第7話 高波 三五 当たり前の事に気付く
回復したこよいと公園内を隅々までグルっと散歩する。
「あ、あはははは……」
チラチラ → 顔を赤らめてこちらを伺うこよい。
うん、若干気まずい空気だが、こんなのはちょいと時間が経てば無くなるさ。
何てったってオレ達は幼馴染みだからね。
そんな訳で色々と思い出の詰まった場所を見て回ろう。
アスレチック広場。
修繕したり塗装した跡がそこここにある、割りと年季が入ったアスレチックはもちろん子供の頃にこよいと一緒に楽しんでいた。
と言うか、近隣の少年少女でここで遊んだ事が無いと言う人はそんなにいないだろう。
ザリガニ採りをよくした水路。
よくした、と言うより今もたまにやってるんだよね、ザリガニ採り。
暑気払いをするついでにチョチョイと釣ると結構楽しい。
季節の花が色とりどりに咲く花壇。
こよいと遊歩道を歩いている時、いつもオレ達の目を楽しませてくれる花たち。
花壇だけじゃなく梅の木や桜の木も生えており春にはお花見も楽しめる。
慣れ親しんだ風景の中を女の子になったこよいと歩いていると、新鮮な喜びと感動がジンとオレの胸を打つ。
日傘をぴょこぴょこと揺らし、ニコニコ愛らしく笑うこよいの姿にどうしようもなく胸がときめいてしまう。
しかしその一方で同時に、男の子の湖宵とこの公園で過ごした思い出を懐かしく思い返してほっこりと胸が暖かくもなっている。
不思議なものでこの2つの感情はオレの胸の中に矛盾せず同居している。
この公園がオレとこよいにとって特別な思い出の場所だからだろうか?
ここにある思い出はどれもが楽しいものばかり。
この公園に居ると自然に湖宵との思い出が喚起され、脳裏に甦る。
物心がつくか、つかないかという頃に初めて湖宵と出会った。
そしてこの公園で一緒に公園デビュー。
それからたくさん湖宵とこの公園で遊んだっけ。
幼稚園や小学校の帰りは毎日の様にこの公園で遊んでいたし、高校生になった今だって湖宵と一緒に四季によって顔を変えるこの公園で色々な思い出を作っている。
もちろん湖宵との思い出はここの公園にあるものが全てじゃない。
お互いの誕生日、お祭りなどの行事、入学式 ・ 卒業式などなど……楽しかった時や人生で大事なイベントの時にはいつだって湖宵が一緒だった。
オレの幼馴染みの少年、湖宵。
彼との美しく楽しい思い出がこんなにも懐かしく思い出されるのはやっぱり……。
彼と思い出を作れるのは高校卒業までだから、なのだろうか?
湖宵の心は実は女の子で、Q極TSカプセルにより名実ともに女の子になった。
しかしお父さんとした約束の為、夏休みが終わったら高校を卒業するまで男の子の姿で日々を送らなければいけない。
こよいはそれが嫌そうにしていたが、正直なところオレは男の子の湖宵と急にお別れする事にならなくて良かったと少しホッとしてしまっている。
もちろんこよいは湖宵だと理解しているし、こんな事を考えてしまい本当に申し訳無く思っている。
でも振り返ってみた毎日は、余りにも満たされていたから。
湖宵との思い出は一緒に遊んだ事、ふざけあって笑いあった事、どれ一つとっても最高の宝物なんだという事に改めて気付かされた。
ああ、オレって本当に幸せ者だったんだな……。
しみじみと実感してしまう。
最高の宝物を共有する湖宵は、オレにとって一番特別な存在なんだって。
そんな特別な存在が女の子になったら、そりゃ~好きになってもおかしくはないわな。
…………………………。
……………………………………………………はっ!
うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
腑に落ちたあぁぁぁ!
今オレの心に浮かんだ結論はまさに心理!
すっと~んと腑に落ちた。
納得したら今までの苦悩が嘘の様にパーっと消えた。
何故こんな簡単な事に今まで気付かなかったのか、不思議で仕方がない。
オレがこよいの事を好きになるなんて当然だろう?
だって元々オレは湖宵と過ごす時間が大好きで何よりも優先してきた。
それこそ部活動で活躍するよりも、彼女をつくってデートするよりも、オレにとっては大事な事だから。
そんな大事な親友が超 ・ 超 ・ 美人でカ~ワイイ女の子になったんだから、好きにならない方がおかしい。
いや~オレってヤツは本当バカだな~。
カナカナカナカナカナ…………。
うるせ~よヒグラシww
笑うんじゃね~よヒグラシww
「? どうしたの? 三五さん」
いきなり何の前触れもなく晴れ晴れとした顔をしだしたオレを不思議に思ったのか、こよいが可愛く小首を傾げる。
ああ~っ、オレってこの娘の事が好きなんだ。
何て可愛らしいんだろう、こよいってば。
「えっ、いや、えとっ、あのっ」
うわぁぁぁダッセェェェッ。めっちゃしどろもどろになってるよ、オレ。
落ち着け。
ここはまず冷静になって深呼吸をするんだ。
スーハースーハー。
よし、次に何でも無いよと 「こ、こよいっ。手を繋いで帰ろう?」 ってうわぁぁぁ! 何を言い出してんだこのオレの口はぁぁぁ!
怖い! 自分で自分が怖い!
「はいっ! って、えっ! えええっ! てて、手を繋いでってえ~っ!? それってデートォォォ!? になっちゃいマスけドォォォ!?」
オレの言葉に反射的に答えるこよいだったが、年頃の男女が手を繋いで歩く事の意味を飲み込んだとたんにパニックに陥った。
だけどね、こよい。
ワタワタしつつもしっかりと右手がオレの方に差し出されているよ。
ビシッ! って感じで。
何て分かりやすい娘なんだ……やっぱりこよいは湖宵だね。
かく言うオレも頭では混乱しつつも、左手がピーンと勝手に伸びている。
恥ずかしいくらいに正直者だぁ。
間もなく、オレ達二人の手と手が触れ合った。
「「ーーーッッ!!」」
こよいの小っちゃな手。冷たくてすべすべで指が細くって、まるで淡雪で出来ているかの様だ。
ああ、オレって実はず~っとこよいの手を握りたくて仕方なかったんだな。
オレの身体が、いや全細胞が大喜びしているのが分かる。
恥ずかしげも無く胸が躍り天まで飛んで行ってしまいそうだ。
オレは今まで何を尻込みしていたんだ。この気持ちが好きってことじゃなければ、何だってんだよ。
こよいを他の男に取られても良いのか!?
良いワケないだろ!
オレのバカバカ、本当バカ!
先程までやかましく聞こえていたヒグラシの声は、今はもう聞こえない。
今感じる事が出来るのは自分の心臓の音とこよいの手の感触だけ。
「は、はぁぁ~ンッ。さ、さんごしゃんのてぇ、大きいぃっ。わたしの手が包み込まれてるぅっ。安心とドキドキが混ざった不思議な気持ちぃ……♪」
こよいの方も最初あれほど気にしていた他人の視線が、今は全く気にならないみたいだ。
いや、気にする余裕が無いと言うべきか?
こよいの蕩けそうな程熱い眼差しは常にオレの顔にロックオン。
小さなお手々は絶対に離さないとばかりに、ぎゅうぅ~っと目一杯に力を入れてオレの手を握り締めてくる。
夕暮れの並木道を、一歩一歩惜しむ様にオレ達は歩く。
もし今この場所が何も遮る物の無い晴天の道だったらこんなにゆっくり歩けないだろうな。
今のオレの顔は燃えるように真っ赤だろうから。
木陰や夕日に隠してもらっていないと恥ずかしさで全力疾走したくなる。
「また明日もデートしようね、こよい」
おおっと! オレの口からまた、自動的にナイスな本音がポロっと!
夕方になって周りに人気が無くなったとたんにコレだよ。
攻めるねぇ~、オレ~。(他人事)
「!!! ははは、はいっ! あ、明日も手を繋いで下さいねっ! ま、毎日繋いで下さいねっ!」
おおっとぉ!! こよいも攻めるねぇぇ~! 嬉しいこと言ってくれるなぁ~!
毎日こよいと手を繋げるなんて幸せ過ぎるっ!
カワイイこよいに甘えられると胸の中にグルグル渦巻く愛情を言葉にしたくて堪らなくなる。
だがしかし! この場で勢いに任せて告白してしまう訳にはいかない!
男 ・ 高波 三五さんの一世一代の愛の告白なんだからな!
然るべき時に何かこう、気の利いたセリフをバチっと吐いてカッコ良くキメてみせる! (具体性皆無)
告白に相応しい然るべき時かぁ……うーん、そうだなあ。
やはり、一週間後に控える夏の一大イベント ・ 夏祭りしかないんじゃなかろうか!?
祭りの最後に打ち上がる花火をバックに告白……うん、コレしかない!
よーし、覚悟は決まった! 告白は一週間後!
こよいの方をチラリと見ると、はにかみながらも微笑み返してくれる。
思わずぎゅっと手を握ると、こよいもぎゅぎゅっと握り返してくれる。
この微笑みを。繋いだ手を。
絶対に永遠のものにしてみせる。
よ~し! 頑張って告白の作戦を考えるぞ!