第56話 繊月 こよい 100回好きって言ってもらうのしゅごいぃぃ♡
こよいのお家に帰り着いた途端、こよいは強い力でオレの手を引いて自分の部屋まで真っ直ぐに引っ張っていった。
「三五、ちょうだぁい♡ ご褒美ちょうだい♡ ね? ね? こよい、良い子にしてたでしょ? ね?」
こよいは真っ赤な舌をチロリと出しながらオレにおねだりする。
我慢の利かない仔犬ちゃんのようだ。
こよいは日に日に甘えん坊になり、オレに濃密なスキンシップを求めてくるようになった。
日を追う毎にそれは顕著になっていき、今日なんかはいつ人が来るかわからない学校の図書室でもオレからの触れ合いを求めだす始末だ。
こよいはお調子者だが根は真面目で繊月家からの情操教育も大変行き届いている。
彩戸さんというお目付け役も居ることだし。
そんなこよいが時に小さな女の子みたいにワガママに、時にご主人様が大好きな仔犬ちゃんみたいに。
とにかく全身全霊で甘えてくる。
明言こそ避けてはいるものの、オレに構ってもらう為なら身体を許すことすら辞さない……いや、むしろエッチという究極のスキンシップを取ることでもっと自分に夢中になってもらいたい。そんな気持ちがビシバシ伝わってくる。
そんな風に小悪魔の様に誘惑されてしまったら彼女の全てが欲しくて堪らなくなる。
オレだって彼女に本気で恋してる思春期の男子なんだから。
それにこよいがこんなにも必死にオレに触れられたがっているのは、オレとの特別な思い出を欲しがっているからではないのか?
16歳の少女、繊月 こよいの一夏の思い出をもっと鮮やかに残したいと思っているのでは?
こよいの思い悩んでいることとはこのことなのでは?
もし違っても、こよいとの絆が確固たるものになればきっと悩みを打ち明けてくれるし、一緒に乗り越えてもいけるはずだ。
こよいの為にしなければいけないことは甘えてくるこよいをたしなめる事か?
これらの疑問を踏まえた上で、オレがこよいにしてあげられることは……。
きっと、こよいの熱情に応えること。
その事に思い至った時、オレの理性のストッパーが徐々に外れていった。
脳みそが灼けついた様に熱を放つ。
青い衝動に突き動かされ、こよいに触れようと手を伸ばしかけたその時。
オレの中の冷静な部分がこよいのある言葉を思い出した。
『罰ゲームはぁ♡ 「こよい、大好き」 って100回言うことで~す♡』
もしかしてこよいってオレにもっと好きって言われたいだけなんじゃ?
その為にあんなギリギリな誘惑をしてまでオレに甘えたんじゃ?
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何だか急に頭がクリアになった。
というか今さっきまでのムラムラしていた自分が恥ずかしくなった。
いや、こよいもオレと結ばれたいとは思ってくれているだろうけどね?
さっきの推理も別に間違ってはいないだろうし。
でもまずは約束を果たすのを優先しなければ。
だってこよいが自分の口から直接オレにおねだりしてくれたことなんだから。
そうと決まれば一刻も早く100回好きだよって言ってあげなくては!
オレはベッドに腰掛けてこよいを手招きする。
「こよい、オレのお膝に座ってごらん? 約束のご褒美をあげるね」
「ベ、ベッドぉ♡ ってことは、さ、さっきの続きをしちゃうんだよね、さ、三五♡」
フラフラ~ッと近寄って来たこよいをお膝の上に座らせて、背中を優しく撫でてあげる。
こよいのスベスベほっぺに自分の頬を擦り寄せて言葉を紡ぐ。
「こよい、大好きだよ」
「ふあぁぁん♡ 嬉しいぃっ♡」
「誰よりも好きだよ。大 ・ 大 ・ 大好きだよ、こよい」
「嬉しいぃっ♡ 嬉しいぃっ♡」
「可愛い可愛いオレだけのこよい、大好きだ。心の底から大好きだよ」
「ふあぁぁ♡ ……って、待って! 待って下さい! 三五さま! イケメン世界一の三五大明神さまあぁぁんっ!」
おや、どうしたんだろう。
こよいのお顔が林檎みたいに真っ赤っかだ。
お目々もグルグルしてる。
「あ、あのね! スッッゴく嬉しいんだけど、三五はさっきの続きをしなくても良いの!? もうね、こよいはね、三五の言うこと何でも聞いちゃうよっ!」
「100回大好きって言うって約束したからね。オレがこよいとの約束を破るワケないでしょ? こよいもちゃんと聞いててね」
「うひいいぃぃ♡」
というか、言ってるウチに使命感すら湧いてきたぞ。
だってこよいは男の子の身体で産まれてきてしまった為に今まで女の子扱いされたことがなかったんだから!
何を当たり前のことをと思われるかもしれないが、だからこそ肝要なんだ。
こよいが最初から女の子に産まれてきていたらオレを含めた皆からもっともっと可愛がられていたに違いないんだから。
もしかしてそんなやるせない想いが悩みに関係しついるのでは?
ならばこのオレが16年分可愛がってあげねば!
むしろオレだけが美少女こよい姫を可愛がって差し上げられるんだ!
そのことに限りない喜びを感じる。
1回1回、初めての告白をするように愛の言葉を囁く。
「好きだよ」 「大好きだよ」 「可愛いよ」 「愛してる」
囁く毎に腕の中のこよいがうひゃ~とか、うにゃ~とかいう嬉しい悲鳴を上げながらモゾモゾする。
特に 「愛してる」 がこよいの琴線に一番刺さったようだ。
「も、もっとぉぉ♡ 愛してるって♡ 愛してるって言ってぇぇ♡ 何でもするからぁぁ♡ わたしの全部を貴方にあげるからぁぁぁぁ~っ♡」
「愛してる。愛してるよ、こよい。オレは君のことを世界で一番愛してる」
「ひいィィ~ッ♡ ひいィィ~ッ♡」
回数を重ねていくと段々とこよいの身体から力が抜けて、全身の筋肉が弛緩したみたいにデロ~ンとなっていった。骨抜き状態だ。
表情も恍惚としているというか、目の焦点があっていない?
や、やり過ぎたか?
「こ、こよい、大丈夫?」
「にゃめぇぇ♡ にゃんか、の~からきもちぃのがジュワ~ってしてトんじゃうにょぉぉぉ♡」
ヤベぇ! 何言ってるかわかんねぇ!
か、回復するまでこのまま抱っこしていよう。
でも 「お休みのキスも一杯する」 って約束もしたんだよな。
どうしようか……。
取り敢えず軽くほっぺにちゅっ、ちゅっ、ちゅ、とキスしてみた。
「ふに゛ゃあ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁ♡ …………………………あっ♡ ぷっしゅううぅぅ~~♡」
こよいが盛大に奇声を上げて、挙げ句の果てには失神した!
「大好き」 がキマった状態の今のこよいはメチャクチャ敏感なんだ!
大惨事だぁ~!
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ま、まあこれで今日オレが帰った後にこよいが何かを思い悩むことはないだろう。
うん、OKOK。
もしかしたらこよいの欲求不満もスカッと晴れて、明日起きたら悩みもパ~ッと晴れてる……何てことになる可能性もなきにしもあらず……?
でも、本当にそうなってくれたら良いと思う。
その為だったらオレはこよいの為に何だってしてあげたい。
コンコンコンッ。
「お嬢ちゃま~? 三五ちゃん~? ねえ、帰ってるの~?」
彩戸さんがドアをノックしてる。
うん、後のことは彩戸さんにお任せしよう。




