11 鈍感従者
さあ、いざ出発。
神殿の奥にはスイラ様、私達は水の女神様を目指して前進するのです。
初期メンバーである私とシャウラ様に加え、スイラ様の従者であったルーミヤも仲間に加わり、怖いもの無し……とはいかないけれども、なんだか少し心強い。
私達三人は、いよいよスイラ様の元に向けて足を進めようとしていた……のですが。
「さて……どうしたものか」
そんな矢先にシャウラ様は少し考え込むように道の奥を凝視していた。
「どうしたんですか?」
「クロナ。どうしたも、こうしたも、辿り着けない」
「なるほど、辿り着けないんですね!」
「ああ、辿り着けない」
……えっ、何それ困る。
「ちょっ、辿り着けないって……ルーミヤが道を知ってるとか」
僅かな希望を真打であるルーミヤに託してみたものの、
「えっと、ごめんなさい。流石に空間が歪んでいるので、私は役に立ちません」
「そう……ですか」
策なし。完全に八方塞がりだ。
後に引こうにも、片道さえも空間の歪みで先がどのようになっているのか見当もつかない。つまり、帰ることもできない!
「シャウラ様……これからどうされるおつもりで?」
「そうだな……」
深く考え込むのは、シャウラ様も困っているからだと思う。
お先真っ暗、本当に道の先も真っ暗。なんかさっきまでいい感じのムードだったのに幸先が不安です。これ、私じゃなくてもそう思いますよね?
不安そうにシャウラ様のことを見つめていると、シャウラ様はフッと息を吐いた。
「まあ、歩いてればそのうち着くだろ」
「ええっ!?」
ああ、ついに思考を放棄なされた……。
そんなことを気にもせず、さも当たり前のように歩き出したシャウラ様。ルーミヤも嬉しそうに後をついて行く。なんというか、肝が据わっているというか……ルーミヤも相当だわ。
「クロナ、どうした? 置いてくぞ?」
肩を落としていた私もそんな行き当たりバッタリなシャウラ様についていくしかない。まあ、でもなんだかんだなんとかなるか。
「い、今行きます」
「早く来い、はぐれたら一生この空間から出られないかもしれないぞ」
「ひっ……!」
なんてこと言うんですか! これ、本当に大丈夫なんですか……?
スイラ様のところに辿り着くのに三十年掛かりました。なんて、悲惨な事態にならないように祈るばかりです。
*
歩き続けて早二時間。
終わりのない道をひたすらに進んでいるというのはなんとも不思議な気分になります。
途中、幾度となく分かれ道があったのですが、シャウラ様曰く、どっちに行っても結果は同じだそうです。そんなこと言っておきながら、未だに希望が見えないのは、暗に帰れないと示しているんですかね? やだ、シャウラ様! 私は本当に絶望してますよ。
「シャウラ様、この長距離擬似マラソン大会はいつ終わるんですか? そろそろ、精神的にくるものがあるんですけど」
私とて、最初の方は「なんとかなるか!」なんて浅はかに希望を持っていました。
歩いていれば、だんだんゴールに近づいているという実感が得られるんじゃないかと信じていました。でも、そんなこともなく、地味に歩き続ける……。
「安心しろ。私だって無闇に歩いている訳ではない。策はある」
「その策ってなんなんですか?」
「お前は知らなくていい。大人しく歩け」
うわぁ……出ましたよ。『ちゃんと考えてるから、お前は黙って指示に従っていればいいんだ。口答えするな』ってやつですよ!
指令する側が知っていれば大丈夫って考えのやつ。
ちょっとくらい教えてくれてもいいのに。
「クロナさん、頑張りましょう」
私を哀れに思ったのか、ルーミヤが可愛らしく応援してくれている。この癒しがなければ、私は元来た道を引き返していそうですよ。
「ルーミヤ、ありがとね」
「いえ、私も理解しているので……だから、クロナさんは安心してください!」
「え……えぇ、そう。ルーミヤも知ってるんだ……」
癒しかと思ったけど、ルーミヤもそっち側なのね。
「クロナ、気にすることはない。私とルーミヤしか気付かなかったことだ」
「それは暗に私が鈍感と揶揄しているんですか……」
「いや、今のは無意識だ」
「今のはってことは、普段は違うんですね」
従者というのは主人のために尽くすもの。
色々と悩みは尽きないのです。
例えば、私が少しおっちょこちょいであることをいいことにして、シャウラ様が頻繁に私を弄ってくるとか。……私は芸人じゃありません!
『クロナの備考』
他の二人は大事なことに気づいているのに一人だけ何も分からない。それから、そのことを教えてもらえない。感覚はそこまで鋭くない子。……一人だけ、可哀想。
ちょっと!? 上!
そんな備考は必要ないでしょ! 次書いたら、許しませんからね!
というか、誰がこんなの書いたのよ……。
こんなやり取りのあった数分後、私は床の崩落に見事に巻き込まれて、シャウラ様とはぐれてしまうのだった。