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第60話 彩戸 アン  三五さんて素敵♡

 夏休みが終わりに近づくにつれて自制が効かなくなるくらいに甘えん坊になってしまっているオレの恋人、こよい。


 そんなこよいはデートが終わってオレと別れた後、一人で塞ぎ込んでしまうという。実のお姉さん同然の彩戸(さいど)さんにも相談せずに……。


 その悩みはきっとQ極TSを経験し男性から女性になったという共通点を持つアンさんになら見当がつくのではないだろうか。


 差し当たって最近のこよいの様子をアンさんに語った。


 「ふむふむ。公共の場でも甘えんぼさんになってしまうと。三五さんはその時どう対応したんですか?」


 「図書室では優しくたしなめて、家に帰ってからはたっぷり可愛がってあげました。具体的には大好きって100回言いました!」


 アンさんはオレの言葉を受け、キリッとした表情になった。


 「……三五さんに優しくメッてしてもらえて、たっぷり可愛がってもらえる……何て羨ましいの、こよいさん。大好き100回って……ひゃ~♡ わ、私なら耐えられないかも♡」


 「ちょっとアンちゃん?」


 「あ、あら、ごめんね、メイ。ええっと、そうですね。普通に考えたら女の子でいられる夏休みのウチにたくさん三五さんと仲良くしておきたい、と思ったんじゃないでしょうか?」


 「そうよね。でもそれなら隠れて塞ぎ込む理由がわからないのよね~。あの子は甘えんぼだから三五ちゃんが帰っちゃったら私に泣きついてくるハズよ。普通だったらね」


 メイお姉さんの言う通り。 「彩戸さぁ~ん! 三五が帰っちゃったよぉ! 寂しいよぉ! 夜が長すぎて辛い~!」 な~んて言ってメイお姉さんに泣きついているこよいの姿が目に浮かぶ。


 それ程懐いているメイお姉さんにすら何も相談しないのはおかしい。

 恥ずかしながら幼馴染みであるオレにもその理由がわからないのだ。


 「アンさん。やっぱりこよいは男の子の姿に戻るのが苦痛なんでしょうか?」


 辛いんだろうなとは思うが、それがどのくらいのものなのかオレには想像が出来ない。


 「そうですね。私が男の子だった時は常に違和感が纏わりついていて、いつも憂鬱でした。でもQ極TSの技術が世に現れてからは気持ちがスッと楽になったんです。いつか女の子になれるって希望が持てたから。だから私は長い間男の子でいても辛くなかった。笑ってもいられました」


 おや? 意外なご意見だ。つまりアンさんは女の子でいられなかった期間に今のこよい程には苦悩しなかった、ということになるのか。

 自分の夢を叶える奇跡の技術 ・ Q極TS手術の存在自体がそのまま生きる希望になってくれたから。


 「勿論私の場合は、ですけどね。でもこよいさんは高校卒業後にはQ極TSして女の子の人生を歩めると約束されている訳ですから、その事自体を思い詰めている訳ではないと思いますよ」


 「となると、悩みの種は三五ちゃんかしらね」


 ちょっとメイお姉さん!? どうしてそうなるの!?


 「だってせっかく三五ちゃんと恋人同士になれたのに夏休みの間しかラブラブ出来ないだなんて可哀想じゃないの。逆に聞くけど、三五ちゃんはイヤじゃないワケ? お嬢ちゃまとイチャイチャ出来なくなっても?」


 「そりゃあとっても残念だけどさ……」


 だけどオレは男の子の湖宵とずっと一緒に楽しく過ごしてきた。

 その時間があったからこそ、女の子のこよいを一目見てすぐに恋に落ちたんだ。


 「また男の子に戻っても、こよいはこよいだよ。恋人だってことも変わらない。好きな人と一緒に過ごせるんだからオレは嬉しいよ」


 「三五ちゃんって実は意外と無敵よね」


 「はあぁ♡ こんな素敵な考えを持つ男性がこの世に居てくれたなんてぇ♡」


 

 それからアンさんにQ極TSした女性の日々の生活についてお話を伺った。


 TS女子は外出先で女性専用の更衣室やトイレなどの使用を自主的に控えるようにしている、とか。学校や職場では問題無く過ごせるけれどQ極TSに無理解な人達と親交を深めるのは難しい、とか。


 聞いていてオレは無意識に眉間にシワが寄ってしまっていた。


 アンさん曰く、Q極TS女子は世間の人にとって国際交流が盛んでなかった頃の外国人の様な認識……をされている様に感じているとのことだ。


 何だよソレ……。

 こよいの姿に見惚れていた街の人々もこよいがQ極TSをしたとわかったら手のひらを返して距離を置くってことか?


 社会に溶け込むことは認めても友人や家族になる……パーソナルスペースに入ることまでは容易には認められない。それが今の世間の認識だって?


 「何でこよいとアンさんがそんな腫れ物を触る様な扱いを受けなきゃならないんだ! 絶対に間違ってる!」


 怒り心頭に発するオレであったが、そんなオレをアンさんはどこまでも優しくみつめてくれた。

 その瞳に写されているとそれだけで怒りが吸い込まれていってしまいそうだ。


 「三五さんが怒ってくれるお陰で、私はとっても救われた気持ちになりました。ありがとうございます。大丈夫ですよ。理解してくれる人や、優しくしてくれる人だってたくさん居ます。世の中は捨てたものではありません」


 アンさんの言葉には溢れんばかりの優しさと強さが感じられる。

 その言葉に導かれ、オレは顔を上げることが出来た。


 「こよいさんは貴方が居れば大丈夫。私が保証します。女の子として見てもらえる、愛してもらえる。私達TS女子が一番欲しいものをくれる人なんですから。こよいさんが羨ましい♪」


 アンさんって本当に凄い人だ。

 笑顔一つでオレの怒りを消し飛ばし、言葉一つでオレに希望をくれた。


 「ありがとう、アンお姉さん」


 「お、おねえしゃんっ!? 私がっ!?」


 「ちょっと三五ちゃん~? アンタのお姉ちゃんは私だけでしょぉ~? 何なの? 浮気なの?」


 ガシッとメイお姉さんに肩を組まれて、ほっぺたを指でグリグリされる。うあぁぁ。


 「ふ、二人目のお姉さんは欲しがっちゃダメ?」


 何でこんなに絡まれてんの? 

 首ったまにぎゅ~っと抱き着かれてちょい苦しい。


 「しょうがないわね~。特別に許してあげるわ。でもメイお姉ちゃんのことも大事にしないとダメだかんね」


 焼きもち妬いてんの? メイお姉さんってば。

 あれ? アンお姉さんの方は両手を胸の前で組んで、何やら感動しておられるご様子。


 「わ、私がお姉さん……♡ さ、三五さんっ♡ 私、こよいさんとお話ししてみますね♡ もしかしたらお悩みを話してくれるかもっ♡ 他にも出来ることは何でもしますね♡ お姉さんですもの♡」


 「チョロ甘~っ! そんなんじゃお姉ちゃんは務まらないわよ! やっぱ頼れるのは私っ! メイお姉ちゃんよね♪ 何でも頼ってくれてOKよ♪」


 「ありがとう、お姉さん達!」


 二人のお姉さんも力を貸してくれる。


 オレもオレの出来ることをしよう。


 残された日々を大切に過ごして、こよいと二人で永遠に消えない思い出を心に刻み込むんだ。

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