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第62話 高波 三五  ラブパ♡作戦会議

 買い物を済ませた後はこよいのお家までダッシュで帰る。


 こよいの部屋で今から行われるのは、ラブラブ♡パーク攻略の為の作戦会議。


 テーブルに情報誌を広げてタブレットPCを卓上ホルダにSET。


 「ラブラブ♡コースター……ラブラブ♡シートにカップルが座ると、ラブラブ♡ベルトがきゅ~っと締め付けて密着出来ちゃう……って苦しいだろうが! 殺す気か!」


 「チュロスの端と端を二人でくわえて、折らずに食べきったら無料!? 何故!?」


 パッと目に入ってくる情報の一つ一つがイカれてるな。こいつはキチンと予習しておかないと、ツッコミを入れるだけで一日が終わっちまうぜ。


 コンコンコンッ。


 「お茶持ってきたわよ~」


 メイお姉さんがお盆を片手に部屋に入ってきた。おやつの時間だ。お茶菓子は何かな?


 「ありがとう、メイお姉さん」


 「んむ~?」


 「今日はね~、冷たい烏龍茶と杏仁豆腐で~す」


 「やったぁ~! メイお姉さん手作りのたっぷり杏仁だ~! Yeah(イエーイ)!」


 お皿の上にタワーの如くそびえ立ち、ぷるるるんと揺れる杏仁豆腐。

 こいつは食べごたえ抜群だあ。

 ん? 杏仁の上に乗っている赤くて瑞々しいものは一体? はっ! こ、これは!


 「これは……スイカだ! しかもお花の形にカットされている! メイお姉さんってば芸術家! うわ~美味しそうだなぁ~♪」


 「んふふ♪ 召し上がれ~♪」


 よ~し、味わって頂こう。……ってアレ? こよいが苦~い物でも食べた様な顔をしてる。

 何で? 杏仁甘いよ? こよいのはトッピングだって激盛りなのに。


 「三五ぉぉ。ど~して彩戸(さいど)さんのことを、メイお姉さんって呼ぶの?」


 「え? だって、従姉妹のアンお姉さんも彩戸さんだから。区別する為に」


 「そうよね~。お嬢ちゃまも私のこと、名前で呼んでね。今度アンちゃんを紹介するから」


 「メイお姉ちゃんの従姉妹のアンさん……。確かお姉ちゃんと瓜二つのお顔だとか。ってことは超スーパー美人……。おまけに既にお姉さん呼びするくらい仲良くなってるぅ! ムキ~ッ!」


 ガターンッ!


 うわああ! こよいが急にイスから立ち上がって、何やら怒りを大噴火させてるう!


 「えっ!? こよいどうしたの!?」


 「お嬢ちゃまってばま~た焼きもち? 大丈夫よ。アンちゃんは単にチョロくて三五ちゃんにご奉仕することに無上の悦びを感じてるだけだから」


 メイお姉さん!? 言い方に悪意ありません!?

 

 「ご、ご奉仕ですってぇ!? ン、ン、ンマーッ! (言葉にならない)」


 「誤解だってぇ! ホラ、アンお姉さんには、TS女子とお付きあいする上での大事なことを教わってるだけだから! これ見て!」 


 スマホを操作し、チャットアプリをタッチして展開。アンお姉さんとのやり取りをこよいに見せる。

 勿論、こよいの悩みについて話し合ってる箇所は除外して。


 「何々? え~…… 『アンお姉さん、こんな時間までありがとう』 これが三五ね。対するレスが 『三五さんのお役に立てて嬉しいです♡ 深夜でも早朝でもいつでも頼ってネ♡』 ムキぃぃ~っ!」


 うわあ~!? 何故だ!? 余計にジタバタジタバタ暴れだすこよい!


 「何でこんなに好感度が高いのよぉ!? 三五が史上最高のイケメンだから!?」


 「何か三五ちゃんってQ極TS女子にとって理想の男性なんだって。細かいことを気にしないで女の子扱いしてくれるから。ワロスよね」


 「ワロえなぁ~い! でも納得うぅ! わたし達はずっと女の子になりたかったんだもんね! 自然に女の子扱いしてもらえたらコロッと落ちても不思議じゃない! でも三五はわたしのなのぉ~っ!」


 ジタバタジタバタ!


 ああっこよい! こよいぃ~っ!


 「大丈夫! こよいっ! オレが愛してるのは! 君だけだからぁ~っ!」


 オレは手を大きく広げ、こよいに愛を叫ぶ。


 「さ、三五ぉぉ~んっ♡ わたしもぉ~っ♡」


 「何w そw のw ポーズw くふぅっw 三五ちゃん、お嬢ちゃまにメロメロになって暴走するの、ちょっと控えてくれる? ほんとマジでお姉ちゃんのツボだからw くふっw くふふふふw」


 メイお姉さんが笑い上戸になるという犠牲があったものの、こよいは何とか立ち直ってくれた。


 「そうよっ! わたしと三五はラブパ♡デートするくらいの仲なんだからね!」


 「ラブパ……ですって!?」


 ラブパと聞いた途端に、メイお姉さんの笑い声がピタリと止まる。

 そして真剣な面持ちとなり、オレとこよいをジッと見つめる。


 何だろう? ラブパデートに何か問題が? いや、あるか。身内があんな所でデートしてたら普通恥ずかしいよなあ。


 「二人共。ラブパの周りには、お城や宮殿みたいな形をしたご休憩施設があるのは知っているわね?」


 「うっ……! う、うん。オレ子供の頃、あのお城に入りたいって言って母さんにはたかれたよ」


 「わ、わたしもぉ。お母様を困らせちゃった」


 この辺に住んでいる子供のほとんどが経験する、地元あるあるってヤツだ。


 そう、ラブパの周辺にはラブ……ラブな事をするためのホテルが乱立しているのだ!

 何たる露骨! クレームをつけられたりしないのか!? イカれてるよ!


 「お姉ちゃんとしての立場上、一応言っておくわ。二人共、ラブパ帰りにラブホ寄っちゃダメよ」


 「「メイお姉ちゃぁぁ~んっ!?」」


 いくらなんでも直球過ぎいぃ!

 しかも何その生暖かい目! 「こいつらどうせ行くんだろうなぁ」って感じの!


 「それじゃごゆっくり~」


 バタム。


 言うだけ言って去って行ったメイお姉さん。


 「………………」


 「………………」


 どうしてくれるんだよ、この沈黙を。


 こよいはシュゥゥ~ッと吹き出す蒸気が幻視出来そうな程、真っ赤っかになって小っちゃくなってしまっている。


 かくいうオレも全身真っ赤で喉がカラカラだ。

 ウ、烏龍茶。烏龍茶を飲まなければ。


 冷たい烏龍茶をコクリと一口飲んだタイミングで、こよいが不意に口を開いた。


 「あのね……? 三五」


 「な、何っ?」


 小さくなってモジモジしながら、上目遣いでオレの目を覗くこよい。


 

 「ほてる……ぃくの……?」



 ズッッギュゥゥン! と、ハートが撃ち抜かれた。


 こよいのその言葉、その仕草に男の本能が掻き立てられた。

 心臓が全身を揺らすくらい激しく鼓動し、目が充血していくのが自分でもわかる。


 「オレだって男だ。こよいとホテルに行きたい気持ちはもちろんあるよ」


 オレの言葉にこよいの細い肩がビクンと跳ねる。


 「そ、そっか……じゃ、じゃあ、かえりに、よ、よるんだね……?」


 こよいの身体に力が入っている。

 膝の上に乗ったその小さな手は、ぎゅ~っと握りしめられている。


 「……いや、行かないよ」


 「えっ?」


 「ルール違反はしたくない。オレは堂々とこよいと結ばれたいから」


 衝動に流されたりなんか、するものか。一生に一度の思い出を何でコソコソ隠れながら作らなきゃいけないんだ。そんなのはゴメンだ。


 「そ、そっかあ~……そ、そうだね、三五」


 ほ~っと全身の力を抜くこよい。

 驚かせちゃったかな。

 イスを二つくっつけて並んで座り、こよいの頭を撫でてあげる。


 「んぅ……♡ ん~♡」


 体重を預けてくれるこよいが可愛くて可愛くてたまらない。


 ちょっとイタズラしちゃおうかな。可愛いお耳に顔を近付けて……。


 「大人になったらラブホ行こうね♡ こよい♡」


 「も、も~っ♡ ハッキリ言い過ぎぃ~っ♡ 女の子に意地悪しちゃダメぇっ♡ え~いっ♡」


 ぱしぱしっ。ぱしぱしぱしっ。


 照れたこよいがオレの胸を叩いてくるけれど全然痛くない。


 「あはは、ゴメンゴメン」


 バカップルしちゃってるな~オレ達。これならきっとラブパに行っても周りの甘い空気に戸惑わずにちゃんと楽しめるな。


 こよいの手のひらに優しく打たれながら、オレはそう確信したのだった。

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