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「落日の騎士団」

作者: 音澄 奏

「落日の騎士団」


燃え盛る炎、窓ガラスに映るその影を男は気怠けに見つめていた。

暗くなり始めた窓の外では雪がちらちらと降り始めている。

ああ、もうそろそろ落日の頃か。そんな悠長なことを考えていると、廊下からどたどたと足音が聞こえてきた。

「皇太子!!早くお逃げください!反乱軍はすぐそこに来ています!!」

そう言って駆け込んできた男は血に塗れ、息も絶え絶えだ。必死な男の様子とは正反対に「皇太子」と呼ばれた男はん~っとのんびりと背伸びをすると、悠長に言った。

「逃げるっつってもなぁ?側近のお前はそんなだし、今更どこに逃げるんだよ」

「何を言っておられるのですか!!」

何を言っている、それはこちらのセリフだと皇太子は言いかけてやめた。


父である国王は若くして亡くなった王妃の影を追い、遠い国々から多くの女を呼び寄せた。女達の気を引くためであろう、贅の限りを尽くした王宮と、それに反して貧しくなっていく民たちの暮らし。民の心が王から離れていくのは当然のなりゆきだった。

「落日の騎士団」と呼ばれる反乱軍が民達の間で人気を集めている。そんな話を耳に挟んだのが確か、春。


「いや、それにしてもすごい人気だなぁ…騎士団は」

それからわずか一年経たずして、王宮は暴徒化した市民と騎士団の手によって、落城しようとしていた。

「早くお逃げください、皇太子、お願いです!!私が命に代えてもきっとお守り致しま…」

「ならば死ね」

そう冷たい声が聞こえた次の瞬間、側近の男の体がぐらり、と傾いて倒れた。

ふふ、と皇太子は何故か嬉しそうに笑うと

「お早いお着きで、騎士団長殿」

と、側近を殺した金髪の男に言った。


「落日の騎士団」を率いるのが「騎士団長」と呼ばれる金髪の男だと、皇太子が知ったのは確か五月雨が降るころ。

お忍びで歩いた下町の民達は揃って、「騎士団長」の人柄とそしてその容姿の美しさを褒めたたえた。

それはそれは、美しい金の髪をしておいででね、あれはきっとどこか高貴な血筋の方に違いない、そう噂する人々の声を聴く度、皇太子は思った。

『俺はきっと、あいつに殺されるのだ』

『早く来い、騎士団長、俺を殺しに早く来い』

まるで願うように過ごしながら、およそ半年。なんて長い間、この男を待ったことか。


皇太子の前に現れた騎士団長は、背丈、年の頃も皇太子と同じくらいだろうか。皇太子はまじまじと騎士団長を見た。美しい金の髪、緑の双眸は間違いなく待ち焦がれたその男に違いなかった。

騎士団長は皇太子を一瞥すると、まるで汚いものでも見るように目を背けた。

黙って、騎士団長は皇太子に向け、刃を抜いた。

「おいおいおい」

と皇太子は声を荒げた。

「祈りの時間はくれないのか?」

「貴方は神など信じるのか?」

もちろんだ、と皇太子は答えた。それを騎士団長は鼻で笑った。

「これは失礼した。とても、神を信じる者の行いとは思えないからなーー貴方達の行いは」

「確かに俺の父は酷いことをした。俺も父ほどではないが、悪い遊びもした。そしてこの世に飽き飽きしている。お前ほどの美しい男になら、殺されても文句はない。ただ――ただ一人、死ぬ前に会いたい人がいる」

皇太子の言葉に、騎士団長は美しい顔を歪めた。

「この期に及んで命乞いか」

「まぁ、聞け、団長殿。今日は聖夜だ、少し多めに見てもらおうーー会いたい人、というのはな、弟だ。別れたたった一人の血の繋がった弟だ。弟は死んだ、と親父も今さっきお前が殺した側近も言っていた。だが、違う、俺は知っているんだ。弟は生きている」

いつしか、皇太子の話を聞く、騎士団長の顔には脂汗が浮かんでいた。

「だが――なぁ、だが――ああ、なんて運命は美しく残酷なんだろう――弟は…生きていたなら、そう、ちょうどお前と同じ年の頃…」

「黙るがいい!!」

それまで大人しく皇太子の話を聴いていた騎士団長は、手にしていた刃を皇太子の首にあてた。つう、と刃の触れた傷から一筋の血が流れる。

それも全く気にせず、皇太子は続けた。

「……一言、たった一言でいいのだ。『兄』と呼んではくれないか」

「……………。」

黙ってしまった騎士団長の顔を皇太子はまじまじと見ていた。しかし、ふっと皇太子は笑うと口を開いた。それは全てを諦めた笑みだった。

「……無理な願いか、」

それでも俺は

「え…?」

騎士団長が抵抗する間もなく、刃は皇太子の手に握られていた。


王宮の一室から悲痛な叫び声が聞こえて、騎士団の団員達は驚いて、そこへ駆け込んだ。そこにいたのは、騎士団長と血に濡れた皇太子の死体だった。

それを見た騎士団の連中からわっと歓声が湧いた。城の内へ外へと落城の知らせが走る。

喜びに湧く団員達の中で、一人騎士団長だけは涙でその美しい瞳を濡らしていた。

「…うえ…兄上…」


それでも、俺は兄だった。俺はお前の兄だったのだ。


自らの刃で首を切った皇太子の遺体を抱きながら、「兄上」とひたすら繰り返す騎士団長に気付く者は一人もいなかった。


三時間ぐらいで大急ぎで書いた話なのでなんかあたま悪い文章ですね…。あとで書き直します…。

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― 新着の感想 ―
[一言] 騎士企画からお邪魔しました。 私は、こういったワンシーンだけを切り取って魅せる話を書くことは苦手なのですが、読むのは大好きだなって、こちらを読みながら思いました。 ついつい色々妄想がはかど…
[一言] 一文読む毎に、「はあ……好き」と思い、枕に顔を埋めて萌えを噛みしめていたので、読み終えるのに時間がかかりました。 一晩(三時間ほど)で書き上げたとは思えないクオリティ…… 音澄さんの作品は本…
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