で話せることならば」


 了承を得た私は、静かな声でいくつかルーミヤに質問をするのであった。やはり、声色で人の印象というのは変わってくるらしい。優しい声で語りかけて良かった。


 ……それから、静かな声で話した理由として、シャウラ様の快眠を邪魔したら後が怖いというのもほんの少しだけある。

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[一言] 女神たちの過去が知れそうで知れない!
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