第77話 高波 三五 8月31日 誓約
「あはははは♪ あ~、可笑しかった♪」
ひとしきり笑ったこよいの顔に赤みが指す。
悲しみに凍りついていた表情が溶けて、喜びが溢れだしている。
憑き物が落ちたみたいな良い顔だ。
「三五、ありがとう。わたしね、三五が隣に居てくれたら、きっと何があっても大丈夫だと思う!」
「うん。オレ達はずっと一緒だよ!」
「きゃ~っ♡ さんご~っ♡」
元気良くこよいがオレの胸にダイブする。
抱き締めたその身体は、ポカポカとあったかい。
「あ、あのね? 三五。さ、さっきはばか、なんて言っちゃってごめんね?」
「良いんだよ。思ったことがあったらこれからも何でも言って。全部受け止めるから」
「わ、わたしにもっ! 何でも言ってね! 悪い所があったら直すからね!」
心を裸にして、思いを言葉に変えてぶつけ合う。そうする事で、時にはケンカになるかもしれない。
だけどその度に、仲直りして何度でも絆を深めていける。
オレ達にはそれが出来ると今回の件で確信した。
今、オレの胸からこよいへの限り無い愛と、誰よりも幸せにしたいという熱意が迸っている。
ほんの少し前はこよいを泣かせてしまったことで無力 ・ 無気力感に苛まれていたというのに、現金なものだ。
だけどオレの腕の中で幸せそうに微笑んでくれるこよいを見ていると気持ちが押さえられない。
ありったけの気持ちを言葉にして、愛するこよいに伝えよう!
こよいお嬢様を優しく抱っこしてオレの膝の上に乗せる。
自然とオレの胸に体重を預けてくれるこよいの髪を感謝を込めて撫で撫でする。
トロンと熱く潤むこよいの瞳をジッと見つめて、大切な言葉を紡いでいく。
「こよい、愛してる。結婚しよう。今すぐに」
「嬉しいっ! わたしも愛して……って今あぁ!? 今すぐって言ったぁ!?」
一瞬、今日一番の笑顔を見せてくれたと思ったら、突然のプロポーズに気付いてビックリ仰天してしまうこよい。そりゃそうか。ムードもへったくれもないしな。
しかし! 愛の告白は二人の気持ちがスパークしている時に言うのが一番大事なのだ!
それをオレは夏祭りの時に学んだ。
こよいとオレはこれから先ず~っと一緒。
だから気の利いたセリフは思い付いた時に言えば良いのだぁ!
オレ達二人が夫婦であると認めれば二人は夫婦!
入籍だのエンゲージリングだのは、都合のつく時で良いのだ!
「誓うよ。オレはこよいを、こよいだけを一生涯愛し続けるって。必ず幸せにしてみせる。こよいと、将来こよいとの間に産まれる新しい命を、必ず守り抜いてみせる」
我ながら途轍もなく大きい事を言い切った。
だけどその責任の重さに震えたりはしない。
絶対の自信を持って、伴侶に将来を誓うこと。
それこそが大人の男になる為の第一歩なのだと、オレは思うから。
「ああ……っ! 三五ぉっ! さんごぉ~っ! うわぁぁ~んっ!」
ポロポロとこよいの瞳から零れる、大粒の涙。
その涙は熱く、熱く。オレの身体を燃やすほどの気持ちがこもっていた。
「なるっ! なりますっ! い、今からっ! たった今から、わたしは、あなたのお嫁さんですうぅっ! わぁぁぁんっ! さんごぉっ!」
力一杯、気持ち一杯の抱擁をこよいと交わして、唇と唇を触れ合わせる。
甘い感触を何度でも何度でも味わう為に唇を重ねては離し、重ねては離しを繰り返す。
「んっ……♡ ちゅ♡ ちゅ♡ ちゅ♡ はぁぁっ……♡ さんごぉ♡ わたしの、わたしだけのだんな様……♡ ずっと、ずっと一緒にいてね♡」
甘く蕩ける口づけは全身の血をゆっくり過熱させていくと同時に、深くて心地良い安心感をじんわりと与えてくれる。
この安心感はきっと、人生を連れだって歩んでいく女が、こよいが誰よりも近くに居てくれるから、こんこんと湧き出てくるんだろう。
こんなに素晴らしい気持ちをこよいにも感じてもらえていることが誇らしい。
そしてこよいと二人でいつまでも一緒に人生を歩んでいけると強く実感したことで、喜びの涙もまた、堪えきれずに溢れてくるのだった。




