裏13話 思い出の体育祭① 三五くんモテモテ事件 高二 一学期
実はこのオレ、高波 三五さんは二年生になってから陸上部に入部したのだ。
日課のランニングをしている際に陸上部のクラスメイトにバッタリ遭遇して、話の流れで誘われたのが切っ掛けだ。
入部が遅かったので大会の選手に選抜される事こそ無いものの、仲間と一緒に運動したり競い合う機会に恵まれた。
その甲斐あってオレの身体は以前よりも能率良く鍛えられていったのだった。
そこでオレは日頃の成果を発揮して湖宵に良い所を見せたいと思い、一大イベント ・ 体育祭に大張り切りで臨んだのだった。
オレの出場競技は借り物競争、障害物競争、そして湖宵とペアで出場する二人三脚だ。
陸上部なのに敢えてリレーを選択しないところにオレの勝利への執念を感じ取って欲しい。
目指せ! 一着!
張り切るオレのモチベーションを更に上げてくれるのが、応援に駆けつけてくれるメイお姉さんだ。
しかも今年はアンお姉さんも来てくれて、二人で美味しいお弁当を作って来てくれるという。
気合いは充分だ! 頑張るぞ!
しかし、やる気満タンで迎えた体育祭当日。少し想定外の事態が起こった。
「お坊っちゃま~、三五ちゃ~ん、頑張って♪」
「きゃ~っ♡ 三五さぁ~ん♡ 体操着、とってもお似合いですぅ♡ あ、もちろん湖宵さんも応援してますよ♪ 頑張ってくださいねっ」
メイお姉さんとアンお姉さんの二人が応援に来てくれた。
ここまでは当初の予定通り。予定に無いのはアンお姉さんの後ろに並んでいる、七人の女性達だ。
「きゃ~っ♡ 生の三五様よっ♡」
「しかも体操服♡ 生足♡」
「カッコいい♡ あ~っ! 見てっ! 私達に手を振ってくれたよ♡」
「うれし~♡ 満たされりゅう~ん♡」
こちらの四人はハチマキ ・ ハッピ ・ 両手にウチワとかなり気合いの入った応援スタイルだ。
問題はそれぞれのアイテムに “三五♡” などという文言が印字されていること。
も、もしや彼女達はアンお姉さんのお友だちにして、元男性のQ極TS女子達? そしてオレのF Cのメンバー達!?
アンお姉さんを通してSNSとかでやり取りをした事はあるが、本人達をこの目で見るのは初めてだ。……本当に実在したのか。オレのファンの人達が。
「お兄さみゃ~♡ お嬢さみゃ~♡ アンみゃに連れてきてもらったみゃ~♡」
「面白そうだからノリでF Cにも入っちゃったにゃ♪」
「あか組がんばれ、しろ組もがんばれ……にゃ」
そして意外な三人組! ネコメイド喫茶CCCのネコさん達!
み~にゃさん、し~にゃさん、そ~にゃさんだ。いつの間にアンお姉さん達と知り合いになったんだ!? てゆ~か何故ここに!?
「三五さん、皆が着いて来たがっちゃって……。ご迷惑じゃないですか?」
「い、いえいえ、そんな。ビックリしたけど来てくれて嬉しいですよ」
「「「「きゃ~っ♡ 嬉しいぃ♡」」」」
好感度が高すぎる! 何もしてないのに!
「「「私達はノリで着いてきたにゃ~♪」」」
ネコさん達はオフでもいつもの調子なのか……。ノリノリにゃんこだな。
メイお姉さん以外は皆Q極TS女子という、もの凄い応援団だ。
オレは何でだかQ極TS女子に絶大な人気を誇る。
体育祭が始まってすらいないのに、応援にこもる熱気は既にオーバーヒート気味だ。
「高波君て大人の女の人に人気あるんだ」
「何か他人がキャーキャー言ってると超イケメンに見えてくるよね」
「三五く~ん♡ 今日もセクシィ~♡」
熱気に当てられたか、ウチの学校の女子達からも秋波が送られてきた。これがモテ期か。
「流石エロ神。見事なモテっぷりだな」
「Q極TS女子と付き合うだけはあるよな」
「大人の包容力……か」
おお。男子から反感を買わずに済んだ。良かった。オレ、許された。
だけどその代わりに……。
「むうぅ~。まあ三五がモテるのは当然だしぃ。ボク、理解ある妻だし? 別に気にしてないけどぉ」
言葉とは裏腹に、湖宵の機嫌が滅茶苦茶悪い……!
後から思い返せば、この時にしっかりフォローが出来ていればあんな事にはならなかったのかな、と反省してしまう。
オレの戸惑いとは関係無く開会式が始まり、すぐに最初の出番がやって来た。
借り物競争だ。
湖宵とロクに話も出来ないまま、入場ゲートへと向かうオレ。
よし、ここは気分を入れ換えて競技に集中だ! そして活躍して湖宵にカッコイイ所を見せてご機嫌を直してもらうのだ!
軽快なBGMが流れ、競技スタート。
オレはトップバッターだ。
いきなり一番になったらカッコイイぞ。
「位置についてよ~い、スタート!」
パァン!
スターターピストルが鳴ると同時に駆け出す!
オレが先頭だ! フフン、純粋な足の速さはオレが一番の様だな。
コース半ばまで進むと封筒を持った体育祭実行委員が立っていた。
「はい、アナタのお題はこれです」
「どれどれ……」
封筒を開けてお題を見る。
「お世話になっている人」
これは勝っただろ!
オレがお世話になっている人といえばあの人!
オレは一直線に観客席へと向かった。
「メイお姉さ~ん! 一緒に来て!」
「OK♪ 三五ちゃん♪」
打てば響くノリの良さ。
メイお姉さんと手を繋ぎ、ダッシュ!
そして最速でゴォール! これはマジで速いぞ! メイお姉さんのお陰で一着になれた!
「こちらの方がアナタのお世話になっている方ですか?」
「はい。そうです」
「ご家族の方ですか? どんな風にお世話になっているんですか?」
そこまでツッコんでくるのか、実行委員よ。え? これ、もしや上手く説明出来なかったら失格扱いになってしまうのか? それは嫌だ!
「家族同然の人です! 今日も応援しに来てくれたし、お弁当も作ってくれて! えっと、小さい頃からず~っとオレの面倒を見てくれた、もの凄く大切なお姉さんなんですっ!」
とにかく一着を取り消されたくない一心で熱弁を振るうオレ。
「はい、よ~くわかりました。OKです♪」
よっしゃ! これで一着確定だ! これなら湖宵も見直して……。
「んん~♪ 三五ちゃぁ~ん♪」
うわっと! 突然メイお姉さんに抱き着かれた!?
「きゃわいすぎるぅ~♡ ん~♡ お姉ちゃんも三五ちゃんのこと大好きよ♡」
何か感激させてしまった!? 人前で猫可愛がりされてしまうのは恥ずかしい。だけどメイお姉さんには逆らえないのでされるがままだ。
メイお姉さんの気がすんだら感謝の気持ちを込めて観客席までエスコートして差し上げる。
「メイずるいっ! 三五さんに頼ってもらえて!」
「ふふふ~ん♪ アンちゃんとはお姉ちゃん歴が違うのよね~♪」
「んむむ……あっ三五さん♡ おデコに汗が♡ ジッとしていて下さいね♡」
アンお姉さんがハンカチでチョン、チョン、と優しく汗を拭いてくれた。優しい心遣いだ。
「ありがとう、アンお姉さん」
「うふふ~♡ どういたしましてぇ♡」
「会長ずるい!」
「三五さまにお触りするなんて!」
「う、羨ましい……さ、三五さま、私と握手してくださいっ」
「ちょっと! 図々しいわよ! で、でもしてもらえたら嬉しいなあ、なんて♡」
う、う~ん。年上のお姉さんにここまで慕われるのは不思議な気持ちだなあ。もちろん悪い気はしないけどね。
オレの握手くらいで喜んでくれるのなら、いくらでもしよう。だって折角オレの応援をしにワザワザ来てくれたんだから。
そう思って手を差し出したら、オレF C会員のお姉さん達はキチッと一列に並んでくれた。お行儀が良いね!
「えっと、今日は応援ありがとうございます!」
「き、きゃ~♡」
「う、嬉しいぃ♡」
「あのセリフを言わなきゃ! “この手、もう一生洗いません!”」
「本当にもう洗いたくない~♡」
「「「面白そう♪ 私達ともしてにゃ~♪」」」
皆さん幸せそうな笑顔になってくれて良かった。オレとしても一仕事終えたような清々しい気分だ。
意気揚々と自分の席に戻ると、隣の席に座っている湖宵のご機嫌が先程よりも更に悪化していた。
「……三五、キレイなお姉ちゃん達にモテて嬉しそうだねぇぇ……! フ~ンだ! ボクというものがありながらっ! イヤらしいっ!」
湖宵が焼きもちを妬いてる! これは相当お冠だぞ……!
F C会員だという女性達に対して上手く距離感を測れなかった結果、湖宵の怒りに火を点けてしまったようだ。
湖宵を妬かせてしまったのは悪かった。でもオレなりにお姉さん方にお礼がしたくて必死に考えた。その結果、握手会をすることになった訳で……。
だから思わず先に言い訳をしてしまった。これも良くなかった。
「でもさ、お姉さん達は休みの日にワザワザ応援しに来てくれたんだよ? 無下には出来ないよ」
「……っ! もういい! 三五なんて知らない!」
「ちょ、ちょっと! どこ行くの!?」
「競技の準備! 付いて来ないで!」
ズンズンと肩を怒らせながら湖宵は去って行ってしまった。
あああ、やってしまった!
悪かったって思っていたんだから先に謝るべきだった! その後でキチンと話をすれば、きっと優しい湖宵はわかってくれたのに……。
それからはプログラムの関係で、なかなか湖宵に話しかける暇が無かった。
オレが今出来るのは、湖宵の活躍している姿を陰ながら応援することだけだ……。
ちなみに湖宵は午前の部の花形競技 ・ 騎馬戦にて、ちょっと引くくらい大活躍した。
鬼気迫る表情で他の騎馬とすれ違い様、ハチマキを引ったくっていく。その際に湖宵の腕は鞭の様にしなり空気を切り裂く。電光石火の湖宵無双だ。
あれは競技に集中してフラストレーションを発散させようとしているんだろうなあ。でも湖宵の表情は依然晴れていない……。
ヤバいな。これは湖宵をかなり怒らせてしまったようだぞ……。今のままじゃ、まともに話を聞いてもらえないかも……。




