5 他国へ
旅は始まったばかり。
今更だけどさ、これって移動が辛すぎない?
私がへとへとになっているのに、シャウラ様はピンピンしてらっしゃる。やっぱり能力値の差ですよね。
さて、私たちは現在ダークエルフの国に向けて進行している。数日間野宿しては歩き、野宿しては歩きの繰り返しである。なんて単調で地味なんだ! やろうとしていることは派手なのに……こういう目に見えないところは本当に作業のようだ。
こんな地味な日々を過ごす中でも、シャウラ様の目つきに変わりはない。女神を討つ、ただそれだけを念頭に置いている。
今回の目標は水の女神であるスイラ様らしい。やっぱり殺すのか……いや、一体どうしてなのかを道中で聞いみよう。
途中の休憩、私はシャウラ様の横に座り、さり気なく尋ねてみた。
「シャウラ様、一つ聞いても?」
「なんだ?」
「シャウラ様は何故、他の女神を殺そうとしているのですか。私は理由を知りません」
「理由……か。理由は、そうだな。今の女神はこの世界に必要ないからってとこか?」
たまげた。シャウラ様ズバッと言っちゃいましたね。必要ないって。
「参考までにどの辺が必要ないのですか?」
「女神の存在全部」
「全部ですか」
「ああ、時は進む。そして、その時は美しかったものが次第に腐っていく。たとえそれがどんなに尊いものでも……いずれは終わりが来なきゃいけない。永遠なんてない。もし、永遠なんてものがあるとするならば……なんておぞましい。だから、女神なんて殺してしまうんだよ」
一通り言いたいことを述べた後、シャウラ様は空を見上げ、過去のなにかを思い出すように神妙な面持ちになっていた。
でも、私には言っていることが難し過ぎてさっぱり分からない。なにがシャウラ様をそこまで突き動かすのか……私にはさっぱりです。
「シャウラ様……」
「理解できないって顔をしているな」
「えっ!?」
そして、心まで見透かしてくるとは……流石女神。
「お前は分からなくてもいいんだ。いずれ、然るべき時に理解していれば、それで……」
「あの、然るべき時とは……」
何か今の言葉はとても大事な気がして、私はシャウラ様に訊ね返したのだが、これ以上に何かを教えてくれることはなかった。
ただ、心につっかえる違和感が私の視線をシャウラ様一点に注がせる。なんで、然るべき時について教えてくれなかったのか……。
理由は理解している。私は、それをまだ知らなくていいからである。いずれにしても、その然るべき時まで私が生きれればの話なのだ。生きよう……死にたくないし、できれば最大限に穏便にことを運んで早めに帰れることを祈る。
休憩も程々にして、再び移動を開始する。
私たちのいた都市からだいぶ歩いてきたはずなのに一向に建物らしきものは見えない。見回す限り、木々、木々、木々、どんだけ木が生えてるんですか!? このまま一生この場所を迷い続けることになったら、合法的に戦わずに済みそう。でも、女神であるシャウラ様が迷うはず、ないか。
「あの、本当にこの方向であってるんですか?」
でも、一応心配だから聞いておく。
「大丈夫だ。問題ない。奴の気配は……こちらからする」
「女神の気配が分かるんですか?」
「一方的にな。だから、迷うという心配はしなくてもいい。迷っても、どっち道女神を全員殺せば終わるのだから」
おお、怖い。なんていう執念。しかもそういう力を持っているなんて初めて聞いた。女神の居場所が分かるなんて、まるで通じ合っているみたい……そんな女神同士で争うというのは、本当にいいのだろうか?
「いいんですか、本当に」
「やつらとは、一緒に長い時を過ごしてきた。確かに情もあるが、これはやらなければならない。躊躇はしないさ」
心なしか、苦しそうな顔のように見えるのは、私が望んでいないからなのだろうか。どちらにせよ、シャウラ様の意思は固く、変わらないということが理解できる。
そこから私たちはひたすらに歩いた。
それはもう、大変でしたよ。足を滑らせて、池に落ちるし、鳥のフンは頭に落とされるし、途中で猿に石を投げられるしで……えっ、私の運が悪いって? 何をおっしゃっているんですか? こんな旅に駆り出された時点で天命は尽きましたよ……。
「まだ着かないのですか?」
思わず弱気な声が漏れる。
あまりにも不幸が重なり過ぎて、これは私が人生終了する予兆ではないだろうか?
やばい、本格的に寒気がしてきた。
「もう……ついた」
「あっ、着いちゃったんだ」
そして、私の人生最後の地……になるかもしれない土地に到着。ああ、もう! なんとでもなればいいじゃない!
「取り敢えず、ここ数日歩きっぱなしだったから、疲れてるだろう。今日はどこかに泊まろう」
旅に出て初のちゃんとしたベットでの快眠を確保することに成功。ああ、眠る環境の重要性が、この旅を通して思い知らされたわ。
私は一つあまり意味のない知識を得たのだった。