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第6話 繊月 こよいとデート [公園黙示録篇]

 遊歩道をしばらく歩くと、オレ達二人の思い出の遊び場が見えてきた。


 「あ、ソリゲレンデ。懐かしいね。昔良く二人で滑っていたよね」


 「ええ。何回も何回も、まるで狂ったお猿さんの様に滑ってましたね、ソリ。懐かしーなー」


 二人で立ち止まって、思わず見上げたのは芝のゲレンデ。


 ふもとでソリをレンタルして坂を登り、人工芝の傾斜を一気にソリで滑るのが爽快で楽しい子供に大人気のスポットだ。


 オレとこよいも子供の頃に一つのソリに二人で乗って何回も何回も滑っていたものだ。


 『ひゃっはー! 風がきもちーぜぇ~!』


 『ボク、次は後ろ向きで滑っちゃうもんね~!』


 昔の事を思い出しつつゲレンデを眺めていると、オレの服の袖がこよいにくいくいと引っ張られた。


 「ね、ねぇね。一回だけ滑ってみませんか?」


 「えっ? そ、そう? それじゃあ昔みたいに二人で滑ってみようか?」

 

 ちょいと意外な提案だったが、俺も小さな頃を思い出してもう一度あの爽快感を味わってみたいと思った。


 ソリをレンタルしたらまず底面にワックスをたっぷり塗りたくる。

 ソリを滑りやすくする為だね。


 お次は二人でソリを担いで、えっちらおっちら坂を登る。


 ゲレンデに入場しソリを傾斜の手前にセットすれば、後は乗り込むだけで準備OK。


 こよいが前でオレが後ろに座る……ってこれ密着度高くないか!?


 「はっ、はぁぁっ! ふわわゎゎ!」


 こよいも何だかパニックになって、お目々がグルグルしてプルプル震えている。

 

 かく言うオレもこよいを後ろから抱き締める格好になっている為、心臓がドキドキバクバクの視野狭窄状態に陥ってしまっている。


 このままでは危険だ。

 こよいがソリから落ちない様にしないと。


 そう思ってついつい前のめりになるとワックスが塗られたソリがつつっと前に進み、斜面に沿ってガクンと傾いた。


 一瞬ソリがフワッと浮遊。


 次の瞬間、オレ達の乗ったソリは一気にゲレンデを滑走する!


 シャアアアアァァァァーーーーーーッッ!


 「う、うわ~っ!」

 「きゃあぁ~っ!」


 な、何というスリル! 脳味噌が茹で上がった状態で乗るソリの何と恐ろしい事か!


 「きゃあぁぁ~っ! きゃあぁぁ~っ!」 


 ぎゅうぅぅっ → オレに抱き着くこよい。


 「!! うっ、うおお~っ!」 → 若い情熱の叫びをあげるオレ。


 あ、頭がクラクラしてきたぁ~っ! むむむっ! イカン! こよいのワンピースの裾が風でピラッとめくり上がりそうだ!


 「きゃっ! きゃあぁ!」

 「くっ!」


 思わずこよいのワンピースの裾をペシッと手で押さえたオレだったが……。


 オレの手にこよいの細くしなやかな脚の感触が! ダイレクトに伝わってくる!


 「うわわわゎ!」

 「ひゃわわゎ!」


ぐるぐるグルグルと目が回り、カーッと頭に血が昇る。

 だというのに無情にもソリはハイスピードでふもと目掛けて一直線にカっ飛ぶ!


 「「ひゃあああぁぁぁ~~っっ!」」



 地獄の底に叩き落とされるかの様な体験だった。


 オレとこよいはふもとに着いてからもしばし身動きがとれず、荒い息を吐いていた。


 頭がくわんくわんして浮遊感の残る身体にジンと血液が循環していくのが心地良い。

 ちょっとトリップしてしまっていた。


 「はあ……はあ……サ、サんごしゃん……。も、もう一回……♪」


 味を占めたな、こよい。

 だけどオレもあの得も言われぬ快感をもう一度味わいたい。


 オレとこよいは二人でソリを坂の上まで運び、もう一回と言わずに二回三回とソリ滑りを楽しんだのだった。


 「ハア……ハア……やべ、ちょっと気持ち悪い。こよいは大丈夫?」

 「うっぷ……な、なんとか」


 調子に乗ってソリをキメ過ぎた。

 頭がビリビリと痺れて、胃の中身がグルングルンして気持ち悪い。

 やり過ぎダメ、絶対。


 ゲレンデの先を少し歩くと売店がある。

 フラッペでも食べてリフレッシュしよう。




★★★★★




 「ん~っ♪冷たくて美味しい♪」


 ベンチに並んで座りオレ達は仲良くフラッペを食べる。


 女の子になったこよいが小っちゃなお口でイチゴのフラッペを食べてる姿は、何かもうたまらんね。


 「あっ、ホラ見て、三五さんアレ!」


 こよいに見とれている内に彼女は何か良いものを見付けたらしく、オレの裾をクイクイと引いて教えてくれる。

 

 こよいが指を差すのは芝生を駆け回り水鉄砲で水の掛け合いをする子供達。

 

 これまた懐かしい。

 オレ達もあんな風に水鉄砲で遊んでいたっけ。


 『オラくらえ~湖宵~! 狙い撃つぜぇ!』


 『こっちは2丁拳銃だぞぉ! コヨイ ・ ザ ・ キッドだぁ~っ!』


 水鉄砲の撃ち合いに夢中になりすぎて、ビショビショのTシャツを脱ぎ捨ててもなお延々と水の掛け合いをしていたものだ。


 ん? 

 こよいがキラキラした瞳でこっちを見ている。


 「ねぇ、わたし達も水鉄砲で遊びましょう?」


 カワイイお嬢様のおねだり第2弾。

 これは叶えて差し上げなくては。


 売店で水鉄砲を2つ買い、水飲み場でたっぷり水を入れてから芝生に入る。


 少し距離をとり、水鉄砲を構えるオレとこよい。

 

 「それっ! 先制攻撃だ!」


 「日傘バリヤー♪」


 「あっ、それズルい!」


 うむむ……それならば、こよいがこっちを撃つために日傘から顔を出すタイミングで撃てばいい……今だっ!

 オレの水鉄砲から放たれた水が放物線を描きこよいの胸元へ。


 「きゃっ! つめたぁい!」


 「エッッッッッッロ!」


 ってこれヤベェだろ! 思わず声が出ちゃったよ!


 こよいのワンピースに水がかかり、地肌が若干透けて見えてしまっている。


 これ当たりどころが悪ければ、し、し、下着が透けちゃうんじゃないか!?

 中止にした方が良いんじゃ……。


 「ええいっ! お返しでぇぇす!」


 「うわっ冷たっ!」

 

 こよいの反撃でオレの白地のTシャツ (何かのフェスのロゴ付き) が濡れた。


 「はぁぁぁぁんっ! エッッッチィ!」


 「は?」


 こよいは何故か興奮しつつ日傘を投げ捨て、両手で水鉄砲をしっかりホールドしてオレに精密射撃を浴びせてくる。


 「くふぅぅぅ! ぴったりシャツがお肌にくっついてスケスケで……たまりませぇん! ハアハア……えいえい!」


 「冷てっ! 冷てっ! ええいっ!」


 「きゃあっ♪ くふふぅ♪ お返しですよぉ♪」


 執拗なこよいの射撃に対し、思わず反撃してしまう。


 今度はこよいの真っ白な二の腕に水が掛かって弾け、雫がつぅーっとその細腕を伝って……ってやっぱコレ目の毒だぁぁ!


 うろたえるオレに対して目を血走らせながら水鉄砲を撃ちまくるこよい……ってちょっとおかしいぞ?


 「こよい! 何でそんなに興奮してんの!? こよいはオレの裸なんて見慣れているでしょ!? ついこの間も一緒に日帰り温泉行ったじゃん!」


 オレがこよいの健康的な艶姿にドギマギしてしまうのは、自然の摂理と言えよう。


 しかしこよいは男だった時からさんざんオレの裸を見ているのに何故今更Tシャツが透けたくらいで興奮する!?


 「お、おんせん……さ、三五さんの、ハ、ハダカぁぁ~……」


 ぼぼんっと、音が聞こえそうな勢いで耳まで、真っ赤になるこよい。


 「おんせん……サンごサんの、は、はダカ……ささ、最高でしたぁぁぁっ……ぷっしゅぅぅぅぅ~

……ぱたり」


 芝生の上にぶっ倒れるこよい! って最高だったのかよ! 今更ながらオレってずっとこよいにそんな目で見られていたのか!?


 い、いや別に、嫌なわけでは無いんだけれども……。

 でも、あぁぁ~っ! 何か恥ずかしさと居たたまれなさが押し寄せてくるウ~ッ!


 ううう……オレもぶっ倒れてしまいたいが、こよいを介抱せねば。

 木陰のベンチに連れて行って一緒に休もう。


 うわあ。鼻血出ちゃってるよ、この娘。

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