第70話 繊月 こよいと寄り添いラブラブデート [羅武覇篇] 霆
ピエロ姉さんに連れられるままイベントステージまでやって来て、勧められるまま壇上に上がる。
『さあ~それでは発表しまぁぁす! 本日のベストカップル~!』
「「「「ワアァァ~ッ!」」」」
ピエロ姉さんの宣言にオーディエンスが応える。
結構人が集まっているな。何故こんなに関心があるんだろうか? 熱気が強くて軽く引くんだが。
『三五さんとこよいさんです♪ とっても仲良しなお二人に拍手~♪』
パチパチパチパチ! ワーワー!
「ど、どうも……」
「あ、あはは……」
『ここでお二人の本日のデートを振り返るプレイバックムービーをご覧頂きましょ~♪』
ステージの背後にある大モニターに、なんとオレとこよいの姿が映った!
『きゃ~っ怖~い!』
『はあぁぁ~ん♡』
『召し上がれ~♡』
『三五ぉ助けてぇっ!』
おおおう。
大画面で見るこよいもとっても可愛いなあ。
ジェットコースターに怯えるこよいに、メリーゴーランドでトリップするこよい。
お弁当を振る舞うこよいに、助けを求めるヒロインこよい姫。
可愛く撮れてる~って、コラアァ! 今日のデートがほとんどまるっと隠し撮りされてんじゃん!
おまけに超高画質でさあ!
『ちなみにこのムービーとお写真はDVDに焼いてお二人にプレゼントしちゃいま~す♪』
「むむ。それならまあ許すけども……。こよいが可愛く撮れてるし」
「三五もカッコ良く映ってるし」
思い出が予想外な展開で形に残って、喜んで良いのか呆れて良いのか。
でもやっぱり嬉しい。
家に帰ったら早速再生してみよう。
『他にも当園のご優待券とか、ラブラブイベント無料挑戦権とか、オリジナルグッズとか♪ その他色々ぜ~んぶまとめてプレゼント~♪』
ピエロ姉さんがお土産の一杯入った紙袋を掲げてそう言ってくれた。何だか過剰なまでに良くしてもらっちゃって悪いなあ。
『さあさあ♪ ベストカップルに選ばれた喜びや、お互いへの熱~い想い、伝えたいこと♪ この場でドーンとぶつけちゃって下さ~い♪』
オレ達にマイクが手渡される。
こよいが何か言いたそうにしているので、まずはこよいにマイクを譲る。
『あ~、あ~。えっと、どうも~こよいです~。ハシャいだトコロをお見せしちゃって、恥ずかしいです。今日はとっても楽しかったから、つい』
「わかるぅ~♪」
「カワイー♪」
「お顔小っちゃ~い♪」
『三五と一緒にベストカップルになれてとぉ~っても嬉しいです! ラブパで素敵な思い出が一杯作れました♪ ありがとうございますっ!』
ワーッ! パチパチパチッ!
『でも、ごめんなさい。こんなにおもてなししてもらったのに、しばらくラブパに来ることが出来ないんです。……今年の夏が終わったら、高校卒業まで三五とデート出来ないから』
こよいがオレと一緒に居る時には決して見せない、落ち込んだ表情になる。
祝福ムードで盛り上がっていた観衆がシンと水を打ったように静まる。
こよいの言葉をジッと待ってくれている。
そしてオレはそんな彼らよりももっと緊張して手に汗を握っていた。
もしかしたら今、こよいの悩みが何なのかがわかるかもしれない。
『約束があって、もうどうしようもなくて……。夏休みが終わってしまうのが、今からとても憂鬱なんです。考えるとモヤモヤグルグルして心が押し潰されそうになるの……』
こよいが眉根を寄せて、ぎゅっと両腕で自らの身体を掻き抱くと、観衆達もハッと息を呑み切な気な表情をする。
『でも……』
こよいが瞳を閉じる。
今こよいの瞼の裏には、オレと過ごした特別な夏休みの思い出が写っているのだろうか。
彼女の纏う空気が暖かなものになってきた。
『三五はこの夏休み、わたしに沢山の思い出をくれました。毎日毎日わたしに逢いに来てくれて、今日みたいな素敵なデートを一杯してくれた……』
パッと目を見開いてオレを見つめると、こよいの顔からたちまちに憂いが吹き飛び、満面の笑顔を見せてくれた。
『三五っありがとうっ♡ わたしが寂しい想いをしないように、い~っぱいの愛情を注いでくれて。わたし、貴方を好きになって本当に良かったっ♡』
ああ、オレの想いが正しく伝わっていたんだ。
そう確信できる程に、こよいの言葉には熱い万感の想いが込められていた。
オレには正直、不安があった。
こよいの抱えている悩みはもしかしたら酷く漠然としたもので、拭っても拭っても払いきれない霧のようなものではないのか、そうだとしたら完全に晴らす事なんて出来ないんじゃないのか、と。
でも今のこよいの笑顔を見ているとやっぱりオレのしてきたことは間違いじゃなかったと思える。
やるべきことをキチンとやってこれたのだと。
次にオレがやるべきは、こよいの言葉に熱い想いで応えること。
こよいの手を取ってマイクを渡してもらう。
『こよい、オレからもありがとう。こよいが居てくれたから、今年の夏は一生忘れられない夏になったんだよ。言葉では言い表せないくらいにね』
「三五……」
潤むこよいの瞳を真っ直ぐ見つめて宣誓する。
『こよい、オレは夏休みが終わってもずっとこよいだけを愛してる。ずっとこよいだけの三五でいるよ。約束する』
この言葉が口先だけのものでないのは、今までのオレの行動で間違いなく証明出来る。
今年の夏休みの一日一日を、こよいだけを見つめて大切に重ねてきたのだから。
何よりオレはこよいとの約束を今までの人生で一度も破ったことが無い。
それこそが人より飛び抜けて優れたところの無いオレが、世界中の誰よりもこよいに相応しい男だと断言出来る所以にして、一番の誇り。
「三五ぉっ……嬉しいぃっ……三五ぉ!」
ポロポロと涙をこぼしながら、こよいはオレの胸に飛び込んで来る。
感動に暖められた涙がオレのシャツに染みていく心地に、ジーンと感じ入ってしまう。
これからもずっと側に居て、約束を守り抜いてみせる。
そう胸に誓いながらオレはこよいを優しく抱き、ゆっくりと頭を撫でた。
「うう、良い話だ……」
「やっぱり愛は勝つ!」
「こよいちゃん! 何があっても挫けないで!」
何故だかギャラリー全員が咽び泣いていた。
オレ達の事情も何も一ミリも知らないのにどうしてそこまで感情移入出来るんだろう? ちょっと冷静になるから止めて欲しいんだが。
『うう~ん、流石はベストカップル! 美しい絆ですね! さて、しばらく当園に来られないのなら、今日は飛びきり素敵な思い出を作っていってもらいましょう! ご覧下さい!』
ピエロ姉さんがステージの大モニターを指し示すと、パッと観覧車の画像が写った。
おお~。
もしかして観覧車にタダで乗せてくれるのか?
そろそろ夕方だし、今日のデートを閉め括るのには打ってつけだね。
『ラブパ名物 “1/3倍速マジックミラー観覧車” ! これを是非是非、お二人に楽しんで戴きたいと思いま~す♪』
オイ! 何だか途端にいかがわしい雰囲気になってきたんだが!?




