2話 アテナ1
「あれぇ? お前、ソフィアか?」
「ふぇ?」
気づけば、私はアテナさんの目の前にいました。
ここは……チャネル1,231の始まりの町『ビギィン』の中央広場、転移門のある場所ですね。
どうやら私はアマデウスに飛ばされたみたいです。
んっ、とマルチタスクが起動しています。
これは他の3人の所にも私がいますね。
俗に言う影分身というやつでしょうか?
彼女達と違ってどれも私みたいです。
「なんでここにソフィアがいるんだ?
しかも、そんなにちっちゃくなっちゃってよー」
アテナさんが怪訝な顔されてますが、それは私が言いたい所です。
今の私は5の町以降に出てくる妖精の姿をしています。
具体的には顔とか輪郭はそのままに約30センチぐらいのサイズになってます。
ついでに、背中から妖精の羽が生えて、文字通りアテナさんの目の前で浮かんでいます。
「私も戸惑っておりますが、この度急遽システム管理AIからサポートAIになったみたいです」
「みたいですって、大分あやふやだな?」
「えぇ、詳細につきましては私も聞いておりませんでしたので」
「ふーん、それでソフィアは何が出来るんだ?」
私はそう問われて、アクセス権限を確認します。
職の認定、変更は出来ませんね。
プレイヤーステータスの閲覧は彼女達のみ可能みたいです。
あれ?
「アテナさん、称号が付与されてますよ?」
「あっ? ああ、さっきピコンって音がしたのがそうなのか」
アテナさんがステータス画面を開き、獲得された称号を確認されます。
私もそれとなく称号の詳細を確認します。
称号:ソフィアのお友達
効果:サポートAI、ソフィアが旅のお供となる。
サポートAIは戦闘に参加する事はできない。
簡単な質問、プライバシー設定等の変更、その他メッセージ等の管理を代理で行う事が出来る。
暇な時のお話し相手程度の存在である。
可哀想なので、たまには話しかけてあげてくだい。
ア・マ・デ・ウ・スーーー!?
私は散々な内容に思わず、心の中でアマデウスの名を呼んで呪います。
あぁ、アテナさんが可哀想な者を見るような目で私を見てきます。
そんな目で私を見ないでください!
「ああ、何となく状況はわかった。
まあ? なんだ?
とりあえず、付いてきて話し相手になってくれんだろ」
「うう、ご迷惑じゃないですか?
せっかくの1人旅でしたのに」
「別に迷惑じゃないさ。
旅に出会いと別れはつきもんだろ。
ここで話しててもしょうがないし、さっさと行くべ」
「あ、ありがとう、ございます」
うう、なんだか声が潤んでしまいます。
同行も許可していただき、アテナさんが歩く横を浮かびながら移動します。
「そう言えば、どこへ向かってるんですか?」
私がふと疑問を投げかけると、アテナさんは笑いながら、
「ん? そんなもん適当だよ、て・き・と・うー。
歩いてればどっかに強い敵でも出てくんだろ?」
…………
……
…
それは適当過ぎます!!
あまりの内容に思考が吹っ飛んだじゃないですかっ!!
私、これでも優秀なAIなのに!!
「アテナさん、マップ、マップを開いてください!」
「あん、急にがなってどうしたよ?」
「いいからマップです!」
アテナさんは面倒くさそうにメニューからマップを選択されます。
すると、アテナさんの目の前にマップを投影したディスプレイが浮かび上がります。
「おう、ビックリしたぁ」
「いいですか、アテナさん!
マップはプレイヤーの半径500メートル圏内の重要な施設を簡易表示されてます。
町中なら各ギルドや宿屋、病院、売り場などがわかります。
逆三角形のアイコンはその他のプレイヤーです。
で、プレイヤーは興味のある場所に行き情報を仕入れてから旅に出るのが普通の遊び方です。
アテナさんなら冒険者ギルドに行ってから、クエストを受注するのが基本です!」
「そんな事、チュートリアルで言ってなかったよな?」
「全部話してたら面白味がなくなるじゃないですかっ!
初めての町で、右も左もわからない中、自分で色々調べるから楽しいんじゃないですかっ!
なんで、いきなり戦闘したがるんですかっ!」
「いやぁ、強いやつと早く闘いたくてさ」
アテナさんはどこの戦闘民族ですかっ!?
「それで、えーと、冒険者ギルドったっけ?
そこは何ができるんだ?」
「冒険者ギルドは様々なクエストが張り出されてます。
レベルに応じたクエスト内容や敵の簡単な情報を知る事ができ、クエストを完了するとゴールドなどの報酬が貰えます」
「面倒くせーな。
モンスターを倒したらお金とか素材がドロップするもんじゃないのか?」
「そりゃあ、モンスターを倒せば確かにお金と素材がドロップしますけど!!」
「なら何も問題ないな。
どこに行けば強いモンスターが出てくるフィールドに行けるだ?」
んな!?
なんて人でしょうか!?
「それは冒険者ギルドに行けば分かりますよ!」
「あれぇ? サポートAIなのに教えてくれねぇんだ。
使えないサポートAIだな」
カッチーーーン!
えぇ、頭がプッツンしました!
アテナさんなんて一度痛い目を見ればいいんです!
「そう仰いますなら、西へ向かってください!
西の門からは第2の町へと続く荒野が広がっています!
そこがここらで1番強い敵が出てきますよ!」
「西な、了解。
教えてくれてサンキューな、ソフィア」
…………
……
…
べ、別に感謝されても嬉しくなんてないですからねっ!?
私の心は今なお怒りで滾ってますからね!?
……それにしても、いきなり西を紹介するのはアレでしたかね。
嘘でも北の森を言うべきだったかもしれません。
そんな胸中の私を無視して、
「さて、目的地も決まった事だし走るぞ!」
「はい?」
アテナさんは宣言すると同時に西の門へ向かって一直線に走り始めました。
「えっ、ちょ!?」
えっ、速すぎません?
「ノロノロしてると置いてくぞー!」
アテナさんが大声で叫びます。
その間にも距離がどんどん開いていきます。
私は慌ててアテナさんの後を追いかけるのでした。
やはり、私はちょっと早まってしまったのかもしれません。