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二話「大学時代から、家出まで」

 株縫志が安紗果らから受けた意地悪は、地味に悪質なものが多かった。株縫志にだけ嘘の休講連絡を伝えたり、偽りの呼び出しを行ったり。安紗果らは、株縫志が授業を受けないようにしようと必死だった。彼女たちは、株縫志に授業を受けさせないという目的のためになら、どんなことでも(おこな)った。何もかもを利用し、株縫志の評価が地に堕ちるよう画策していたのだ。


 だが、株縫志は他人より少し賢くて。

 それゆえ、彼女らの嘘に騙されず、授業に参加した。


 そのかいあって、彼は、二年後期にはかなりの単位数を取得。途中入学であったにもかかわらず、あっという間に、卒業に近づいた。


 結果、三年四年次に履修するのは、履修する学年が定められている必修のものだけになり。自由な時間がかなり増えた。


 そこで彼は、その自由な時間を使って、趣味を増やそうと考える。


 まず通い始めたのはクイズ教室。

 そこでメキメキとクイズの実力をつけた株縫志は、大学三年の初夏頃に開催される地元のクイズ大会に出場。初出場にして二位の座を手にした。


 株縫志の勢いは止まらない。

 県大会では三位、地方大会で二位の記録を持った彼は、ついに、全国クイズ大会へと出場する。


 全国クイズ大会とは、全弐本クイズバリバリ協会が主催する、弐本で一番大きなクイズ大会である。株縫志が出たのは、その大会の、新人の部。


 株縫志は優勝はできなかったものの、二位になることができた。


 そして、その年の冬頃には、二年の終わりから独学で学び始めていたスワリリル語の検定三級に合格。スワリリル語はその後も継続して学び続け、四年の春に二級、夏前に一級を合格した。


 そして、三年の五月から習っていた歌唱の才能も花開く。


 四年の夏、教室の先生に言われて出場したポピュラーソングコンテストの新人部門で一位を取った。また、習い始めて二年以内の者の中から選ばれる新人男声優秀賞も、合わせて受賞した。


 それらの結果によって、注目を浴びることとなり。

 さらに、一度歌番組に出演したことによって、株縫志は一躍有名人となった。


 この時、彼はまだ十六歳である。



 聖暦二○一七年、四月。


 大学を卒業した彼は、自由の身となった。

 企業に就職はしなかったが、コンサートに参加したりテレビへの出演など歌に関することで、小遣い稼ぎをしつつ、ロチア語・宙国語・イシジマ語などを勉強。


 他人(ひと)と違う生活をしてきた株縫志だが、ようやく、穏やかな暮らしを始めた。



 そうして十九歳になった、ある日。

 コンサートの帰り、アパートへ戻る途中の夜道にて、謎の男に襲われる。


 持っていた大きな鞄で何とかあしらい、男から逃げることに成功するも、負傷してしまった。


 その結果、一カ月入院することとなる。


 そんな彼の前にある日現れた、安紗果。

 見舞いのふりをして現れた彼女は、「覚悟しなさいよね!」と意地悪そうに言い、去っていった。


 だが、その時の株縫志には、彼女の言葉の意味は分からなくて。


 けれど、三日後に分かった。


 出演予定のテレビ番組が急遽差し替えになる。参加予定だったコンサートは中止。時折歌いに行っていた店が突如閉店。


 あり得ないことになってしまった。


 それにショックを受けた株縫志。

 彼は退院後、一人で暮らしていたアパートを出、両親のいる家へと向かうのだった。



 だが、両親の暮らす穏やかな家は、もうなかった。


 いや、もちろん、家自体はあったのだ。

 けれどそこに穏やかな夫婦は存在せず。家には、父親と父親が連れ込んでいる女性だけが、静かに暮らしている。


 そう。

 株縫志の両親は、とっくに離婚していた。


 父親と同居している女性は、少し気まずそうにしながらも、株縫志に厳しく接することはなかった。が、株縫志は歪な三人での暮らしに耐えられなくて。結局、家を出ていく。


 以降、彼はあちこちを彷徨(さまよ)った。


 大きな鞄一つだけを持ち、弐本中を旅する。

 しかし、その旅は、「旅」とは言えないようなもので。


 傷を癒やすためだけの彷徨いであった。

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