一話「誕生から、大学入学まで」
聖暦二○○○年、四月二日。
とある島国・弐本で、一人の男の子が誕生する。
彼の名は、丹太ノ村 株縫志。
そこそこ大きな企業に勤める三十三歳の男性会社員・丹太ノ村 志本加と、弐本の首都で歌手として活動していた女性・運輸 収入子の間に生まれた、一人目の子どもだった。
清潔感溢れる毛が一本もない頭部と、濃い眉。横長の四角のような形の目。そして、なだらかな山のような鼻。美男子と言われるような顔立ちではないものの、愛嬌があり、株縫志は両親から愛されて育った。
そんな彼は、一歳頃から長文を話すようになり、二歳の誕生日にはスピーチ大会に出ても勝負できるのではないかというほど器用に弐本語を話すようになった。みるみるうちに語彙力を高めていく株縫志。
父親は晩年、「株縫志の弐本語の上達ぶりは圧倒的だった」と語っていたそうだが、まさにその通りで。
株縫志は三歳にして、『弐本語マスターテスト一級』に合格。
前代未聞の記録を打ち立てた。
しかし、彼の言語愛はそれだけでは止まらなかった。
三歳の終わり頃から独学で勉強し始めたラトェン語は、四歳の途中にはすらすらと話せるようになる。さらに、ドリツ語も、四歳のうちに日常会話をできるくらいにまで使いこなすようになった。
そして、五歳八カ月の時、オリジナル言語の『ナハナムリリコーラス語』を作り上げ。その『ナハナムリリコーラス語』で、『架空言語創造大賞』を受賞したのだった。
聖暦二○○六年、四月。
六歳になったばかりの株縫志は、小学校に入学。
彼が入学したのは、富土騎士小学校という、私学。毎年百人ほどが受験し、合格するのはそのうち五〜十名ほどだけという、かなり少人数教育の小学校だった。
株縫志は小学校に通いつつ、『スミスサンオシャーレ語』『コネケミ語』という二言語の開発に日々取り組んでいた。
そんな株縫志だから、他の生徒たちとは好む物事や話したい内容がまったくもって異なっており、そのせいで、友人はあまりできなかった。が、授業中は静かで、他人への接し方も穏やかであり。それゆえ、周囲からは不思議な人だと思われてはいたものの、嫌われてはいなかったという。
そうして順調に進級していった彼は、聖暦二○一二年三月、富土騎士小学校を卒業した。
その一か月ほど前、彼はある試験を受けていた。
それは、中学校に通うことを免除してもらうための、学力試験。優秀な生徒がよりスムーズな学びを行えるようにと、聖暦二○一○年度卒業生から実施されていた試験である。
実施科目は、国語・数学・英語・理科・社会の、全五教科。
どれも三百点満点で、満点の教科数によって中学校に通わなくて済む期間を定めるという仕組みだ。
一教科満点なら半年、二教科満点なら一年、三教科満点なら一年六カ月、四教科なら二年、五教科なら三年、中学校に通わなくて良くなる。
株縫志はその試験で全教科満点を取り、めでたいことに、中学校へ通わなくて良いこととなった。
聖暦二○一二年、四月。
十二歳の株縫志は、弐本国内で最高峰とも言われる京林四野宮高校の、バリバリンコースに入学。
だが、そこを一年二か月で卒業し、百万人に一人しか受からないと言われている京林四野宮東大学の語学コースへ期中入学した。九月からの入学だった。一人暮らしも始めた。
しかし、そこで虐められた。
それまで学年トップの成績を収め続けていた、浅瀬九条 安紗果という女子学生に目をつけられてしまったのである。
また、株縫志を虐めたのは、彼女だけではなかった。
彼女の許婚で三つ年上の男子学生である、深瀬八条 和多流。
安紗果の中学時代からの友人、牧旗 梢絵。
いつも安紗果にお世辞を言って就職を成功させようとしている、水俵 江西。
株縫志は、そういった者たちから、徹底的に虐められた。
読んで下さり、ありがとうございます。