第54話 繊月 こよいと寄り添いラブラブデート [学園篇] 地の巻
スカートめくり遊びしましょ。
オレの脳と耳が欲望で腐ってなければ確かにそう聞こえた。
悩ましい誘惑の言葉を紡ぎだしたその美少女は一見するといかにもな文学少女で、男と情を交わす事を詩や文学を通してしか知らないようにも見える。
だが、その美少女はオレの恋人だ。
黒ブチ眼鏡の奥の瞳は怪しげな光を放ちつつもオレの姿を真っ直ぐ捉えて放さない。
匂い立つ色気に頭がクラクラしてきた。
髪型も制服の着こなしもカッチリしているのに、こんなに色っぽいなんて……。
スカートの丈だって膝まで隠れるくらいあるのに……。
ス、スカート。スカートめくり……。
「ス、スカートめくりって言った?」
「うん♡ スカートめくり遊びしましょう♡ 楽しいよぉ♡」
心臓の音がドックン! ドックン! と爆音を立てる。
オレは、オレは……っ。オレは誘惑に抗えず、勉強の為に持ってきたハズの辞書や問題集などで、他人からの視線を遮る用途のバリケードを築いてしまう。
ああ~! 菅原道真公~! ごめんなさい~! バチを当てるのはどうかご勘弁下さい~! 受験の時に志望校に落としたりしないで下さい~!
「ど、どうすればいいの?」
「んふ♡ ルール説明するねぇ♡」
オレが乗ったと見るや否や、こよいは身を乗り出してオレの耳に唇を寄せた。
そして、優しく囁くんだ。
「あのね♡ 三五はわたしのスカートを、好きなだけめくって良いの♡」
何と!? こ、こよいのスカートがめくり放題とな!? 大丈夫!? こよい、理性大丈夫!?
「それでね~♡ めくっていって、ショーツがチラッ♡ と見えたら負 ・ け♡ 罰ゲームで~す♡」
な、なるほどね! 良かった。こよい、理性大丈夫だった! ギリギリだけど! うんうん。オレが興奮しすぎてショーツが見えちゃったらキッツい刑罰が与えられる訳ね! 棒で百叩きかな? 水垢離を三時間くらいかな?
「罰ゲームはぁ♡ 「こよい、大好き」って100回言うことで~す♡」
大丈夫じゃなかったぁぁぁ! それ、こよいが言って欲しいセリフじゃん!
ガンガンにスカートめくらせたがってる! オレを興奮させたがってるんだ!
それで静かにしなきゃいけない図書室で目一杯に愛の言葉を囁かれたいんだ……!
オレの理性が徹底的に揺さぶられてるぅぅ!
「上手にめくれたらご褒美にわたしのフトモモを撫で撫で♡ してい~んだよぉ♡ 楽しそ~でしょ♡」
「ううぅぅぅ……」
た、楽しそう! 正直なトークをすればめっちゃやりたい!
だが再三言うが、ここは図書室! 図書委員だって居るのに……。
「zzz……」
はっ! な、何だ!? 静かな図書室に寝息!? まさか!?
「zzz……フゴゴゴ……」
彼女はイビキをかいて寝ていた! それで良いのか図書委員! 色んな意味で!
「これで誰にも邪魔されないね♡ はぁいゲームスタートぉ♡」
「うっ、ううう……」
甘いこよいの声に逆らえず、催眠術にでもかかった様に手がこよいのスカートの裾に伸びてしまう。
指が裾をつまんで、じっくりじっくりと持ち上げていく。
「ふぁぁ……♡」
持ち上がったスカートの裾から、こよいの可愛らしい膝が見えてドキッと跳ねた。
長いスカート丈だ。めくり甲斐がある……などと言ったらアブノーマルな感じがするな。うう~っ。ドキドキする。
ああ、オレは人の居ない学校の図書室で、清らかでいかにも文学少女然としたこよいのプリーツスカートをめくっているんだ。
こ、興奮が過熱しすぎて手先に痺れを感じる。て、手が滑ったらどうしよう……!
じわじわ、じわじわとスカートがめくられていき、チラチラ~っとフトモモが見えてきた。
「うわぁぁっ♡ さ、三五にスカートめくられちゃってるよぉぉ♡ ふわぁぁぁ♡」
こよいも大興奮してる!
モジモジと擦り合わされる白いフトモモにオレの視線と意識が集中してしまう。
結構めくったのに意外とショーツって見えないもんだな……も、もう少しめくっても大丈夫かな……。
「あっあっあ~っ♡ 見えちゃうよぅ~♡」
うおおおお!
こよいの声に拒絶の色は全くない。それどころかただひたすらに甘く、オレに求められる喜びに満ちている。
いいの? いいんだねっ? こよいぃ~っ!
はっきり言う! こよいのショーツ見たいぃっ! 本当にあと少し手をスライドすれば見えちゃうっ! 見えちゃいけないものがっ!
図書室でこんなにイケない遊びをしているという、その事実。
それがただでさえ頭がおかしくなる程の興奮を更に助長して、大変な事になっている。
視野は狭窄し、バクバクの心拍音で周りの音が聴こえない。
ってちょっと待て! 今の状態で図書室に人が入ってきたら、オレは気付けるか!? こよいのあられもない姿が他人に見られるかも知れない!
こよいを守らなきゃ!
そう思った途端に思考が少しクリアになり、手に血が巡って痺れが取れた。
「あぁん♡ 三五ぉ♡ 焦らさないで♡ 三五の好きにしていいのよ♡」
こ、こよいぃ~っ! せっかくほんの少し冷静になれたのに、またも誘惑する言葉を~っ! 可愛くて妖艶過ぎるぅ~っ!
世界一の美少女にこんな事言われたら魔が差してしまう……って待てよ。
オレにとってこよいが世界一の美少女なら、こよいにとってはオレは世界一のイケメン……って事になるらしい。不思議な気分だけど。
それならば逆にこちらからの誘惑も効くハズだ。
露になったこよいのスベスベのフトモモにポンと手を置いてオレは彼女の耳元に囁く。
「こよいの脚って綺麗だね。それにとってもスベスベだ」
「あっあっ♡ い、いっぱい撫で撫でして良いんだよ? だ、だってご褒美だから♡」
ゾクゾクッと身震いしながらもこよいの肢体は弛緩したまま、オレのされるがままだ。
いや、オレの方からいっぱい触れられたい。いっぱい可愛がられたい。そう思っているのだ、こよいという娘は。
「今日の朝は寂しい想いをさせちゃったもんね。オレにいっぱい構って欲しいんだね、甘えんぼのこよいちゃん♡」
内面の必死さを悟られないように余裕を持った表情を作り、こよいのオデコに自分のオデコをコツンとくっつける。
イメージは少女マンガに出てくるイケメン風。
「クウゥゥ~~ン♡ か、カッコ良いぃぃぃん♡ そ、それにこよいのこと何でもわかっちゃうんだね、三五♡」
「うん、勿論さ。でもね、学校でエッチな遊びをするのはやっぱり止めよう? もし万が一にでも他の男にこよいの恥ずかしい姿を見られたらって思うと、オレは気が気じゃないよ」
「えっ、えっ。でもぉ……ぅぅ~。わたしぃ~」
わかってる。甘えたい気持ちが抑えられないんだよね?
だからオレはこよいの唇に一秒間キスをする。
チュッとリップ音を立てて唇を離したら、こよいを大事にしたいという強い決意を顕した瞳で彼女を見つめる。
「良い子にしてたらおやすみのキスの時いつもよりたっぷり可愛がってあげるし、好きだよって100回でも200回でも言ってあげる。だからオレの言うことを聞きなさい。良いね?」
「は、はひぃ……♡ わかりましたぁ……♡」
ぽやぁぁんとした瞳になりながらも、オレの言う事を聞いてくれたこよい。
よ、良かった~。
大人の男が年下の恋人を優しくたしなめる……みたいなイメージで語りかけたら上手くいった。
納得してくれて良かった~。
ああ~精神が削られた~。
勉強しよう。勉強すれば落ち着けるから。
夏休み前のオレが聞いたらビックリ仰天するようなことを思いながら、オレは机に向かったのだった……。




