第52話 繊月 こよい サプラ~イズ☆
学校を出た後は休まずダッシュしてこよいのお家に向かう。
到着時刻は正午の10分前。良いタイムだ! インターホンに元気良くタッチ!
ああ、こよいに早く会いたい!
リンゴーン♪ リンゴーン♪ リイィンゴォン♪
『お帰り~、三五ちゃん。今開けるわね~』
あれ、彩戸さん!? こよいは!? てっきりこよいがお出迎えしてくれるものだと思い込んでいた。
タッタッタと駆け足で玄関に向かうと、待っていたのはやっぱり彩戸さんだけ。
あれ~? こよいは何で居ないの?
「ただいま、彩戸さん! こよいはっ!?」
「はいはい、ちょっと待ってね~」
♪ ~ ♪ ~ ♪ ~ ♪ ~ ♪ ~ ♪ ~ ♪
はっ! どこからともなくこよいのテーマ曲 「ワルキューレの騎行」 が流れてくる!
このくだりは毎回やらないと気が済まないのか!?
彩戸さんが玄関のドアをゆ~っくり開けると、こよいの姿が現れる。
こ、こよい……? そ、その姿は……?
「お帰りなさいっ♪ 三五せんぱい♪」
こよいの格好が余りに意外だったもので、一瞬時が止まってしまう。
その格好はただ可愛らしいだけではなく、オレにとっては馴染みがあってある種の感動をも呼び起こす衣裳だったからだ。
その格好とは……。
「た、ただいまこよい……。えっ!? な、何でウチの高校の制服着てるの!? それも女子の!」
そう、今日のこよいは女子の半袖ワイシャツにサマーカーディガンを着て、プリーツスカートをはいていた! 何で!? わざわざ買ったの!? いやそれはそれとしてこの格好は素晴らしいぞ。
キチッと校則通りに着こなした制服は可憐さと清楚さを見事に両立させている。
靴もちゃんとローファーで白のハイソックスをはいている。
スカートの丈は膝上10センチ。う~ん悩ましい。
よく見ると制服のサイズがこよいにはちょっと大きいみたいだ。
でもそれがかえって後輩らしさを演出し、可愛らしさを増している。
髪型は後ろをゆるくシュシュでまとめて、前髪にはいつもの三日月バレッタ。
ティー ↑ ンズらしいイキイキとした印象だ。
「すっごい……こよいの制服姿……めっちゃ可愛すぎる……」
半ば呆然としたオレの口から感想がポロっと溢れると、こよいは心底嬉しそうにニコ~ッと笑ってオレに飛び付いてきた。
「キャーッ♡ 嬉しい~♡」
「わわっこよいっ」
オレ、制服姿のこよいに抱き着かれてる! こ、これは新鮮な感覚だ!
オレもこよいの背中に手をまわしてみる。
うわ~。手にこよいの華奢な身体を包んだ制服の感触が……。女子高生のこよいを抱き締めるのってこんな感覚なんだ……。
「ちょっと~二人共~。その制服丁寧に扱ってよね~。私の思い出が詰まってるんだからね」
「えっ? これ彩戸さんの制服なの?」
「そうよ~。忘れてない? 私ってば、アンタ達の学校のOGよ」
そういえばそうだった。前に彩戸さんがこの制服着てたんだ。その時はバッチリ決まってて格好良いなって思ってたっけ。
着る人によってこんなに印象が変わるなんて、制服って不思議だな。
「それよりお昼ご飯にしましょ。今日は私特製のベーグルサンドよ」
「「はーい」」
今日のお昼は趣向を変えて庭園のテラスで頂く。
ベーグルサンドにはツナと野菜を挟んだものや、サーモン、クリームチーズ、ベーコンなどを挟んだもの、ブルーベリージャムがたっぷり塗られたものなんかがあり、とっても美味しそう。
だけど今のオレはベーグルサンドに目移りしたり、噴水や庭園の花の美しさに目を奪われたりすることはなかった。オレの視線は自然にこよいの制服姿に吸い寄せられてしまうからだ。
「うふふ♡ 三五、わたしの制服姿、気に入ってくれた?」
「うん、とっても可愛くて似合っているし、何より……」
「何より?」
「女の子のこよいと一緒に高校には通えないから。だから、嬉しいサプライズだったよ」
「三五……」
こよいが何かを考え込んでしまう。しまった。余計な事を言ってしまったかな。
こよいが俯いてしまった……と、思ったらガバッと顔を上げた。
「さ、三五っ! わたし、三五と学校に行きたい! この格好で!」
「ええっ!?」
こよいからの意外な提案。まあ確かに今の格好なら学校に居ても違和感なく溶け込めるだろう。
でも良いのかな。今のこよいが他の生徒に見つかったら、あれ? あんな可愛い生徒ウチに居たっけ? という感じに騒ぎにならないかな。
「やっぱりダメ?」
ああっ。オレが迷ったせいでこよいがシュンとしてしまった。
いや、待てよ。そういえば今日配布されたプリントに何か良いことが書いてあったハズだ。
先生から預かったプリントをこよいに渡す。
「こよい。これ、今日学校でもらったプリントだよ。ここを見てみて」
「なあに? え~っと、図書室開放のお知らせ?」
今日から始業式までの間、平日のお昼から夕方まで図書室が開放されるというお知らせだ。
図書室は空調も効いているし、例えば夏休みの宿題がまだ終わってない場合などに利用するには持って来いだ。
でも何故だろう。とても有意義なお知らせなのに、学校からのこういうサービスを利用する生徒は実は余り居なかったりする。
夏休みにわざわざ制服着て学校まで行きたくないのかな。
現にオレ達も今まで利用したことなかったし。
でもそこが狙い目だ。
「お昼ご飯食べたら学校の図書室でお勉強しに行こうか? きっと人はそんなに居ないと思うよ」
「うわぁぁ♡ 三五ってばナイスアイディア♡ そうしましょそうしましょ~♡」
こよいのお顔がワクワクで輝きだす。
さて、そうと決まればベーグルサンドをゆっくり味わうとしますか。
夕方まではたっぷり時間もあるし、まだ学校に残っている生徒も居るだろうからね。
JKこよいとの秘密の学校訪問か……これはドキドキものだね!




