裏5話 サプライズ&リクエスト① 高一 クリスマス
デートの帰り途というのは名残惜しいものだ。
想い人との時間が終わることに抵抗するかのように歩みが遅くなってしまう。例えそれが無駄な抵抗だとわかっていても。
でもお楽しみが待っている今日だけは特別だ。
スキップするような弾む足取りで、あっという間に高波家にご到着。
あっ。オレの家の前にメイお姉さんの車が停まっているぞ。
「「ただいま~」」
「お帰りなさ~い。三五ちゃんにお坊っちゃま」
先にオレの家に来ていたメイお姉さんが母さんと一緒にパーティーの料理を作ってくれていた。
「三五さん、お帰りなさいませ♪ 高波家のクリスマスパーティーにお招きしてもらえるなんて、私と~っても嬉しいです♪」
「アンお姉さん、いらっしゃい。オレもアンお姉さんと一緒にクリスマスが過ごせて嬉しいです!」
「うふふふ~♡ 三五さん優しい♡ さぁ~て、張り切って準備しないと!」
今年のパーティーはメイお姉さんの従姉妹のアンお姉さんが初参戦。
お皿をテキパキと並べたり、テーブルのセットなどをしてくれている。お花まで飾ってくれて、我が家の食卓がいつになく華やかだ。
「む~! アン姉さんは三五への好感度高過ぎ! いつもながら!」
「いえいえ~♡ 湖宵さん程ではないですよ♡ 私の気持ちなんて、湖宵さんの七割程です♡」
「思ってた以上に高かったぁ! この人ヤバい! 三五と一緒の墓に入りたいと思ってるレヴェル!」
いや~今年のクリスマスは賑やかだな~。
「三五ぉ! クリスマスツリーの飾り付けしよ! ボクと! ボクと一緒に!」
湖宵がオレの手を引っ張る。だけどオレは、その手に自分の手を重ねて待ったをかけた。
「その前に、湖宵。ちょっとオレの部屋まで来てくれる?」
「へっ? う、うん。良いけど……」
パーティーの準備をしてくれている母さんやお姉さん方には申し訳無いが、一言断ってこの場を外させてもらう。
湖宵の手を引き二階のオレの部屋に向かう。
湖宵にクッションに座ってもらう。
オレはその間にクローゼットに大事にしまっていたあるモノを取り出した。
それを湖宵の目の前のミニテーブルの上に置く。
「メリークリスマス、湖宵」
「こ、これって……ボクへの……クリスマスプレゼント!?」
そう。オレが用意したサプライズとは、ちょ~気合いの入った湖宵へのクリスマスプレゼント。実はこれを買いたいからバイトをしたのだ。
「開けてみてごらん」
「う、うん。……うわぁ~! カワイイッ!」
湖宵が丁寧に包装を剥がしていくと、中からメリーゴーランド型のオルゴールが現れた。
ネジを回せばメリーゴーランドがクルクル回り、美しい音色が流れる。
曲はパッヘルベルの「カノン」。
「わぁぁぁぁ~……綺麗……♡」
湖宵はうっとりとした目で上下に動くお馬さんや馬車を見つめ、音色に耳を澄ませる。
その姿は夢見る乙女そのもの。
良かった。湖宵はメリーゴーランドが好きだから、きっと気に入ってくれると思ってた。
それに生まれてから今年の夏まで、ずっと男の子として暮らしていた湖宵の部屋には女の子らしいアイテムが少ない。だから可愛らしい置物を飾ってくれたら良いなと思っていたのだ。
「ありがとうっ三五っ! とっても嬉しいよっ! ……あぁっでも、どうしよう……」
満開の笑顔を咲かせてくれたと思ったら、次の瞬間に何故か慌て出す湖宵。
「ボクの三五へのプレゼントって 「スマモン」 なんですけど! しまったぁ~! もっと彼女らしいプレゼントを選べば良かったぁ!」
「いやいや。 「スマモン」 は良いものだよ」
湖宵がオレに用意してくれたプレゼントは大人気対戦ゲーム 「スマッシュモンスターズ」 だ。二人で遊べばとても盛り上がるし、恋人への贈り物として適していないとはオレは思わない。
正月明けに湖宵と遊ぶのが楽しみだ。
「でもぉ! 恋人になって、お嫁さんになって、初めてのクリスマスなのにぃ! うわぁぁ~! はっ、外したあぁ~!」
頭を抱える湖宵。
でも仕方の無い事だ。だって今は、オレと湖宵は友達同士の関係なのだから。(名目上)
友達同士へのプレゼントに特別な物を贈らないのは普通のこと……。だけれど湖宵はオレのベッドに頭をメリ込ませる程に気に病んでいるみたいだ。
「じゃあさ、湖宵。一つにお願いしたいことが有るんだけど、良いかな?」




