17 強く生きましょう
「これで、二十四体目!!」
鈍い鈍器で殴ったような音が周囲に響く。
倒しても倒しても、次から次へと湧いてくるゾンビはまさにゾンビアタックを仕掛けてきている。
終わりのないこの戦いは消耗戦となれば、ジリ貧で負ける。
先に進めば進むほどにその勢いは増しており、そろそろ一旦止まった方がいいのでは? なんてことを考えています。
実際私、ソフィアが戦っているのを後方から軽く支援したりしてますしね。
「うわぁ、どんだけいんのよ。もう殺し飽きた!」
ソフィアも最初はストレスを発散するようにバンバン殴りかかっていたのだが、こうまで沢山いると、流石に疲れてきたようだ。でも、動きは軽やかだし、まだまだ動ける系の人ですよね、貴女って。
「これ、先に進むと多くなりません?」
「なってるけど、先に進むには倒さないとダメだし」
「後退という選択肢もあるんじゃ……」
「は? 戻っても意味ないじゃん。後ろには出口もないんだし」
はいはい、私が悪かったですよー。
ソフィアのその冷たい口調に若干の苛立ちを残しつつも、私も手馴れてきたので、ゾンビの脳天に丁寧に剣を振り下ろす。
「そりゃ!」
上手くなった。もう、熟練の域まで来ている気がします。……短期集中型の戦闘訓練をさせれているようです。
戦闘訓練がどんなものかは詳しく知らないけど。
一通り出てきたゾンビを倒し、完全に動かないことを一体一体確認する作業を終え、やっと安全確保となる。ゾンビは生命力が高く、一度倒したと思って油断していたら、
また歩き出した。なんてこともあったので、色々と対処が面倒なのだ。……って、ゾンビは死んでいるのだから、生命力とか関係ないか。
私はゾンビの死骸が比較的少ない場所に腰を下ろして、一息入れた。水筒の水に口をつけて、喉にゆっくりと流し込む。
働いた後のご飯は美味しいと言うけれど、運動の後に飲む水もまた美味しい。
そう私が一服している頃、ソフィアはと言うと……倒れたゾンビの懐に手を入れて、何かをガサゴソ探していた。この人、何してるの?
「……あった!」
何かを見つけたようで、手を勢いよく上げ、取り出したものを見せつけるように掲げだ。
「さっきから、何をしているのですか?」
ちょっと意味が分からないので聞いてみた。
「ん? 何って、何かいいもの持ってないかなぁって、物色してただけだけど」
うわぁ。そういうことか。
「それは、あんまりしない方がいいのでは?」
「馬鹿ねぇ。死んだ人間は金も何も使わないんだから、私がその持ち物を貰ったって別にいいでしょ。こんな死体のポッケで腐らせておくくらいなら、私が有効活用した方がよっぽど世のためになるわよ」
「はぁ……」
あまりの言い分にため息しか出ない。
なんというか、せこい。死体に口無しと言わんばかりにその後も様々なことを言及していたソフィア。理由が盗賊のそれなんですけど、私はどう反応すればいいのやら。
「クロナ、生きていくというのは大変なのよ」
ちゃっかり最後はいい話風に締めたけど、ただの追い剥ぎみたいなことをしてるだけだからね。……まあ、この状況下でこうもたくましく生き抜こうとしているソフィアは凄いと思いますけどね。
「もう、好きにしてください」
故に私はそのような行いに目を瞑ることにした。
孤児であった私は、彼女のやっていることが少しは理解できるからだ。
「本当!? ラッキー、じゃあクロナも手伝って! 右側の死体は私が探すから、左側のをお願い。お金は勿論だけど、高級そうなものがあったらキープしといて」
「どうして、そうなるの!?」
暴論すぎる。
私が渋々納得したのを「手伝ってくれる」なんて、滅茶苦茶な解釈をするなんて、頭お花畑なのか?
その行いを容認はしてあげるけど、手伝ってはあげないよ?
もうやだ。すっごい疲れるんだけど!
早くシャウラ様と合流しないと、私の精神が弱る気がする。
私は首を振って流石にそれは断った。
まあ、私が断ったことで、彼女が落ち込むこともなく、それなら仕方がないというような感じに一人、死者の懐に手を入れまくるだけだった。
「うん、豊作豊作!」
結局、ソフィアは大量の金品を手に入れ、ホクホク顔で少しの休憩を挟んだ後、私と先に進むのであった。