裏10話 繊月 湖宵 VS エロ姉ぇ③ ~ これがボクのトゥルーフォームだあ! ~ 高一 三学期
「はァ~ン? アナタが女? どこからどう見ても男の子……って、はァン。だから女の身体に興味無い。つまり心が女ってことォン? 今世間を騒がせている例の薬があれば身体も……?」
「えっ? ボクは女って、繊月君?」「な、何言ってるの?」「繊月が女ぁ? いや確かに女顔だけど、男じゃん」「だよな。中性的? ではあっても」
エロ姉ぇが一発で真相に気付きだした! この女マジヤバい! 得体が知れねぇ!
そして集まってきた生徒達がザワつき始めた!
いつまでも自分の事でショックを受けている場合じゃない! 湖宵の為に立ち上がらなければ!
「湖宵、ダメだよ! アンお姉さんも言っていただろう? Q極TS女子は……」
「三五。今までごめんね。三五にだけ辛い思いをさせて。お嫁さんなんだから、ボクも一緒に風評被害を受けるべきだったんだ!」
ダメだ。目が据わってる。覚悟がキマった湖宵はもう止められない。
「聞けぇい! このボク、繊月 湖宵様はななな、なぁんとぉ! うっかり男の子の身体で産まれてきてしまった、ドジっ子☆な女の子だったのだぁ~っ!」
「「「何だってぇ~っ!?」」」
教室に激震走る!
ヤケクソになってない!? 湖宵~っ!?
「昨年夏、ボクは魔女の秘薬 “Q極TSカプセル” で真の姿、女の子の姿になる事が出来たのだ! そしてそしてぇ! 高校卒業の暁に再びQ極TSし! 今後は二度と男にならなぁぁい!」
「ええ~っ!?」「そんなぁ!」「湖宵さまぁっ! 考え直してぇ!」
湖宵ファンの女子達が悲鳴を上げる。
「フゥン。繊月きゅん。いいえ、湖宵ちゅわン。つまりアナタが三五きゅんの恋人ってワケぇン?」
「そうだっ! それも一生を添い遂げる特別な恋人だ! だからお前の出る幕は無いんだよぉ!」
「いいえ! むしろ尚更引く訳にはいかなくなったわァン!」
何でだよ! 一体どんな思考形態だよ! 頼むからもう諦めてよ!
「夏に女にQ極TSしたですってぇン? アナタ、その時三五きゅんにお預け喰らわせたでしょう! だから三五きゅんはい~っつもムラムラしてるのねン! 納得いったわン!」
「うぐぅっ!」
痛い所を突かれた~みたいに呻いているけども、いやいや湖宵。別にお預けはされてないからね? そういうことはまだしないって二人で決めただろう?
そもそも経験があるから偉いって訳でもないし。
「冬休みの後にもムラムラしっぱなしってことは、長期休暇毎にQ極TS出来る訳じゃないのねン? 少なくとも卒業までは女になれないんじゃなくてぇン?」
エロに関する事だけは鋭いな。エロ姉ぇは湖宵にビッと指を突きつけ、語気を荒げる。
「それまで自分の都合でエロを我慢させるってことぉン? こ~んなにスケベなオトコをン? 考えられないわン! アナタは恋人失格よォォンッ!」
「うっくぅぅぅ!」
そりゃ~まあ、アンタの価値観ではそうかも知れんけどさぁ……。
オレはエッチしたいからこよいに求婚した訳じゃないぞ!
そもそもアンタも童貞チンパンに自分の都合でお預け喰らわせただろうが!
ツッコミ所が有りすぎる!
だが女の戦いの緊迫感には凄まじいものがあり、オレに口を挟む事を許さない。
「それでも、それでも三五の恋人になって良いのはボクだけなんだよぉ! 証拠を見せてやるぅ!」
おお! 湖宵、負けてない!
でも何だろう。テキパキ動いて何かの準備をし始めたぞ?
黒板の上部に設置されている吊り下げ式のスクリーンシートをズシャッと下ろして展開。
更には教室にあったプロジェクターを用意して電源とノートPCに接続。
それならオレは遮光カーテンでも引いておこうか。野次馬共にも手伝わせよう。
湖宵の方に視線をやると、ノートPCを立ち上げ、バチバチとキーを叩いていて忙しそうだ。
お次はスマホを取り出してノートPCに接続……ははあ。湖宵のやりたい事がわかったぞ。
「三五! スマホ貸して!」
「OK! 湖宵!」
湖宵は軽快にノートPCを操り、手際良く準備を完了させる。
エロ姉ぇは席に着き、お手並み拝見……とでも言いたげな表情で不敵に足を組んでいる。
あと、おまけに遠巻きに様子を伺っていたギャラリー達もお行儀良く席に着いている。座りきれなかったヤツらは授業参観みたいに後ろにズラ~ッと並んでやがる。こういうアホみたいな几帳面さって日本人特有だよな~。
教室の明かりをパチッと消してやると、スクリーンに照射される光だけが鮮明に見えるようになる。
そこに映ったのは、サマーワンピースを着て心から幸せそうな笑みを浮かべる飛び切りの美少女……。そう! 究極美少女 ・ 繊月 こよい姫様だぁ!
「見ろぉ! これがボクの正体だっ!」
「フゥゥン……♡」
「うわっ! 凄っげぇ美少女!」「アイドル以上!」「こんな清楚な娘に高波みたいなエロいカレシが居んの!?」「これが繊月くん!?」「だ、男子の時よりイキイキしてる?」「キ、キレイ♪」
エロ姉ぇはここで初めて湖宵に興味を持ったみたいで、熱心にスクリーンを見つめている。
そして、こよいの可愛さに観衆一同は騒然としている。フフフ。何だか気分が良いな。
夏の思い出スライドショーが始まる。
清楚なお嬢様ルックのこよいに、スポーティーなキュロットスカートのこよい。
お淑やかな浴衣こよいに、ファンタジックメルヘンなゴスロリこよい。
ここら辺はオレのスマホに入っているこよいの写真だね。色々なこよいの魅力が再発見出来る珠玉のコレクションだ。
「ど~だっ! コレ全部ボクだぞっ! 三五が沢山の女の子と付き合っているなんてデマが流れているけど、ソレ全部ボクだから!」
「え? そ、それなら悪いことしちゃった」「私あの娘見たことある!」「私もあの浴衣の娘見た!」「ふぁ~♪ どの格好も素敵♪」「ね~、美人は得よね~」
「ズルい! 高波ズルい!」「実質的に色んなジャンルの魅力の美少女を独り占めしてるみたいなモンじゃん!」「う゛ぁ~! 美少女独禁法違反だ!」
俄に沸き立つギャラリー達。女子は色めき立ち、男子はこよいの魅力に歓声を上げながらも、オレというカレシが居るという事実に怨嗟の声を洩らす。
次にスライドされるのはオレの写真。湖宵のスマホに入っているものだね。どのオレもはしゃいじゃって楽しそうにしてるな~。
「最初は普通だったのに……」「日に日にエロくなってくわね」「オンナを知ったのね」「わかりやすいわね、高波君」
……マジかよ。えええぇ~? 自分じゃ全然わかんないんだが!?
オレ単体の写真の後には、オレとこよいのツーショット写真が流れる。
メイお姉さんに撮ってもらったものや、二人で顔を寄せあって自撮りしたものだ。単体で写るよりも幸せ度300%増しって感じ。呆れる程の良い笑顔。
うわあっ! こよいがオレのほっぺたにキスしてる写真まで! こんなの人に見せちゃって良いのっ!? オレ、スッゴいデレデレした顔しているし!
「「「キャアァ~ッ♡」」」
「「「ギャアァ~ッ!」」」
女子の黄色い悲鳴と男子の普通の悲鳴!
うわぁ~! 恥ずかしい~!
と、とにかくスライドショーはこれにて終幕。
教室の明かりをパチッと点けた湖宵はエロ姉ぇに向き直り、彼女にビシッと指を差した。
ここからは湖宵のターンだ!




