14 利害の一致と不快な気分
安心した。
私は心底そう思う。
彼女の、ソフィアの憎む相手はシャウラ様じゃない。それだけで心の負担が軽くなる感じがする。
「ソフィアさんは光の女神を殺したい、ということ?」
「ええ、ハッキリ言って、あいつの存在が邪魔なのよね」
ソフィアの顔は出会った時の普通な表情とは大きく変わり、心に闇を燃やした腹黒い感じだった。
というか、目的話しただけでかなり態度が豹変したわね。可愛い系から腹黒い系にシフトチェンジ。……まあ、話した時点で取り繕う意味もない気がするし、そこら辺はいいのだと思うけどね。
「分かった。私は何も言わない」
「ええ」
「私もね。ある一人を除いた全ての女神を殺すから」
「え……?」
彼女が目的を話して、私が話さないのはフェアじゃない。なので、聞かれてもないが、私も目的を話すこととした。
「私は、とある女神様の従者なの。その主人が女神を皆殺しにって言い出してね。だから、私はそれを手伝うためにここに来たのよ」
でも、心の底ではちょっと納得できてないけど。
そんなような言葉を付け足し、私は一区切りした。
これは遠回しに光の女神であるユグも殺そうという考えだ。なので、この話を聞いた彼女からしたら都合の良い存在。一気に信頼度が上がると思う。
「そう、その貴女が慕っている女神っていうのは、ユグではないのよね?」
「この話の流れで、もし私が光の女神に従っていたとしたら、話してないわ」
「まあ、そうよね。そんなことするのは馬鹿くらいだもの」
……って、確認したってことは私を馬鹿かもしれないって思ってたってこと? やっぱ私の印象は鈍感なアホ女って感じなの!?
やだそれ、早く払拭したい。
そんなアホキャラ扱いされるのは非常に不本意だ。誰が好き好んで、そんな面白ポジションになろうと思うか? せいぜい芸人がそう考えそうな筆頭だけど、私は一従者ですから、これは嫌すぎるの!
早々にその第一印象を取り除けるよう、立派な従者になろう。……あーあ、何年後になることやら。
でも、ソフィアの警戒は大体解けたと思うし、ここはシャウラ様と合流するまで一緒に行動してもらおう。一人は嫌だし、何より幽霊的なのが本当にいたら私一人だと対処できないから。
「ソフィアさん、取り敢えず此処から抜け出すまで協力しない? お互いに損はないと思うけど」
自然な笑顔。自然な笑顔。
頭の中でそれを暗示して、好意的に語りかける。こうすれば、相手も素直に応じてくれるはず。
「いいえ、それは無理な話ね」
なんでよ!
そこは「勿論! 喜んで!」ってなるところでしょ!
私の作戦が……なんかやっぱりアホ側に引きずり込まれてる気がする。気のせいかな、気のせいであれ。
「貴女……いいえ、クロナ。私もその主人の目的とやらに参加させなさい」
しかし、彼女の次の言葉は意外であった。
私が提案したのは一時的な協力。それを否定して、彼女は長期の協力を申し出たのだ。
流れ的に否定されたら、そのままバイバイコースに思えたのだけど。
私のやりたいことを話したのはいい効果を狙ってのことであったが、まさかここまでのものになるとは。予想外にいい感じだ。
「いいの?」
「方向性が同じなんだから、一人より大勢の方が成功率も上がる。そう思わない?」
「思う、けど」
「なら決まりね。これからはクロナに付いていくから」
しかも私に付いていくって……そこはシャウラ様って言うべきじゃない? ……ああ、シャウラ様の名前を明かすの忘れてた。
「私の主人は闇の女神であるシャウラ様よ。シャウラ様の意向に沿うということで、いいのね?」
「はぁ、何言ってんの? 私はクロナに付いて行くって言ったの。そんな会ってもない人に従おうとか考えてないから」
そこは素直に二つ返事でオーケーして貰いたかったな。
「わ、分かったわ。そういうことでいい」
「うん、よろしい。じゃあ早速だけど……この先に気持ち悪い化け物がいるからさ。お掃除、しに行こうか?」
私に同行してくれるのはいい。それは全然有難い。
シャウラ様に従わなくてもいい。私に付いてきてくれるのなら、ほとんど同じようなものだから。
で、ついさっきの……気持ち悪い化け物ですって?
「……嫌です」
そんなの拒否するに決まっているじゃない!
なんでそんないい笑顔で私の腕を掴んでいるの?
行かない、行かないからぁ!!
「大丈夫、大丈夫。動き遅いし……ちょっとネバってしてるだけだから」
「待って、心の準備が出来てない! というか、ネバってなに? いや、いやよー!」
「ほらほらぁ、こっちこっち!」
私に付いてきてくれるって言ったのに……。
付いてきてくれるどころか、私が連れてかれちゃったよ。付き合う相手を間違えたかもしれない……くっ、無視して先に進めば良かったわ!