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五話「貯金増加から、質素な暮らしまで」

 聖暦二○二九年、五月三日。


 コンビニで働いていた成果が出て、貯金が貯まってきた株縫志は、久々に贅沢な夕食を楽しもうと決意。

 コンビニから歩いて十分ほどのところにある二階建ての一軒家に住む、田和畑(たなごはた) 小鳥(ことり)という高齢男性の家へ遊びにいった。


 小鳥は株縫志を温かく迎えてくれ、夕食も振る舞ってくれた。


 塩を揉み込み水で流すのを忘れたきゅうりと古いからか硬くなった油揚げを交ぜ、酢のみで味つけしたサラダ。ところどころ黒ずんできているニンジンと全体的に黄色っぽく変色しつつあるきゅうりを細く切って炒め、コンソメで濃く味つけした、炒め物。そして、八割麦で二割が白米のご飯には、コンビニで売っているサケのふりかけがかかっていた。


 快く迎えてくれたわりには質素な食事で、株縫志は少しがっかりした。


 というのも、株縫志は小鳥を誘って、近所の飲み屋へ行こうと考えていたのだ。


 だが小鳥は株縫志の言葉をまったく聞かず、手作りの料理を振る舞ってくれた。せっかく作ってくれたし、と思い、仕方なく口にする株縫志だったが、食べたことを後悔した。恐ろしく口に合わなかったからである。



 その次の日、五月四日。

 株縫志は一人で近所の飲み屋へ行った。


 田和和島の男なら誰もが一時期は通っていたことのある、島内唯一の飲み屋『あけぼ』へ。


 誰かと会えるかなと期待していた株縫志だったが、残念なことに、この日は客がいなかった。株縫志だけだったのだ。そのせいで株縫志は、九十七歳のおばあさん店主である須美(すみ) ミナ子の愚痴を延々と聞かされることになってしまった。


 株縫志からしてみれば、店主の愚痴などどうでもいい。

 むしろ聞きたくないくらいだ。


 けれど、中途半端に心優しい株縫志は、ミナ子の口から溢れ出る愚痴を聞かずにはいられなかった。


 しかも、株縫志は酒を散々飲まされ、べろんべろんになってしまって。そんな状態ゆえにさらに大量の酒を摂取してしまい、かなりの出費に。


 もしかしたら、それがミナ子の作戦だったのかもしれない。


 一晩で貯金をほぼ使い果たしてしまった株縫志。

 また、働き続ける生活が始まる。



 五月五日。


 朝食は、住んでいるぼろい家の水道水をコップに二杯。

 昼食は、コンビニの売れ残りのカスタードパンと水道水二杯。

 夕食は、帰りにコンビニで買ったおにぎり一つと生ハム一パック。そして、水道水三杯だ。



 五月六日。


 朝は、住んでいるぼろい家の水道水をコップに一杯。

 昼は、コンビニの売れ残りで賞味期限の切れたチョココルネと、水道水二杯。

 夜は、帰りにコンビニで買ったおにぎり三つと、水道水一杯。



 五月七日。


 朝は、住んでいるぼろい家の水道水をコップに一杯。

 昼は、コンビニの売れ残りで賞味期限の切れたカップヨーグルト一個と百円で買ったおにぎり一個。

 夜は、水道水五杯。



 そんな風にして、株縫志の人生は着実に進んでゆく。


 それは、とても控えめな人生で。けれども、そこにあるのは、不幸ばかりではないのかもしれない。


 大金持ちにはなれないけれど、働き続ける限り、給料は確実に出る。その保証があるからこそ、株縫志は毎日の仕事を頑張れたのだ。


 こうして、時は流れてゆく。

 田和和島の穏やかな風に流されるように、時は過ぎてゆく。



 八月十一日。


 朝食は、住んでいる古い家の水道水をマグカップに一杯。

 昼食は、コンビニの売れ残りのチョココルネときゅうり一本、そして水道水二杯。

 夕食は、帰りにコンビニで買った爆弾おにぎり一個とタン五パック。そして、水道水一杯。



 何の変化もない毎日。

 平凡だが、穏やかとも言える日常。


 株縫志にしてみれば、それは幸福だった。


 代わりに嫌な思いをするくらいなら、良いことも起きない方がいい——この時の彼は、そんな風に思っていたようだ。

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