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3 独裁者に追従すると苦労がつきものです

「着いたぞ」


 実に簡素なしかしながら、どこか安心感を覚える声色に私は目を開けた。


「もう着いたのですか?」


「ああ」


 どうやら目的の場所に到着したらしい。

 山頂なのか、道治は途切れ、上に続いているようでもない。苔のようなものが転々と周囲の岩に付着しているのを見ていると、シャウラ様は私を下ろしてゆっくりと歩きだす。


「行くぞ。すぐ近くだ」


「は、はい」


 相変わらず霧に包まれる山。冷たい風が強く吹き、そのまま肌を掠めて通り過ぎる。

 そんな感覚を敏感に感じながら周囲に目を配り、シャウラ様の後をピタリとついていく。暫くして、目の前に建物のようなものが見えた。建物に近付くに従って霧が濃くなっている気がする。


「ここだ」


 建物の入り口……いや、それは神殿のようなものであった。中に入ると不思議な装飾があちこちに散らばっている。手に光を宿したシャウラ様が前方を照らし、その後ろを再び歩く。入り口からの光もだんだん弱くなり、いっそう不気味に思えてくる。

明らかにボロボロ、今にも崩れ落ちそうである。シャウラ様のお城よりも酷い有様。ええ、だってところどころ天井が無くって、外界に晒されているんだもの。


 そう新鮮な感覚で辺りのものを見回していると、遂にシャウラ様は手にあった光を消した。


「あの、何故光を……」


「ここからは必要ない」


「必要ない……ですか」


「ああ、あそこだ」


 指差す先には何やら真っ黒な棒が地面に突き刺さっていた。そして、その周囲は何故だか明るい。どういう原理?


「えっと、つまりアレが欲しかったってことですか?」


「そうだ。私に必要なもの……そして、世界の希望だ」


 あの棒が? 

 世界の希望?

 何が言いたいのかさっぱり分からない。


 ぽかんと唖然とした顔でいると、シャウラ様は微笑んでゆっくりと黒い棒の方へと歩き出した。


「お前にはまだ(・・)分からなくていい」


 シャウラ様は黒い棒に躊躇なく手を掛けて、軽々と引っこ抜く。ボロボロと土がそれから剥がれ、微かに輝きが見える。


「これは、剣ですか?」


「私の相棒、黒煙という神器だ。格好いいだろ?」


「それを見る限り、世界の希望には到底思えないのですが……」


「そうかもな」


 そう一言。それ以上シャウラ様は続けようとはしなかった。軽くシャウラ様が剣に付着した汚れを払うと、濃い紫色の刀身がキラリと周囲の光に反射した。ちょっと眩しい。……でも、禍々しい。


「さて、帰るか」


「帰りましょうか」


 シャウラ様は満足そうに剣を近くに置いてあった鞘に入れて腰に掛けた。なんというか……シャウラ様にとても馴染んでいる。

 そのまま帰るのだが、私は再び優雅(恐ろしい)な空の旅をして、山を降りた。





 城に戻ると、疲れたと言いながらシャウラ様はさぞ当たり前のように正面の門を手も当てずに開き、どっかりと王座に座り込んだ。

 そして、王座に座るシャウラ様はちょいちょいとこっちに寄れと手を動かす。


「あの、どうかされましたか?」


 私がそう聞くと、何も言わずに剣を私に差し出してきた。えっ、これをどうしろと?


「お前が持っていろ」


「えっ、どうしてですか?」


「いいから、私にはもう一本ある。シェアル」


 シャウラ様はそう言い、二人目の従者であるシェアルを呼び出した。


「はい、こちらですね」


 シェアルは狼である。……いや、そう考えると二人目というのは語弊がある。一人と一匹ってカウントかな。それに彼はこの都市の領民にカウントされる。

 シャウラ様は山登りの最中に領民は五人と言っていたが、正しくは四人と一匹である。ここ、重要ね!


 そんなシェアルは硬めの毛並みが綺麗に整っている。そして、かなりプライドが高い。どのくらい高いかと言うと、シャウラ様が投げた石が大気圏を突破するくらいだ……この表現だと、どのくらい高いのか分からないな。

 

 ゆっくりのっそりと歩き、シャウラ様の前に止まって腰を屈める。

 器用に背中に乗せた剣はちょうどシャウラ様の手の高さにある。


「ああ、ありがと。クロナ見ての通り、同じ剣だ」


 こちらによく見えるように手に持つシャウラ様。

 昨日のと同じ剣だ。光り方から、柄の形、刃先の鋭さまで瓜二つ。

 しかし、それならなんであんなところにまでこの黒い剣を取りに行ったのかが分からない。二本もいらんでしょ!


「あの、じゃあこの剣は必要なかったんじゃ……」


「そんなことはない。見ての通りお前用だ。クロナ」


 私用ですか? というか見ての通りと言われましても、どの通りなのか……。

 そもそも私にこの剣で何をしろと? そりゃ剣は嗜む程度には扱えますけど……まさか。


 訴えるように視線を向けると私の意図を察したかのようにシャウラ様は頷いた。この人は……。


「そういうことだ。お前も、私と一緒に来て、女神と戦うんだ」


「……普通に嫌なんですが」


「拒否したら、殺します」


 もうやだ! この人本当に女神なのですか!?

 私は嫌々ながら、殺されたくないので渋々了承しました。

 独裁者とはこういう人のことを指すんですよ。覚えておいて下さいね。

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[一言] 領民に神様を殺させそうとする女神www
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