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第58話 彩戸 メイ  私のイトコなの

 彩戸(さいど)さんの車が停まったのは新築のマンション前のコインパーキングだ。


 「こんな所に新しいマンションが建ったんだね」


 「地域開発で土地が整備されてマンション街が出来たのよ。このマンションも去年に建てられたばかりなの」


 地域開発かあ。そういえばこよいと街にデートしに行った時も道がキレイになっていたり、オシャレな店が新しく建てられていた。

 駅自体も高架工事をしてエラく近未来的なデザインにフォルムチェンジしていた。


 世の中ってのは常に移り変わっていってるんだなあ、と思ったものだ。


 オレと彩戸さんはマンションのエントランスに入った。

 このマンションはオートロックになっており、彩戸さんはインターホンに備え付けられている数字盤に手際良く先方の部屋番号を入力する。


 ピンポ~ン♪


 「アンちゃん? 私私~、メイよ~。来たわよ~。開けてちょうだ~い」


 『もう、アンちゃん呼びは止めてってば。今開けるから入ってきて』


 今の声が従姉妹のアンさんの声か。彩戸さんの声と良く似ているね。


 ピッピ~ッ♪ ウィィ~ン。


 おおっ。自動ドアが開いた。マンションってカッケーな。秘密基地みたい。


 「アンちゃんの部屋は10階よ。行きましょ」


 お花が飾られている綺麗なロビーを抜けてエレベーターで10階まで昇っていく。

 新しいマンションは歩くだけでも面白いな。


 「あ、ここよ。ここがアンちゃんのお部屋。ピンポ~ン♪ ってね」


 彩戸さんがインターホンを押すと従姉妹のアンさんがドアを開けて招き入れてくれた。


 「お久し振り~、アンちゃん。この子が私のカワイイ弟分の三五ちゃんよ」


 「アンちゃんは止めてってば……(アン)ちゃんって呼ばれてるみたいだから。こほん。初めまして。私は彩戸 アンといいます。メイからお話は良く聞いていました」


 「初めまして。オレは高波 三五っていいます。はぁ~……」


 「あの……。ど、どうされました? 三五さん」


 「あっ! すみません! 失礼しました! アンさんが彩戸さんにまるで双子みたいに似ていたから、ビックリしちゃって」


 そうなのだ。アンさんは彩戸さんと瓜二つの顔立ちをしているのだ。


 鏡に写した様にそっくりな二人だが、良く見ると違いがある。


 キッチリとして実用性を兼ね備えたクールな格好を好む彩戸さんに対し、アンさんはゆるふわ~な感じの可愛らしい格好をしている。


 髪は軽くパーマがあてられていて、緩く波打っている。

 ファッションはレース付きの半袖ブラウスに、花柄ロングスカート。

 こういう服はこよいが好きそうだ。


 「ねぇ♪ 三五ちゃん♪ アンちゃんって美人さんでしょぉ~♪」


 彩戸さんったら。それって自分が美人だって言ってるようなもんじゃん。

 でも実際に彩戸さんは美人だしそんなこと言っても憎めないお得な性格をしているんだよね。


 「そうだね。すっごく美人さんだよね!」


 「あら~♪ 正直ね~♪ 良い子良い子~♪」


 いつもの調子で撫で撫でされる。ちょっと、アンさんがポカンとした表情でこっちを見てるじゃん。恥ずかしいなあ。


 「あ、あの~? 三五……さん? そ、それだけ、ですか?」


 「へ? それだけって? ああ、お洋服も良く似合ってますよね!」


 「えっ!? ええっ!? いえ、そうではなくて……ええと……」


 何だろう? アンさんはオレに何が言いたいんだ?


 「あのね、三五ちゃん。アンちゃんは自分が去年まで男の人だったことを、何とも思ってないの? って言いたいのよ」


 「メ、メイッ!」


 ん~??? 説明してもらっても意味がわからない。


 「でも心は昔から女の人だったんでしょ? やっと本当の女の人になれたんだから、良かったなあとは思うけど?」


 「えっえ~っ!?」


 オレ、何かおかしなこと言った? アンさんがオレの言葉に驚いているぞ?


 何が何やらオレにはわからないが、とりあえずお部屋にあげてもらった。

 ダイニングテーブルに着くように勧めてもらい彩戸さんと並んでイスに座る。


 「えっと、これ、ローズヒップティーとフルーツケーキです。どうぞ」


 アンさんからの嬉しいおもてなしだ。

 オレ知ってる。

 ローズヒップティーって超酸っぺぇお茶だ。

 でもお手製のフルーツケーキの方は散りばめられた砂糖漬けのフルーツがとっても甘そう。


 こいつは美味しそうじゃないか!


 「いただきます! うう~酸っぱい! でもその後のケーキが甘~!」


 「お口に合って良かったわ。ローズヒップティーはビタミンCたっぷりで、夏バテにも効くんですよ」


 へえ~! ただ美味しいだけじゃないんだ。


 「優しい心遣いですね~! 女性ならではって感じ。彩戸さんの従姉妹さんだけあって、そういう所も良く似て……ってあれ?」


 またしてもオレの発言でアンさんが困った顔をしてしまう。

 どうしてだろう……?


 「ゴクゴク。あ~酸っぱ。アンちゃん。三五ちゃんは嘘吐いたり、おべっか使ったりするのが大の苦手よ。言ってる事は全部本心なの。あむあむ。あ~甘い」


 彩戸さんが何かヒントをくれてる? 


 え? オレがアンさんに言ったのって美人で女性らしい気遣いが出来る人で、Q極TSして本当の女性になれて良かったねってことくらい? 

 それを言ったのが何かおかしいってこと?

 別に普通のことしか言ってないけど?



 アンさんは少しの間目を閉じて沈黙した後、ゆっくりと目を開いた。

 そしてオレの瞳を見つめてからゆっくりと衝撃の事実を語りだしたのだった。



 「三五さん。実はQ極TSした女性達は未だに周りの人全てに受け入れられている訳ではないのです……」 

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