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第55話 繊月 こよいと寄り添いラブラブデート [学園篇] 人の巻

 黙々と勉学に集中しているとやがてドキドキとしていた心臓が平静を取り戻し、心拍音も耳に届かなくなった。図書室に再び静寂が戻ったのだ。


 聞こえるのはカリカリ、カリカリとペンの進む音だけ。


 こんなに穏やかな気持ちでまったりと進められる勉強は全く苦痛じゃない。

 むしろ楽しくすらある。

 自分のペースで好きな所を勉強できるんだから。


 そもそも勉強するのが辛いなんて、本来おかしな話だ。

 他人から勉強するように急かされたり、テストで優劣をつけられ滅茶苦茶良く出来る生徒と比較されたりしなければ、誰だって勉強が嫌いになったりなんてしない。


 それに何といっても可愛いこよいと勉強出来るんだからね。

 しかも今日のこよいは女子高生仕様! 

 つまりJKこよいとの高校生活を疑似体験出来るのだ! 

 う~ん、バーチャルリアリティ!


 エッチなお遊びでドキドキと忙しく動いていた胸に、今はじんわりと嬉しさが満ちてきて心地良い。

 ん? 何だかこよいも嬉しそうにオレの方を見ているぞ。


 「どうしたの? 何だか嬉しそうだね、こよい」


 「だって三五が何だか嬉しそうだから」


 そう言ってにこ~っと微笑んでくれるこよい。


 良い雰囲気だ。

 余計な言葉はオレ達にはいらない。

 時折暖かい視線を交わし合いながら、しばらくそのまま勉強に励んだ。


 オレがキリの良い所まで問題を解いたタイミングでこよいが声を掛けてくる。


 「ねぇ三五、わたし達の教室まで行ってみない?」


 「イイネ。女子高生のこよいとクラスメイトごっこだね!」


 健全なお遊びだ!

 図書室が閉まる夕方までずっと勉強してるってのも味気ないしね。

 せっかくの機会なんだし。さあ、教室へGO!


 午前中にはクラスメイト達の喧騒で溢れていた教室に、今はオレとこよいの二人だけで入る。


 オレの席とこよいの席は隣同士だ。

 仲良く同時に席につく。

 午前中にはカラッポだったこよいの席が埋まると、何だか安心する。


 「ねえ~三五ぉ~♪ 教科書忘れちゃった~♪ 見してぇ~♪」


 何か新しいお遊びが始まった。

 机をくっつけて真ん中に教科書を広げる。良くある光景だね。


 こよいってばイスも限界まで近づけて、身体をピッタリ寄せてくる。


 「えへへ~♡」


 すごく満足そうなこよい。これがやりたかったんだよね~♪ って表情をしてる。


 本当に大したことじゃないのに、オレの方もすごく嬉しい。何故か達成感すら感じる。

 その調子で二人で色々なごっこ遊びをしてみた。


 「転校生の繊月(せんげつ) こよいです。あなたはっ! 今朝わたしを助けてくれたカッコいい男の子っ! 一緒のクラスだったのね♡ 嬉しい~♡」


 「オレ高波 三五っていうんだ! オレも可愛いこよいちゃんと一緒のクラスで嬉しいよ! 後で学校案内させてね!」


 もしこよいが転校生だったら……というシチュエーションを演じてみたり。


 「えぇ~! わ、わたしが劇でお姫様の役を~っ!? どうしよ~う? 三五が王子様役だったらやっても良いかも~♡ チラチラッ♡」


 「オレが王子役!? う、う~ん、こよいのお姫様が見たいし、思いきって挑戦してみようかなっ!」


 今のはこよいが文化祭の劇のヒロイン役にクラスの皆から推薦されるシーン。


 実際はオレとこよいが誰も居ない教室でハシャいで二人で盛り上がっているだけだ。

 だけど、それが妙に楽しくて心が満たされた。


 こよいが普通に女の子として生まれてきたら見られた光景が、ごっこ遊びという形でも見えたから。

 だからこんなにも嬉しい笑いが込み上げてくるのかな。

 二人で学校あるあるシチュエーションを思いつく限り演じてたっぷり笑いあう。


 「あ~面白かった♪ ねえ三五、屋上にも行ってみましょ♪」


 そろそろ夕方だし屋上から夕陽が見られるかもね。良い提案だ。


 教室から出て屋上に続く階段を上がる。

 扉を開けて屋上に出ると、空には綺麗な夕陽が昇っていてオレ達の街をオレンジ色に照らしている。

 これはなかなかの絶景だ。


 こよい、夕陽が綺麗だよ。一緒に見よう。

 オレがそう口に出そうとした時……。



 「三五せんぱいっ!」



 こよいからそう呼び掛けられた。

 せんぱい? さっきのお遊びの続きかな? 


 そう思って振り返って、ハッとした。

 こよいが真剣な表情でオレの顔を見つめていたからだ。


 「三五せんぱいっ! 好きですっ!」


 好き。恋人になってからこよいに毎日言われている言葉。

 だけど制服姿のこよいに夕方の屋上というシチュエーションで言われたら、不意打ちで胸がドキンと高鳴ってしまう。


 思えばオレは今、人生で初めて告白ってヤツをされているんだ……。


 「これ読んで下さいっ!」


 こよいから手渡されたのはハートのシールが貼ってある可愛らしい便箋。

 生まれて初めてのラブレターだ。


 ハートのシールを丁寧に剥がして、中の手紙を拝見する。


 『三五すきすき♡ 大大大大だ~いすき♡ ず~っとず~っと一緒に居てね♡』


 走り書きでそう書いてあった。

 きっと図書室で勉強している時にこっそり用意してくれたんだ。


 「ありがとう、こよい~っ!」


 「きゃあっ♡」


 オレはこよいをぎゅ~っとだっこする。


 「オレもこよいが好きだっ! ずっとず~っと一緒に居ようっ!」


 「嬉しいぃっ♡ せんぱぁぁいっ♡ 告白成功しちゃったぁ♡」



 オレとこよいは学校での一時をたっぷり楽しんだ。


 バーチャルJKであるこよいとのバーチャル高校生活は束の間の夢の様なものだったけれど、充分にオレ達の心を暖めてくれた。


 そして二人で帰り道を歩いている今も。


 「少し回り道して帰ろうか、こよい」


 「うん♪ 三五♪」


 好きな女の子と手を繋いで下校する。これも青春の一ページだよね。


 オレ達はこよいのお家までの帰り道を、ゆっくり、ゆっくりと噛み締める様に歩いたのだった。

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