第66話 繊月 こよいと寄り添いラブラブデート [羅武覇篇] 火
いや~、一発目はちょっとハードだったなあ。
次はもう少しまったりとした乗り物に乗りたい。
「ねえねえ三五、ボート乗り場があるよ♪ 一緒に乗ろう?」
「いいね。ゆったり気分に浸ろうか」
こよいの提案、正に渡りに船!
早速ボート乗り場に行って、ハート型の足こぎボートに二人で乗り込む。
「せ~ので漕ぐよ、こよい」
「うん♪ 行くよ~♪」
「「せ~のっ!」」
ペダルが二組並んでいる足こぎボートを二人で同時に漕いで進める。
グングングングン進んでいくハートのボート。
流石は幼馴染みで恋人なオレ達だ。
ボートを動かすのも息ピッタリ。
湖の上は風が涼しくて気持ちいいね。
水面がキラキラ光を反射して、夏の暑気を払ってくれているみたいだ。
それにボートの上からだと園内がよく見渡せる。
色々な楽しいアトラクションで遊ぶカップル達。
皆とても楽しそうで、それ以上にパートナーに夢中だ。
親子連れの姿を見掛けない遊園地なんて、どんな魔境だよ。
そう思っていたし、今でもそう思っている。
でもここ、落ち着くわ~。
イチャイチャし放題だし、こよいにちょっかいかけてくるヤツもいないし、空気が美味すぎる。
来て体験しないとわからない事ってあるよな~。
あ~こうやってゆ~っくりとボートを漕いでラブパを外周から眺めてるだけでも面白いな~。
「あっ♡ メリーゴーランド♡ ねえ三五~♡ わたし乗りたいな~♡」
ウキウキお嬢様はボートで遊覧するよりも乗り物で楽しく遊ぶ方がお好きなようだ。
「よ~し、それじゃ早速行ってみようか!」
大張りきりのオレ達はギュンギュ~ンとハートボートをボート乗り場まで戻して、メリーゴーランドへ向かって一直線に走る。
「わ~、わ~♪ 嬉しいな~♪ 楽しみだな~♪ 早く乗りたいな~♪」
「こよいってメリーゴーランドそんなに好きだったっけ?」
今まで何度もこよいと遊園地に来たけれども、そんな印象は感じなかった。それこそ小学校低学年の時に乗ったのが最後だったハズだし。
「ほ、本当はねっ? 三五と一緒に乗るのが大好きだったの」
「えっ? それなら言ってくれればいつでも一緒に乗ったのに」
「ええ~? いやでもホラ、男の子同士でメリーゴーランドに一緒に乗ってたら、変な目で見られちゃうでしょう?」
オレは別に一ミリも気にならないけど、周りの目が気になってこよいが楽しめないのはかわいそうだな……。
よし! 今日は今までの分も、目一杯こよいに楽しんでもらうぞ!
「お次のお客さまどうぞ~♪」
係の人の案内に従って前に進む。
「さあお姫様。お手をどうぞ」
こよいの手を取って、優しくエスコート。
「あっ、はっ、はいっ♡」
ポ~ッとした表情のこよいを白馬の元へお連れする。この馬なんか立派だな! 精悍だしG1でも通用しそうだ。
こよい姫様に相応しい一頭だといえよう。
「こよい姫、ゆっくり乗ってくださいね」
「は、はぁいっ♡ 王子さまっ♡」
姫を白馬にお乗せしてオレもその後ろに跨がる。
「姫様、シートベルトをしますね~」
そしてこよいが落っこちないように、きゅ~っと抱き締める。こよいのお腹の前で両手を組んだら人間シートベルトの完成だ。
「きゃぁぁ~っ♡ このシートベルト好きぃ♡ だいしゅきぃ~っ♡」
♪ ~ ♪ ~ ♪ ~ ♪ ~ ♪ ~ ♪
ムーディーな音楽が流れ出した。
メリーゴーランド全体がピンクや紫の照明で輝き、妖しく気分を盛り上げる。
いいのか? 遊園地でこんな演出して。
「はあぁぁぁん♡」
こよいは白馬にぶっ刺さっているポールを強く握りしめ、ため息を吐いている。
「はあぁぁぁぁぁ~~ん♡」
こよいの目がトロロ~ンと蕩けている。
これは完全にトリップしている目だ。
オレも結構ドキドキしているけれども、こよいのハマりようは尋常じゃないな。
見ていてあげないと心配だ。
「はぁ~♡ はぁぁ~♡ な、何かボヤァ~ってしてきたよぅ……♡ 幸せな気持ちぃ♡ こ、ここが天国……? 天国なのぉ? はぁぁぁぁ~♡」
「ってこよいぃ! それ酸素欠乏症ぅ! 空気吸って! 吐いてばかりじゃなくて空気を吸ってぇ!」
危ねぇぇ! こよいが昇天するところだったぁ! 注意していて良かったぁ!
「すは~、すは~」
メロディーが止まり、無事にメリーゴーランドを乗りきったオレ達。
さてお次は……。
「あ、あのっ。あなた達、凄くラブラブで良かったです! もう一度メリーゴーランド乗りませんか!? もちろん無料ですからっ!」
おや。係の人にオススメされてしまった。
この遊園地は資本主義が息をしていないな。
むしろラブラブこそが資本だと言わんばかりだ。
「じゃあ次は馬車に乗りたいな♡」
馬車に並んで腰かけて、こよいの肩を抱き寄せる。こうしておけばこよいがちゃんと息をしているかどうかの確認がしやすいね。
係の人のお言葉に甘えてメリーゴーランドを二度三度楽しんだ後は、園内を軽く散策した。
すると早いものでもうお昼時になってしまった。
「お腹すいたね。何か食べようか」
「あっ、それじゃあこっち来て♡ 三五♡」
こよいに手を引かれ、たどり着いた場所はレストラン。ではなくコインロッカー。
ロッカーから出したトートバッグをオレに見せつけ、元気良くこよいは言う。
「じゃんじゃ~ん♪ 実はぁ♪ お弁当作って来ちゃいましたぁ~♪」




