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10 殺す覚悟

 シャウラ様がしたいこと。これを話した時のルーミヤの反応は思いの外、好感触であった。

 ルーミヤがどんな気持ちでこう言ったのかは、正直私には分からない。でも、きっと……強い気持ちがなければこうは言えないだろう。


「やっぱり分からないな。私には、そう思うお前の気持ちが理解できない」


 シャウラ様は、決まりが悪そうにルーミヤから顔を背けて、背を見せる。きっとそれはルーミヤの瞳が驚くほどに真っ直ぐであったからだと感じる。


「分からなくても、いいんです。私は、私の選択をします。シャウラ様もそうでしょう?」


「根本的には、変わらないってことか」


「そうです。ですから、私はシャウラ様達に協力します。私はスイラ様が大好きです。ずっと一緒に居たかった。死ぬまでお仕えしたかった。……でも、スイラ様の苦しんでいるお姿は……見たくないのです」


 そういうことなのか。

 大切な人が苦しんでいる。それを楽にしてあげたいという気持ちがルーミヤにはあるのだろう。それが例え、別れを告げるものだとしても、ルーミヤは選んだんだ。

 そういう意図があるとするならば、私はルーミヤを信じられる。

 意思のある人は強い。きっとそれをやり遂げるまで精一杯努力をするから。それがとてもとても悲しいことであっても。


 多分、シャウラ様がスイラ様を殺めようとしても、ルーミヤは止めない。きっとそれだけの覚悟を持って、さっきの発言をルーミヤはしたんだ。私には出来ないことだなぁ。


「シャウラ様、信じてもいいのではないですか?」


「クロナ?」


 突如話に入った私に困惑したような声で答えるシャウラ様。彼女の覚悟を私は認めました。だから、シャウラ様にも認めて欲しい。ルーミヤの望みを叶えてあげたい。


「ルーミヤは裏切らない。私はそんな気がしますよ」


 私の言葉を噛み締めて、シャウラ様は深呼吸を入れる。

 そうしてゆっくりとルーミヤに向き直った。まるで最終確認をするように静かに声を震わせて。


「お前は主人を裏切って、こちら側に寝返る。主人を討つのに加担する。そういうことだぞ? 本当にいいのか?」


 しかし、そんな確認なんて必要ないかのように表情一つ変えないルーミヤはシャウラ様に近付いて、手を握った。


「いいえ、シャウラ様。それは違います。私はスイラ様を苦しみから解放してあげたいのですよ。スイラ様が変わってしまったのは、多分……頑張り過ぎたからです。もう、十分なんです。だから休ませてあげないと」


「……そうか」


 詭弁に聞こえるかもしれない。でも、シャウラ様はその言葉を聞き、深く頷いた。


「ですから、これは裏切りじゃありません。スイラ様を討つことはスイラ様を苦しみから解放することになります!」


 シャウラ様の瞳が揺れる。

 その強い心が見せたのは、確固たる信念だけでない。それはまるで、新たにシャウラ様を主人に認めたような、そんなような意図が少なからず含まれていた。そう、私は思う。

 


「側から見たら、ただの人殺し。世界から嫌われるのだぞ?」


「大丈夫です。きっとスイラ様は分かってくれます。世界の全てが私を嫌っても、スイラ様だけはしょうがないなぁって許してくれます。そんな気がするんです」


「スイラだけじゃない。私は他の女神も殺すんだ」


「何か理由あってのことでしょう? シャウラ様は殺しを楽しむような方ではない。ちゃんとした事情があるって、見ていれば分かりますから。ですから、私は気にしません」


 ルーミヤは一歩踏み込んで、最後の一押しとしてとばかりに強気な態度で、眉を寄せた。


「私の心は決まっていますよ。あとは、シャウラ様次第です。どうします?」


 シャウラ様を逆に試すような、そんな声色。

 私も感じていた。シャウラ様は今からやることに戸惑いを持っている。

 確かに遂行しようと考えているのかもしれないが、なんとなく、その時になったら躊躇してしまいそうな……そんな顔を時折見せていたのだ。


 故にルーミヤは見抜いていたのかもしれない。覚悟を決めて、スイラ様を討つことが、貴女に出来るのか? と、問いていた。


「まさか、私の方が心を決めれていなかった…….なんて、思いもしなかったよ」


 吹っ切れたような、そんなシャウラ様は静かに目を瞑る。過去を懐かしむような雰囲気で、口元は少しにやけるようである。


「大丈夫そうですね」


「ああ、悪かったな。主犯格である私が躊躇っていたなんて、決めたよ。もう私は迷わない」


「それでいいと思いますよ。……なんて、偉そうに言っちゃいましたが、私シャウラ様とは会って間もないんですよね」


「そうだな。でも……ありがとう」


 シャウラ様から出た言葉は心からの感謝。

 ツンデレなシャウラ様は素直にデレました。そんなシャウラ様を微笑ましげに見つめる従者コンビである私とルーミヤ(勝手に命名)。

 和やかな空気の中で、シャウラ様とルーミヤはしっかりとした握手をした。


「こちらこそ。これから、よろしくお願いします」


「ああ」


「クロナさんも、ね」


 私も仲間認定されました。


「はい、これからよろしくね。ルーミヤ」


 さあ、これで何の憂いもなく、目的に向かって進める。

 あとは私の覚悟だけで……全てが上手く行きそうな気がしますね。


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