裏7話 高波 三五=エロいという風説③ 高一 三学期
人の噂も七十五日という言葉がある。
世間の噂話は長続きするものではなく、やがては忘れ去られていくという意味の諺だ。
だというのにオレの風評被害はま~だ治まる気配を見せない。冬休みも明けて新しい学期になったというのに、相も変わらずオレこと高波 三五さんはエロ魔神扱いだ。
それには恐らく二つの理由があると思われる。
理由その一。
遺憾ながら思春期の女の子にとってオレは現在進行形でエロい存在であり、今も尚エロく成長しているということ。
日課のジョギングは休まず継続しているし、運動や筋トレも行ってオレの身体は日に日に大人の男の身体になっていっている。
それが肉感的でエロいのだとか。
そこは逞しいと言って欲しかった。
オシャレの勉強をして、爽やかなイメージを身に付けようともしているんだが全く上手くいかない。
美容院で 「清潔感のある感じにして下さい」 と頼んでも、美容師のヤツら、人の言う事を聞きやしない。オレがうたた寝している間に勝手にパーマをあてたり、ヘアアレンジしたりとやりたい放題だ。
お陰で母さんからは 「学生らしからぬエロさ」 と言われ、女生徒からは遠巻きにヒソヒソ話をされる有り様だ。オレの容姿が垢抜けていくということは、陰で沢山の女の子と付き合って泣かせているに違いない……とか聞こえよがしにな!
そして理由その二。それは……。
「三五きゅ~ん♡ えくすきゅ~ずみ~♡」
「またアンタかよ……」
オレの行く手を塞ぐ様に現れた女。
この女の存在こそが、オレがエロいという風評被害を助長しているのだ。
「んふ~ン♡ ツレないわねン♡」
「うるせえ、あっち行け」
一言喋る毎にいちいちクネクネ身を捩らせるこの女はオレの一年上の先輩だ。
そして “この学校内で一番エロい女” という称号を持っている。
通称は “エロ姉ぇ” 。
先輩に対してオレの態度が失礼すぎると思われるだろうが、この女は一ミリたりとも敬意を払うに値しないどうしようも無い女なのだ。
まず特徴として、年がら年中パッツパツの夏服の制服を着ている。今は一月だっていうのに。
風船みたいに膨らんだ胸と尻を見せびらかしたいのだろう。ことある毎に制服の前のボタンを外して胸の谷間を見せつけてきやがる。
「三五きゅん……今日こそウチとラブホ行こ?」
「行かねっつってんだろ。一人で行ってカラオケでもやってろ」
「甘いわね三五きゅん! 今のラブホはカラオケだけじゃなくて色んなサービスがあるのよン! だから一緒に行きましょ!」
しつけえぇ! 本当に明け透けっつーか、周りに人が居ようが居まいが構わずにオレを誘惑してくる。何度断ってもめげない。
こんな女に付きまとわれてたら、そりゃいつまで経っても風評被害がなくならない訳だ!
「三五きゅん、三顧の礼って知ってる? アナタは何回誘えば靡いてくれるのかしら? 一万回? え? ナニ? 万顧の礼? www 万顧の礼ってこと? www ウチまじツボなんですけどw アハハハw ウケるw ヤバいw アッハハハハハww」
く~だ~ら~ね~え~!
なんってしょ~もねえ女だアァ!
嫌すぎることに、この女との特別な出会いのきっかけって、実は無いんだよね。気が付いたらいつも近くに居て、自然と絡まれていたっていうか……。
それってつまり、オレのエロさが臨界点に達し、エロ姉ぇのいるステージに突入した事を意味する?
類は友を呼ぶ……オレはこの女と同レベル?
うわあぁぁ! 嫌すぎるぅぅ!
今日を限りにエロ姉ぇとの縁を断ち切らねば!
オレはダッシュでこの場から離れる!
「逃がさないわよン♡ 三五きゅ~ン♡」
うわっ! 追いかけてくる! しかも腰をクネクネ揺らしながら! 速い! そしてキモい! 何故あの動きであんなに速く走れる!? 妖怪かよ!
このままでは振り切れない……が、問題ない。
オレが向かったのは自分の教室。
「童貞チンパンジーィ! 居るか~ぁ!?」
「え? え? 何スか? エロ神様?」
オレを神と崇める男、童貞チンパンジー。
コイツの肩をガッと掴み、オレを追って来たエロ姉ぇに向き直る。
「どうだ! エロ姉ぇ! コイツはオレの信徒! 筋金入りの童貞でチンパンジー顔負けの性欲を持つ男! オレの代わりにコイツとラブホに行け!」
童貞チンパンを生け贄に捧げる!
題して「破れ鍋に綴じ蓋作戦」!
童貞チンパンも毎日、オレにあやかりたいとか言ってきて煩いし。
厄介者をまとめて一掃できる起死回生の一手だ!
「ウ、ウホォォ~ッッ♡♡ エロ神様ぁぁ~っ! アリガトウゴザイマスゥ~ッ! 信仰してて良かったァァァ~ッ! ウッホホ~イッ♡」
大感激してビビーンと飛び跳ねて、身を固くするチンパン。
「ウフゥ~ン♡ なるほどぉ♡ 童貞でチンパンジーだなんて、流石は三五きゅんのシモベねン♡ ソソるわぁン♡」
まさかの好感触! ここは畳み掛けるしかない!
「今ならおまけでチンパンのツレ1号2号もつけてやるぞ! どうする!?」
「えっ!? オレ達も!? えっえ~っ!?」
「ひゃぁ~っ!? マジマジィ!? えええ!?」
しどろもどろになる二人だがしっかり鼻の下が伸びている。満更でも無さそうだな。
「ウッ…………フゥゥゥ~ン♡♡」
エロ姉ぇが8の字を描くように尻を振る。更には蛇苺の如く真っ赤な舌を、ペロペロペロペロと高速で動かし始める。
間違いない。この女、三人の童貞をテイスティングしてやがる。
「うわぁ……酷すぎる……」
「奈落に堕ちれば良いのに……」
期待に胸と膨らませている童貞共を、クラスに残っていた女子達がデカいゴキブリでも見る様な目で見ている。
……ゴメン、今自分を騙そうとした。訂正。童貞共だけでなく、オレも同じ目で見られている。
「ン~、こちらのお猿さんの童貞力はかなりのモノ。とても十代とは思えない拗らせっプリねン♡ ンン~、収穫にはまだ早い……かもねン」
「えっ?」
「決めたわン! アナタは後5年、童貞でいなさい! その約束を守れたら童貞を奪ってア ・ ゲ ・ ゆ♡」
「イヤアァァァァァ!」
猿の悲鳴!
「イヤ! イヤ! イヤダァ! 後5年も童貞のままなんてイヤダアアァ! その間オレはどうすればイイノオォォ~!? ア゛ア゛~!」
ガクッと膝から崩れ落ちるチンパンジー。
「うふふぅ~ン♡ 頑張ってぇ~ン♡ お猿ちゃ~ン♡」
スカートの裾をピラピラ捲って猿を挑発するエロ姉ぇ。
「オッオッオッオ~ッ♡ エロ姉ぇのスカートの中が見えそうぅぁ~ッ♡ でも5年も我慢するなんて耐えられない~っ! お願いします! ヤラせて下さい! 何でもしますカラァ~ッ!」
エロ姉ぇの足元にスライディング土下座する童貞チンパン。
スカートの中をを覗き見ようとしながらの全力懇願とは、さしものこのオレでさえ開いた口が塞がらない。
猿が神を越えた瞬間だ。
「クフフフフ♡ なァんて無様な姿なのン♡ 良いわ♡ 仲良く出来そうよン♡ クフフフフン♡ も~っとみっともなくおねだりをしてごらァン♡ そしたら1回毎に1日だけ約束の日付を短くしてアゲゆ♡ 後4年と364日よォン♡」
「ウキキキ~ッ♡ 嬉しいですキ~ッ♡ もっと短くしてくださいキ~ッ! ヤリたいですキ~ッ! ヤラせて下さいですキ~ッ! キキキキ~ッ!」
「あっはっはア~ン♡ 鳴きなさァい♡ ホラ、もっと鳴きなさァい♡」
上履きでガッスンガッスン童貞チンパンの顔面を踏むエロ姉ぇ。
「ウキキ~♡ エロいキ~ッ♡ エロ姉ぇマジエロいキ~ッ♡」
パンパンパン! (両手を叩く音)
踏まれようが気にせずエロ姉ぇのおみ足をガン見し続けるチンパン。
地獄絵図だ。(控えめに言って)
「こんなのと同じ学校なの私……ヤバい……マジ死にたい……」
「女の敵……地獄の業火で焼かれろ……」
「クソが……!」
うわぁ。女生徒が猿を見る目が、ここに来て絶対零度を越えた。冷たすぎて逆に熱く感じる。
童貞チンパンが在学中に彼女を作ることは絶対に有り得ないだろうな。(神託)
「やれやれ……アイツは全く」
「フッ……仕方無いな」
我関せずとばかりにスカし出した猿のツレ1号 ・ 2号。言っとくけど、お前らも猿と同一カテゴリーだからな。まあコイツらの親玉 (対外的に見て) であるこのオレもなのだが。
「三五っ、お待たせ~っ。日誌を返してきたよ……って何この騒ぎ? あ゛っ! エロ姉ぇ! また三五にまとわりついてる! 離れろぉっ!」
日直の仕事を終えて、湖宵が職員室から帰ってきてしまった。
弱ったなあ。湖宵と鉢合わせする前にエロ姉ぇを追い払っておきたかったんだけど……。
この二人の相性は最悪だからなあ。




