裏3話 繊月 湖宵とのデート事情① 高一 クリスマス
年末年始の湖宵はとても忙しい。
オレの幼馴染み兼、男友達兼、お嫁さんな湖宵は歴とした良いトコのお坊ちゃまだからね。
繊月家主催のパーティーに顔を出したり、一般人のものより遥かに堅苦しい親戚付き合いがあったりして、この時期は湖宵と一緒に過ごせないのだ。
だから高波家では毎年、クリスマスイブに湖宵を招いてパーティーを開く。
今年もありがとう、来年もよろしくという気持ちをひっくるめた賑やかなクリスマスパーティーだ。
そして、クリスマスのお楽しみはパーティーだけじゃない。
今年はパーティーの前に湖宵とデートする約束もしているのだ。
そんなワケでクリスマス当日。
オレはおめかしして街まで出掛ける。
デートっぽさを演出する為に、今日は珍しく外で待ち合わせだ。
待ち合わせ場所の駅前広場に到着。
時刻は約束の5分前。
「「あっ」」
オレと同じタイミングで湖宵が現れた。
流石は幼馴染み。阿吽の呼吸だ。
「おはよう、湖宵。その新しいコート、とっても似合ってる。可愛いね」
湖宵が着てきたのは下ろし立てのダッフルコート。可愛らしいデザインと優しい色合いが湖宵にベストマッチしている。
「おはよう、三五! ありがとう♪ 前に一緒にやったバイトのお給料で買ったんだ♪ 三五も新しいコート買ったんだね! 大人っぽくて素敵だよ!」
「ありがとう。オレも気に入ってるんだ」
かく言うオレもコートを新調した。
首周りにライオンのたてがみみたいなファーが付いているモッズコート。色は渋めのモスグリーン。カッコイイ!
実は少し前に、オレと湖宵は本屋さんで棚卸しのアルバイトをしたのだ。
その時のバイト代と以前から貯めていたお小遣いで、オレの懐はとても暖かい。なので今日のデートに合わせて思い切って買ってしまった。
「そろそろ行こうか、湖宵。お手をどうぞ」
「う!? う、うんっ!」
エスコートする為に手を差し出すと、湖宵は赤くなりつつもおずおずとオレの手を取った。
キョロキョロしてみたり、小さくなって俯いてみたりと、何やら落ち着かないご様子の湖宵。
どうやら他人の目がある所で男の子同士イチャイチャするのは、若干抵抗があるみたいだ。
クリスマスムードで人通りの多い街を歩くのは、このままではちょ~っと厳しいかもしれない。
なので敢えて、普通のデートでは行かないようなお店で早めのランチをすることにした。
「いらっしゃいみゃせぇ~♪ C C C にようこそ~♪」
ネコメイド喫茶 C C C。
限定サンタメイド服に身を包んだネコミミお姉さん達の楽しい雰囲気が湖宵をリラックスさせてくれるように、と願って来店したんだけど……。
「じぃぃ~っ。あれ~? こちらのご主人さみゃ、どこかで見たような~?」
「なっ、何ですかっ!」
ネコさんが湖宵をジーッと見つめてくる。無礼すぎる。接客業とは思えない。
「あっ! 思い出したみゃ♪ 夏にご来店された、キメキメ☆ゴスロリお嬢さみゃですみゃね? おかえりなさいみゃせ~♪」
「「え~っ!? 何でわかったの~っ!?」」
前言撤回! 接客業すげぇ! Q極TSしていた湖宵の姿を見分けられるなんて!
「だって私もQ極TSした元男の子ですもの♪」
「「え~っ!?」」
そしてあっけらかんと告げられる衝撃の事実!
「そ、そんな大きな声で……。周りのお客さんにバレちゃいますよ?」
「? 別に秘密にしてみゃせんけど? HPのプロフにも書いてるみゃ」
「「ええ~っ!?」」
「ぼくもQ極TS経験者にゃ~♪」
「私も……にゃ……♪」
「「えええ~っ!?」」
何回驚いたら良いのか。
Q極TSしたネコさん達は見た感じ、この店では特別扱いされずに (良い意味でも悪い意味でも) 自然と受け入れられているみたいだ。
あれ~? アンお姉さんから聞いていた話と違う!
「フフフフ……困惑してみゃすね? お兄さみゃ、お嬢さみゃ」
おっしゃる通りの有り様のオレ達に、ネコさんはポーズを決めながらビシッ! と告げる!
「性転換? 元男の子? フッ、そんなの……この業界では個性の一つに過ぎないのみゃぁ~っ!」
「「「そうなのにゃ~っ!」」」
「「何だってぇ~っ!?」」
そこまで言い切るか。お客さん達もうんうんと静かに頷いているし。
このお店はQ極TS女子達のオアシスになるかもしれない。後でアンお姉さんにも教えてあげよう。
それに、オレ達にとってもこのお店は特別な場所に変わった。
「じゃんけん大会するみゃ~♪」
「いえ~い♪」
「クリスマスのお歌を歌うみゃ~♪」
「いえ~い♪」
湖宵はさっきから楽しそうに大ハシャぎ。それを見てオレも満面の笑みだ。
「三五三五♪ このプリン美味しいよ♪ はい、あ~ん♡」
「あ~ん……うん、湖宵に食べさせてもらうと、更に美味しいね♪」
第二の実家と化したこの安らぎ空間では、湖宵はリミッターを外してた~っぷりと甘えてくれる。
コレだよ、コレ! オレが求めていた癒しは!
外だと湖宵はあんまりスキンシップしてくれないんだよ! 甘えんぼのくせに!
久し振りにデートらしいデートしたわ~。
「ああぁ~♪ お兄さみゃ達のイチャイチャ最高みゃ~♪」
「仲良し男子高校生……尊い……♪」
ネコさん達や女性客の皆さんは男の子同士でイチャイチャしているオレ達をとても暖かい目で見守ってくれている。
何たる居心地の良さ。実家を通り越して、もはや聖域か。
大満足! C C C 最高~!
★★★★★★★★★★
「お兄さみゃ♪ お嬢さみゃ♪ またのお帰りをお待ちしてますみゃ~♪」
「もう帰っちゃうにゃ~? ぼく、寂しいにゃ~」
「し~にゃ、引き留めちゃ、ダメ。お二人はこれからクリスマスデート……にゃ」
「ううぅぅ~! み~にゃさん! し~にゃさん! そ~にゃさん! 絶対、絶対っ! また来ますね!」
自分の事をお嬢さみゃと呼んでくれるネコさん達に湖宵はすっかりなついたみたいだ。名残惜しそうに手を振っている。
「冬休み中にまた来ようね、湖宵」
「うん! 絶対!」
ネコさん達に元気をもらったし、クリスマスデートを本格的に始めようか!
「「「メリークリスマ~ス♪ お兄さみゃっ♪ お嬢さみゃっ♪」」」
「「メリークリスマス! ネコさん達!」」
ネコさん達と笑顔でお別れした後、オレ達はクリスマスの街へと繰り出した。




