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第71話 繊月 こよい 夕陽が綺麗……

 『さあ♪ ベストカップルのお二人を拍手でお見送り下さ~い♪』


 ピエロ姉さんに先導されてステージを下りるオレ達に拍手が降り注ぐ。


 パチパチパチパチ~。


 「ウフ♪ ゆっくり楽しんでね♪」

 「ハッスルしすぎんなよ~」

 「おトイレいっといた方がいいわよ~♪」 

 「女の子には優しく、だぜ?」


 拍手と一緒に生暖か~い視線と意味深なアドバイスが贈られる! 


 うわああぁ! 止めてくれぇ! 何故観覧車に乗りに行くだけでこんな辱しめを受けねばならない!?


 「あうぅ……」


 ホラ! こよいも居たたまれなくて真っ赤っかになってんじゃん!


 だいたいねぇ? か、観覧車でねぇ? そんな、エ、エッチな事なんてするワケないじゃん?

 そりゃあちょっとくらいは触れ合ったりするだろうけど……。普通の観覧車なら。


 でもこのギャラリーの反応から察するに、ラブパの観覧車は普通の観覧車とは一線を画すようだ。

 

 う~、そ、そんなにヤバいの? 1/3倍速マジックミラー観覧車とやらは……。

 ドキドキ。ドキドキ。



 トイレ休憩を挟んで観覧車の前までやって来たオレ達。

 そのあまりの威容に度肝を抜かれてしまった。


 一見すると何の変哲も無いごく普通の観覧車なのだが、まず窓のように見えるものが実は窓じゃない。

 これは鏡だ! 鏡貼りになっている! 中の様子が伺えないマジックミラーだ!


 そして回転速度。コレがひたすらに遅い。


 平均的な大きさの観覧車が一周するまでの時間が10分だとして、コイツは1/3倍速だから一周するまで約30分……。

 その間こよいと二人きり……。ゴクリ。


 「さあ空飛ぶイチャラブルーム、もとい観覧車が来ましたよ~♪ 中へどうぞ~♪」


 うわ、中はさらにヤバい! 薄暗くて足元にある間接照明がムーディーな雰囲気を作っている。 


 そして極めつけは座席がないこと! ここに置いてあるのはソファーベッドだ!


 オレ達はピエロ姉さんに押し込まれる形で中に入り、ちょこんとソファーベッドに並んで座った。


 「それではごゆっくり空の旅 (意味深) をお楽しみ下さ~い♪」


 バタンとドアが閉められ、ゆっっっくりと観覧車が上昇していく。


 「……………………」

 「……………………」


 オイオイオイオイ。何だよこの空間!

 イヤらし過ぎる! ハッキリ言ってラブホじゃん!


 古の時代のラブホはベッドが回転していたと伝え聞くが、今やラブホ自体が回転してんじゃん! 

 これ見よがしに遊園地の敷地内に鎮座してるし!

 凄い時代だよ! エロ時代の到来だよ!


 ラブパに来るような超絶バカップルがこんな空間に放り込まれたら、何も起こらないワケが……。


 「三五っ♡ すきぃぃ~っ♡」


 「わっ! こよい! そんないきなり!」


 こよいがガバッと身体ごとぶつける勢いで抱き着いてきた! まだ地上からほんの少ししか離れていないのに! ピエロ姉さんのニヤケ面すらハッキリ見える位置だぞ!?


 「全然いきなりじゃないよぉ! 三五、さっきからわたしの腰をナデナデさすってるじゃん! たまらなくなっちゃうんですけど!?」


 こよいの抗議。

 何と! 無意識のうちにそんなことをしていたとは。

 通りで手に幸せな感触が。イカンイカン。


 「え……っと、三五? そ、それでね……?」


 モジモジとして、何かを言いにくそうにしているこよい。

 

 こよいの言いたい事はわかってる。


 ラブパで散々ラブラブしてきたオレ達がこんないかにもな空間で二人きりにさせられてしまったんだ。

 自然と “そういうこと” になってしまったとして、一体誰が責められるだろう?

 メイお姉さんとラブホに行かないとは約束したけど、ここラブホじゃないし。観覧車だし。名目上は。


 理論武装は完璧。邪魔をする者は誰も居ない。

 だがしかし。


 「……初体験が空中ってどうよ?」


 それに尽きる。どんなアクロバティックな変態だよ、と言いたい。


 「で、ですよね~……んもおぉ~! それじゃこの胸のモヤモヤはどうやって晴らしたら良いのよ~! ムキ~!」


 安心半分、残念半分といった感じのこよいがオレの腕の中で暴れる。

 オレもこよいと同じ気持ちだ。

 

 「三五にお預けさせちゃった……ごめんね。ガッカリさせちゃったよね」

 

 シュンとして肩を落とすこよい。


 「ええ~い!」


 「きゃっ! さ、三五ぉ!?」


 オレはこよいを持ち上げてソファーベッドにコロンと転がして、膝の上にこよいの頭を乗っけた。


 「ひ、膝枕……♡ う、嬉しいぃ♡」

 

 「こよい、謝ることなんてないんだよ。オレはこうしていられるだけで世界一幸せだから。ホ~ラ、よしよ~し」


 左手でスベスベほっぺを。右手で頭を良い子良い子する。

 必殺のダブル撫で撫でだ。


 「んひいぃぃ~♡ コレめちゃめちゃしゅごいぃぃ♡ 気持ち良しゅぎてトんじゃうぅ~っ♡ ……って、違あぁぁう!」


 恍惚の表情を浮かべていたと思ったら、突然ガバッと跳ね起きるこよい!

 何々!? 違うって何が!?


 「わたしばっかり甘えてるじゃん! 甘えたい気持ちが抑えられなくていっぱい構ってもらって……それで三五をドキドキさせるだけドキドキさせた結果お預けさせるなんて最悪じゃん! わたし悪女じゃん!」


 そんなこと考えてたのか、こよい。


 「いやいや、残念と言えばもちろん残念だけどね。でも我慢なんて全然してないんだよ?」


 「何でよぉ! それはそれで釈然としないんだけど! 我慢出来ずに押し倒したりしても文句言わないんだからね!? グズグズしてると夏休み終わっちゃうよ!? 次のチャンスは卒業後だよ!? それでも良いの!?」


 うん。今日のスキンシップでもドキドキしたし、今のこよいのセリフにもめっちゃグラッときたけどね?

 そんなムラムラした欲望が顔を出しそうになる一方で、もっと強い感情が溢れてオレの全身を支配するんだ。

 その感情とは……。


 「こよい可愛いいぃぃ~っ!」


 「ひゃぁ~っ♡ さ、三五ぉぉ♡」


 熱い気持ちと共にこよいをむぎゅ~っと抱き締める。


  「可愛い! 可愛い! 可愛い! 可愛い! もうね! 大好きな女の子に甘えてもらうのって男冥利に尽きる! 最高だあぁぁ♡ こよいいぃぃ♡ 愛してるううぅぅ~~っ♡」


 誰の声も届かない上空なのを良いことに思いの丈を思いっ切りブチ撒ける。

 こよいを愛しく想う気持ちが何よりも強いからこそ、どんなにムラムラしたとしても欲望が暴走せずに一つの胸の内に同居していてくれる。

 恋って本当に不思議だね


 「そうなの!? そうなのぉぉ~っ!?」


 そうさ! 良し! それならここはオレの方からこよいに甘えてみよう!


 さっきとは逆にこよいのフトモモに頭からダイブ!

 おおお♡ コレは♡ これはあぁぁ♡


 「こよいの膝枕サイコォォ~ッ♡ 柔らかくってフワフワしてるぅぅ♡ 撫で撫でも! オレが大好きなその小っちゃくって可愛いお手々で撫で撫でもして下さい♡ こよい姫様ぁぁぁ♡」


 「うっきゃあぁ♡ 本当だぁぁ♡ 甘えんぼ三五ちょ~きゃわたぁぁん♡ こんな可愛い三五がわたしだけのものなんてえぇ♡ よ~ちよちよち♡ 良い子でちゅね良い子でちゅね~♡」


 「アッアッア~ッ♡」


 コレヤバい! こよいのお手々に撫で回されて顔中ヒートアップ! 

 頭がボ~ッとしてきた! 

 アッ、アッ、アッ。こ、こよいのお顔がオレの顔にだんだん迫ってきて……!?


 「三五大好き……ん~、ちゅぅ♡」


 ウットリした表情のこよいがオレにキスをしてくれる。


 頭を抱っこされて良い匂いに包まれて……心が温かいもので満たされていく、そんな幸せなキスだった。

 

 しばらくこよいの膝枕で夢見心地になっていたオレだが、突然ポンポンと優しく肩を叩かれて起きるように促された。


 「ねえ、三五、外を見てみて。夕陽が綺麗だよ」

 

 いつの間にか観覧車は頂点に達していて、外からは美しい夕陽に照らされた絶景を見ることが出来た。


 「うわぁ~、綺麗だねぇ、こよい」


 「ね、三五。本当に綺麗……」


 この観覧車に乗ってこんなに穏やかな気持ちで夕陽を見たのってオレ達が初めてじゃないのかな。

 他のお客はきっとそれどころじゃないでしょ。

 

 「綺麗だね……綺麗だね……」


 こよいは夕陽を食い入るように見つめている。

 そのまま吸い込まれてしまうんじゃないかと心配になるくらいに。


 「三五……お願いっ。いっぱい~っぱい甘えさせてっ」


 振り返ったこよいの表情ははとても切なげで熱っぽくて色気すら感じた。

 ドキン! と跳ねる胸を押さえつつもオレはこよいに優しく微笑みかけた。


 「おいで、こよい」


 「三五ぉぉっ!」


 力強く抱き着いてくるこよいをぎゅ~っと抱き締め返す。

 仔猫ちゃんをあやすように背中を撫でたり優しくポンポンしたり、とにかくめちゃめちゃ甘やかした。


 そのウチにオレをあ甘やかしたくもなったみたいで攻守交代。

 また魅惑の膝枕を心行くまで堪能させてもらった。


 キスももちろんいっぱい。

 何度も何度も唇を重ねて愛を確認しあった。


 

 「はぁぁ~……身体がポカポカするぅ~……幸せだぁ~……」


 「しょうだにぇ~……♡ しゃんごぉ~……♡」


 流石は1/3倍速。思う存分イチャイチャ出来たぞ。

 お陰でめっちゃ血行が良くなって、こよいに至っては呂律が回ってない。


 ガチャッ。


 観覧車のドアが開いた。


 「お疲れ様でした~♪ あらあらぁ♪ お楽しみでしたね♪」


 まあお楽しみだったのは認めるがアンタが考えてるようなことはしてないぞ。


 ピエロ姉さんは放っといてこよいに手を貸してあげる。


 「あ、ありがとう三五ぉ。あ、あわわ。エヘヘ、三五が手を繋いでくれてなかったら転んじゃってたかも」


 こよいはまだポワポワしているみたいで観覧車から降りる際によろめいてしまった。

 よ~し、ここは……。


 「掴まっててね、こよい。よっ! と」


 「キャ、キャ~ッ♡ こ、これってぇ♡」


 お姫様抱っこだ。

 普通の遊園地でやったらヒンシュクもんだろうが、ここはラブパだ。

 文句を言われたりはしない。 (断言)


 「そろそろ帰ろう、こよい。パークを出るまではずっとこうしていてあげる」


 「はいぃ♡ はいぃ♡ 王子様ぁぁ♡」


 「三五さんとこよいさんベストカップルすぎりゅぅぅ♡ 歴代最強ぅぅぅ♡ ねえねえ、是非是非ご自宅まで送らせて♡ ね♡ ね♡ 良いでしょ? 良いでしょ?」


 そりゃまあ、ありがたいけどさぁ……。

 良いのか? そんなに特別扱いしてもらっちゃって。


 「はいは~い! ベストカップル様がお帰りですよ~! 皆集まって~! ホラ、お荷物お持ちして! お土産もたっくさん持ってきて!」


 「「「「はいはいは~い♪」」」」


 キャストがワラワラ集まって来たんだけど!

 ピエロ姉さんに魔女姉さんにフェアリー達 (善良) ……。

 何とかパレードみたくなってんだけど!

 しかも先頭を歩くのがこよいをお姫様抱っこしているオレっていう。オレらお客さんなんだけど!

 

 「ウフフ♡ あははは♡ 楽しい所だね、ラブパって♡」


 「そうだね、こよい。絶対にまた来ようね!」


 「うん♡ 三五っ♡」


 こよいが次にQ極TSした時に、また。

 今日に負けないくらいの幸せな笑顔を、ここに探しに来よう。

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