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6 見えづらい優しさを

 次の日。

 シャウラ様の朝は早い。そして、それに引きずられるように私の朝も早くなる。


 シャウラ様は太陽が出始める前に起床して、隣で眠っていた私を揺すり起こしてきた。うぅんっ……まだ眠かったのに。

 しかし、ここで抵抗して二度寝をするものならば、シャウラ様は間違いなく私を剣でいたぶってきそうだ。五体満足でいられなくなるなんて恐ろし過ぎる。無駄な被害を被らないために私はとても素直に起床した。


 その後、宿での朝食は取らず、代わりに持っていたであろう非常食を私に差し出す。これはパッと食べてパッと準備をして早く移動するためだ。シャウラ様は出発前に言った通り、今のここまで何も食べていない。


 少しは何か食べた方がいいのでは?


 そう言ってみたものの、本人曰く、時間が勿体無い。面倒くさいなどなど、とにかく食事を摂らなかった。……まあ、昨夜は私が無理矢理シャウラ様の口にパンを押し込んだんだけどね。

 早々に食べ終えた私はすでに出発準備万端で今にもどこかへ行ってしまいそうなくらいにギラギラした目のシャウラ様の側に寄る。


 シャウラ様、目が誰から見てもガチですよ。


「早めの時間だが、出発するぞ。私は昼間よりも朝方夕方の方が力が出せる」


「はい、行きましょう」


 私たちは最初のターゲット、水の女神スイラ様のところに向けて出発をした。





 ダークエルフの国。

 エルフとほとんど同じであるが、肌色が褐色であるのがダークエルフという分類となる。

 真っ白な肌のエルフと褐色の肌のダークエルフ。

 2種族に別れたのは、そういう面での差別があったからではない。もしそうであれば、どちらかの種族は立場的に上である。しかし、そんなことはなく、お互いに対等な関係を築いている。

 まあそもそも、エルフとダークエルフに別れた経緯などは、よく知られていないから良いのだけど。……というか、私も知らない。


「ここは随分と水が澄んでいますね」


 私の言葉に頷くシャウラ様。


「ダークエルフの国ではあるが、水の女神が干渉してる分、水質が向上しているのは当然だろう。エルフは森にいるというイメージが一般的なものであるが、彼らはダークエルフだ。エルフとは違う」


 肌の色が違うというだけでこうまでも文化の変化が生まれる。別々の道を歩んで来たからこその個性とも言えよう。エルフは草木などの植物をもっとも大切にし、ダークエルフは湧き出る清水を重んじて、汚さないようにしている。

 川沿いに立ち並ぶこのダークエルフの国の街並みは私達の故郷とはまるで雰囲気が違う。……あっ、故郷というのは、あの死んだ都市のことね。


「おい、なんか変なこと考えてないか?」


「そ、そんなことはないですよ!」


 ちょっぴりこの場所とシャウラ様の都市の情景を比べただけであって、変なことじゃない。うん、そうだそうだ。……因みにここの方が断然環境が良さそう、とか思ったのは秘密である。


「ふーん。……嘘ついてたら、川に落とすよ?」


「なんでそういう方向に話を進めるんですか……まあ、ちょっと考えていた節はありますが」


「考えてたのか」


「あっ!」


 はぁ……脅してくるから、ついうっかり白状しちゃったわ。ああ、川に落とされるのか。やだなー、濡れたくないよぉ。しかし、一向に川に落とされる気配はない。


「もういい」


 結局、私は川に落とされることもなく、そのままシャウラ様は心底呆れたようにため息を吐き、「行くぞ」と一言。これはこれで……なんかやだ! 呆れるを通り越して最早放置されてます。

 そうこう考えている間にもシャウラ様はどんどんと歩いていく。

 って、もうあんなところまで歩いて行っちゃったし! どんな速度で歩いてるし!


「ま、待ってくださいー」


 私は少しだけ慌てながら、心なしかしょんぼりしたようなシャウラ様の背中を追いかけるのだった。





 シャウラ様が感じる女神の気配。それを頼りに歩いて歩いて歩いた。そして、たどり着いたのが……。


「ここだ」


「ここですか」


「そうだ。やつは中にいるぞ」


 水の女神、スイラが祀られている神殿である。

 川の上流に位置しているので、人通りも少なく、環境は全体的にひんやりとした印象。どかどかと足を踏み入れようとしたシャウラ様であったが、ふと……神殿とは明後日の方向に目を向けていた。


 どうしたのか?

 私も釣られてそちらに視線を置くと、なんとそこには倒れているダークエルフの少女が。


「あっ、大変! シャウラ様、助けに行かなきゃ……」


「待て!」


「えっ……?」


 突如私は腕を強く掴まれる。シャウラ様が少女に駆け寄ろうとした私の腕を掴んで、それを制止したのだ。何か意図があってのこと。私はシャウラ様の次の言葉を待った。


「あれは……スイラの従者だ。迂闊に近寄るな」


 厳しい目つきの理由は彼女がスイラ様の従者であるというシャウラ様の見解からきたもののようだ。女神の居場所が分かるくらいだ。従者を見つけ出すことなど、シャウラ様には造作もないことであるのかもしれない。


「従者なのに、あんなに薄汚れた服を着て……痩せて、一体どういうことなのですか?」


 ダークエルフのスイラ様の従者とされる少女。明らかに力なく倒れている。普通、従者であるのなら、女神の庇護下に置かれるはずなのに、あんな風に倒れているなんて異常だ。

 その異変に気付いたのは、私だけではない。当然シャウラ様もそれを察していた。


「あれは、スイラが狂いかけている前兆だ」


 危惧していた自体を阻止できなかった。シャウラ様がそのような顔をしていると思うのは私の気のせいか?

 でも、焦る声色。それはシャウラ様にとって良くない報せであったのは明らか。


「スイラ様が、狂いかけている?」


「何故私が他の女神を殺すのか聞いたよな。これが理由だ。時が経てばどのようなものも腐る。例えそれが神であっても……狂った女神なんて、世界の災厄になる種に過ぎない」


「災厄……」


 狂った女神は災厄の種。

 どういうことなのかイマイチ理解できていない私。

 そもそも、神が狂うというのがどういうことなのかを私は知らない。それだけ神と人間とでは知識量が違うのだろう。生きてきた年季の差か。


「とにかく、先を急ぐぞ。一刻も早くスイラを仕留める」


「ちょっ、待ってください。あの子はどうするんですか?」


「世界の破滅と敵の従者一人の命と……お前はどちらを優先する」


「りょ、両方!」


 あっ、ちょっと馬鹿な発言した気がします。どちらかと聞かれて両方と答えるとは、問題の趣旨を理解していないようですね。……はい、それが私です。

 一瞬私の答えに唖然とした様子のシャウラ様であったが、ふいっと顔を背けて、口を開いた。


「介抱するなら好きにしろ。ただ、連れて行くならお前がおぶってやれ。私は知らん」


 そう言いつつも、私がダークエルフの少女に駆け寄る間チラチラとこちらを窺いながらちゃんと待ってくれるところ。優しさが見えています。ツンデレというやつですね!


「ねぇ、ねぇ……貴女大丈夫?」


「……」


 反応がない。

 完全に気を失っているようだ。

 仕方がないから、その子を背中に乗せて運ぶことにする。こんなところに放置はしておけない。……んっ、随分と軽いな。恐らく栄養が足りていない証拠だ。起きたら、ご飯を食べさせてあげよう。


「もういいか?」


「はい。あの、ありがとうございます」


「構わん。よく考えれば、こいつから情報を引き出すってこともアリかもと思っていたところだ」


 シャウラ様は一見冷たいようで、優しい。

 その優しさは以前は他の女神の方々に向いていたのだろうか。

 そんなのは知らない。

 私は今のシャウラ様だけを見る。

 

 だから、シャウラ様の後ろ姿をただひたすら、一生懸命に追うのだ。

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[一言] シャウラ様なんだかんだ優しい
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