18 ゴールまで来ちゃいましたか?
増え続けるゾンビの群れ。
私はひたすらに剣を振るった。
今動けているのは、シャウラ様と合流したいという気持ちがあってこそだと思う。何の目的もなく、頑張り続けるというのは正直辛い。
私はそういう理由で動いているが、ソフィアだって、同じように目的があるから、あんなに俊敏な動きを維持できているのだろう。
「これだけ倒せば、何体のゾンビが金貨持ってるのかなぁ?」
現に私はその目的のために利用されている気がします。この人ゾンビが襲いかかってくる危機感より、ゾンビから得られる収益を第一に考えてそう。
ゾンビを倒す快感より、懐から漁ることを幸福と捉えている彼女。ソフィアは金品が大好きらしい。
それはさて置き、そろそろ私、先に進むのが辛くなってきましたよ。数が当初出くわした集団の数倍に膨れ上がっているので、うっかり背後に回られたりして、集中力ももの凄く使うんです。
「ねぇ! ちょっと、ここから先は無理があるんじゃ……」
「大丈夫、大丈夫! 今が稼ぎ時なんだよ!」
お金かい!
ついに稼ぎ時とか言い出したし!
完全に私をバイトの子か何かと勘違いしている。まず、ここから出られなきゃ、その手に入れた高級品や硬貨は結局使えない。もっと生存を優先してほしい。そして、もう少し休憩がほしい!
「ほら、へばってないで、あとひと頑張り!」
「その言葉、五回目です……」
「そうだっけ?」
「自覚無しなんですね!」
ああ、もう!
こうなったら、やるだけやってやりますよ。私だってシャウラ様と会うまで死ねないんですから!
*
終わった……やっと終わりました。
あれからゾンビの猛攻を受け続け、本当に酷い目に遭いました。これ以上奥に進んだら、どうやっても無理な気がする。というか、死ぬ!
「あー、疲れた。というか、初めて引っ掻かれた」
「当たり前です! というか、これだけ大量のゾンビに襲われて、よくその傷で済みましたね!?」
流石のソフィアと言えども、今回のはかなり厳しかったようだ。思ったよりも多くゾンビが、それも継続的に湧いてきたのが原因だろう。
腕からは血が滴り、至る所に擦り傷を作っている。擦り傷って、持続的にヒリヒリするから、地味に嫌な傷なのよね。
でも幸いにも、私はソフィアの補助という形で戦闘を行なっており無傷であった。しかし、もしソフィアが敗れ、私の方にゾンビの群れが集中したとしたら……想像するだけでゾッとする。その場合は擦り傷が気持ち悪いとか、そういうことでは済まないだろう。
「まあ、お陰で随分儲けたけど」
しっかし、嬉しそうに振る舞うのを見るに、全然懲りてないなぁ。私を巻き込んでの金儲けはやめてほしいです。この人いつか危ないことして、あっさりと逝っちゃう気がする。
「……いつか死にますよ」
ぼそりと一言。
ソフィアに届くか届かないかくらいの、微かな声でそう呟いた。
本当に危ないのだ。先に進んでも、死んでしまったら元も子もない。シャウラ様と合流するのが目的でも、命には変えられない。
ジト目でじっとソフィアを見つめる。すると、ようやく気が付いたのか、私に視線を向けるとヘラヘラした顔をする。
「えっとー、やっぱりもう進まない方がいい感じ?」
「流石に察しましたね。でも、遅すぎです。無作為に進んで、嬉しそうにゾンビと戦うなんて……かなり危ういですよ」
「分かった分かったって! 次からはちょっとは気をつける」
「次はしないでください……」
気をつける……とは、善処はするけど、あまり期待しないでねというような意味に聞こえる。
どうせ言うことを聞いてくれるような性格ではない。ここは諦めて、今だけでも反省してもらおう。……でも、進まなくてよくなったと同時に、シャウラ様と合流も出来なくなったよね。
……どうしよう?
なんというジレンマか。
二者択一の選択を迫られる私……いや、進まないけど。
「ひとまず休みにしましょう。ソフィアも疲れたでしょ?」
「ああ、うん。もうクタクタ。暫くは体も動かしたくない感じかな」
満場一致(二人だけ)。
私とソフィアは交互にゾンビが湧いてこないかを見張りつつ、疲れた体を休めてあげることにした。休憩大事。働き詰めというのはその後の作業効率を悪くする。ここで休むというのは聡明な判断だ。
以前徹夜でシャウラ様の死んだ都市に人を招こうと試行錯誤で考えたことがあったけど、三日目くらいから頭が働かなくなっちゃったことがあった。
そもそも、死んだ都市に人を呼び寄せるということ自体が無理な話で、気付いた時には寝落ちルートまっしぐら、我ながらアホなことをしたと思う。しかも、領主であるシャウラ様は、「私は無政府主義だから、領地がどうのというのは興味がない」なんて言い出す始末。
思わず、政府を作るだけの人員すらいないじゃない。なんて言ってしまいそうになった。
危なかった……。
それにしても、死んだ都市にいた頃が今では懐かしく思えてくる。こんな暗いところに半ば軟禁状態の詰みに近い環境下だから、尚更こういうことを考えるのだろう。
「ねぇ……」
あの頃……忙しくもあった日々は、今考えるととても楽しくて、またあの時にこの旅が終わったら戻れるだろうか?
「ちょっと、クロナってば!」
「えっ、何?」
いつのまにか考え込んでいたようだ。気持ちが弱っている証拠かもしれない。
「疲れてるところ悪いけど、ちょっと一緒に来てくれない?」
何かあったのか?
ソフィアの様子が慌ただしいように思える。……いや、この人が慌ただしいのは最初からかも。
「どこに行くんですか?」
「先の方を少し見てきたんだけど、なんか立派な扉見たいのがあって……それで、気になるからついて来て欲しくて」
扉?
「ひょっとして、私たちは神殿の最奥まで来たの?」
「分からないから、今から確かめようとしてんの。とにかく、来て!」
遂にこの時が来た。
今までそれっぽい扉は見ていない。ただ永遠に続く長い通路を歩いていただけかのだ。そんな場所で扉が現れたということは、きっとそういうことだろう。
あまり休めていないけど、そんなことを言っている場合ではない。
足早にソフィアに手を引かれ、私はその扉まで進むのだった。